名前を選ぶ
第九の歴史――名前を選ぶ者。
巨大な扉を抜けると、そこには不思議な広場が広がっていた。
中央には大きな泉。
その周囲には、無数の白い紙が浮かんでいる。
一枚一枚の紙には、名前を書くための空白があった。
「ここが……名前を選ぶ場所?」
ミチが尋ねる。
記録者が本を開く。
「そのようです」
本のページには、こう記されていた。
【名前を選ぶことは、未来を一つに決めることではない】
【名前を選んだあとも、未来は変わり続ける】
ソラが泉をのぞき込む。
すると、水面にソラ自身の姿が映った。
「名前を変えることもできるの?」
悠真が考える。
「たぶん……できるんじゃないかな」
すると泉から声が響いた。
「名前とは、変わってはいけないものではありません」
全員が泉を見る。
水面に文字が浮かんだ。
【名前は、その時の自分が選んだ言葉】
【未来が変われば、名前の意味も変わる】
「じゃあ、名前ってずっと同じ意味じゃないんだ」
ミライが言う。
「そうだね」
悠真は頷いた。
「自分が変わっていけば、名前に込める意味も変わっていく」
そのとき、広場の端にいた一人の光が前へ進んだ。
「ぼくも……名前を選びたい」
光の前に白い紙が現れる。
【名前を入力してください】
光は長い間考えた。
「……アオ」
紙に【アオ】と刻まれる。
光が少年の姿になった。
「僕は……アオ」
ソラが嬉しそうに笑う。
「よろしく、アオ!」
「うん!」
二人が手を振り合う。
すると、二人の間に小さな道が現れた。
記録者が驚く。
「名前を選んだ二人の間に、つながりが生まれました」
ハジメが道を見る。
「名前を呼び合うと、道ができるんだ」
ミチも一歩進む。
「じゃあ、僕も……」
しかし、ミチは自分の名前を見るだけで、何も書かなかった。
「僕はもうミチっていう名前を持ってる」
悠真が尋ねる。
「その名前、好き?」
ミチは少し考えた。
「うん。僕が自分で選んだ名前だから」
その瞬間、ミチの名前が輝く。
【ミチ――選び続ける者】
そして、広場の奥へ一本の道が伸びた。
「道……?」
ミチが驚く。
記録者が読む。
【名前を選んだ者は、自分の未来への道を生み出す】
ミチはその道を見つめた。
「でも、道の先が見えない」
「だから面白いんじゃない?」
悠真が笑う。
「未来は最初から全部見えていたら、選ぶ意味がなくなるから」
その言葉に、二人の仮住民が顔を見合わせた。
最初の少年が、自分の紙を見る。
【未】
もう一人は、
【??】
「僕たちは……まだ名前を選べない」
「うん」
「でも……いつか選べるかもしれない」
二人の紙に、小さな文字が現れた。
【名前――選択可能】
二人は驚いた。
「選べるようになった!」
ミチが笑う。
「でも、今すぐ決めなくてもいいよ」
「どうして?」
「だって、自分で選ぶなら、自分が納得したときに選びたいでしょ?」
二人は頷いた。
すると泉が大きく輝いた。
空に巨大な文字が浮かぶ。
【第九の歴史――名前を選ぶ者】
その下に、さらに新しい文字が現れた。
【名前を選んだ者には、未来への道が生まれる】
【名前をまだ選ばない者にも、未来への時間は流れる】
そして――。
広場の中央に、今までなかった巨大な時計が現れた。
時計の針が動く。
一秒。
二秒。
三秒。
トキが時計を見つめる。
「この時計……普通の時間じゃない」
「何が違うの?」
悠真が尋ねる。
トキは答えた。
「名前を選ぶたびに、時間の進み方が変わっている」
その瞬間、時計の文字盤に新しい表示が現れた。
【第十の歴史――名前と未来】
悠真たちは顔を見合わせる。
「名前と未来……」
ハジメがつぶやく。
「次は、名前を持ったあとに、どんな未来を選ぶのか……なのかな」
巨大な時計の奥で、扉が開き始めた。
その扉の向こうには、無数の道。
そして、その道の先には――。
まだ誰も見たことのない未来が広がっていた。
二人の仮住民も、その景色を見つめる。
名前はまだない。
けれど二人は、もう知っていた。
いつか自分で名前を選ぶ日が来る。
そして、その日までの時間もまた――。
自分たちの未来の一部なのだと。
第九の歴史が終わり、第十の歴史が始まろうとしていた。




