もう一人の仮住民
「君を待っていたんだ」
誰もいないはずの町の家から現れた少年。
悠真たちは驚いて、その少年を見つめた。
少年の胸元にも、あの仮住民紋章が光っている。
「君も……仮住民なの?」
ミチが尋ねる。
少年はうなずいた。
「うん。でも、僕も自分が何者なのか分からない」
「名前は?」
「ないよ」
その答えに、先ほどの少年が目を丸くする。
「僕と同じだ……」
「そうみたいだね」
二人の少年が向かい合う。
すると――。
二つの仮住民紋章が同時に輝いた。
ピカッ!
町全体が揺れる。
「何だ?」
悠真が周囲を見る。
建物の壁に文字が浮かび始めた。
【第一の未来――誰かと暮らす】
【条件:一人ではないこと】
ミチが気づく。
「この町は、一人で暮らす未来じゃないんだ」
アカリが周囲を見回す。
「じゃあ、この二人が出会ったこと自体が未来なのかも」
イマが笑った。
「今、この瞬間に二人の未来が重なったんだね」
記録者が本を開く。
「記録が更新されています」
本のページには、こう書かれていた。
『名前のない者同士が出会った』
その下に、さらに文字が現れる。
『二人は互いの名前を知ることができるか?』
「名前を……知る?」
最初の少年が考え込む。
「僕には名前がない。でも……君の名前なら、考えられるかもしれない」
もう一人の少年も頷く。
「僕も君の名前を考えてみたい」
悠真が言った。
「でも、勝手に決めちゃダメだよ」
「うん」
二人は顔を見合わせた。
そして同時に笑った。
「じゃあ、お互いが自分で選んだ名前を教え合おう」
二人は町の中央にある広場へ向かった。
そこには二本の木が立っていた。
一本には、
【あなたが決める名前】
もう一本には、
【誰かが呼ぶ名前】
と書かれている。
ミチが言った。
「自分で決める名前と、誰かに呼んでもらう名前……」
トキが時計を見る。
「名前には二つの時間があるのかもしれない」
キオクが続ける。
「自分が決めた瞬間と、誰かがその名前を呼んだ瞬間」
二人の少年は、それぞれの木の前に立った。
しかし――。
どちらも名前を書かなかった。
「まだ決められない」
一人が言う。
「僕も」
すると二本の木の枝が、ゆっくりと伸びて互いに絡み合った。
そして一本の葉が生まれる。
【まだ決めない】
ミチが笑う。
「それも選択なんだね」
悠真も頷く。
「うん。名前を決めないことも、自分で選んだ未来だ」
その瞬間、二人の仮住民紋章が変化した。
【仮住民】
↓
【未来候補】
記録者が驚く。
「二人とも、未来を持ち始めています」
さらに空を見ると――。
【???】だった星が、二つに分かれていた。
一つは最初の少年の星。
もう一つは、新しく現れた少年の星。
そして二つの星を結ぶ細い光が生まれる。
キボウがその光を見上げる。
「未来って、一人分だけじゃないんだね」
オボロが静かに答える。
「誰かと出会えば、未来そのものが増える」
そのとき、町の奥から鐘が鳴った。
カァン……。
新しい道が現れる。
そこには、
【第二の未来――未知を探す】
と書かれていた。
最初の少年が一歩前へ出る。
「僕たち、行ってみたい」
もう一人も頷いた。
「うん。名前を決める前に、もっと世界を見てみたい」
悠真は二人を見る。
「じゃあ、一緒に行こう」
二人の少年は笑った。
しかし、二人が歩き出した瞬間――。
空に新しい文字が浮かび上がった。
【第六の歴史――二つの未来が出会った】
そしてその下に、さらに小さな文字が現れる。
【第七の歴史――名前を持たない者たち】
悠真たちは空を見上げた。
「……第七の歴史?」
第∞+3世界は、まだ誰も知らない歴史を次々と生み出し始めていた。




