名前を選び直す者
門をくぐると、そこは不思議な広場だった。
空には無数の星が浮かび、地面には白い紙が何枚も並んでいる。
中央には、大きな石碑があった。
【名前を選び直す者】
失われた名前の少年は、石碑の前で立ち止まった。
「ここで……僕の名前を選ぶの?」
記録者が本を開く。
「そのようです。ただし――」
ページに文字が浮かぶ。
【名前は、誰かから与えられるものではない】
【名前は、自分がこれから進みたい方向を表すもの】
少年は白い紙を見つめた。
ミチが声をかける。
「焦らなくていいよ」
「うん」
少年は紙の前に座った。
鉛筆を握る。
だが、何も書けない。
「……分からない」
悠真は尋ねた。
「今、君が一番したいことは?」
少年は少し考えた。
「……知りたい」
「何を?」
「僕が何者なのか。僕がどこへ行くのか。そして……みんなと、これから何ができるのか」
その瞬間、紙に一文字だけ浮かんだ。
【知】
しかし少年は首を振った。
「これは……違う気がする」
すると文字は消えた。
アカリが微笑む。
「間違えても大丈夫なんだね」
「うん。名前を選ぶこと自体が、未来を探すことだから」
少年はもう一度考える。
すると、遠くから声が聞こえた。
「こっちだよ」
振り向くと、そこにはソラがいた。
「僕はソラって自分で決めたんだ」
アオもやって来る。
「僕も、自分でアオって選んだ」
ミチは笑う。
「僕は、道を探し続けるからミチ」
三人の名前を聞いた少年は、静かに頷いた。
「……僕も、自分で決めたい」
少年は紙に文字を書こうとする。
一画。
二画。
三画。
しかし途中で手が止まった。
「まだ……決められない」
紙は何も言わなかった。
その代わり、少年の胸の紋章が光った。
【名前――未定】
そして新しい文字が浮かぶ。
【名前を決めないことも、自分で選んだ未来である】
悠真が笑う。
「それなら、それでいいんじゃない?」
少年は驚いた。
「……いいの?」
「もちろん」
二人の仮住民の少年も頷く。
「僕たちもまだ決めてない」
「名前がないままでも、一緒に歩けるよ」
少年は初めて、心から笑った。
その瞬間、空に巨大な星が生まれた。
星には名前ではなく、
【これから】
という文字が浮かんでいた。
記録者が記す。
【第十二の歴史――名前を選び直す者】
【名前を持つことも、持たないことも、自分自身で選べる】
すると広場の奥に、新しい門が開いた。
【第十三の歴史――これからの名前】
少年は門を見つめる。
「僕の名前は……まだ決めない」
そして悠真たちと並んで歩き出した。
その瞬間、門の向こうから声がした。
「それなら――」
「次は、名前ではなく『自分の未来』を選んでみよう」
門の先には、まだ誰も見たことのない世界が広がっていた。




