三つの影
白い湖の前で、一行は足を止めていた。
湖面には、仮住民の少年の姿が映っている。
しかし――。
その姿には、三つの影が重なっていた。
「一つは今の僕……」
少年が湖を見つめる。
「もう一つは、知らない誰か。そして最後の一つは……まだいない僕?」
イマが湖面を覗き込む。
「三つとも、少しずつ違うね」
キオクが記録を確認する。
「過去の記録はありません。でも、湖には未来の可能性が映っています」
アスが尋ねる。
「じゃあ、三つの影は三つの未来なの?」
トキが時計を見ながら答えた。
「その可能性が高い」
ミチは少年の隣に立った。
「どの影を選ぶ?」
少年は黙り込んだ。
湖面の三つの影が、それぞれ違う方向を指差す。
一つ目の影は――町。
二つ目の影は――遠い森。
三つ目の影は――まだ何もない白い世界。
「どれも……僕が知らない場所だ」
少年がつぶやく。
悠真が言った。
「だったら、今すぐ選ばなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「未来が三つあるなら、三つとも見に行けばいい」
ミチも頷く。
「一つを選ぶ前に、全部知ることだってできるよ」
少年は湖を見る。
すると、湖面に新しい文字が浮かんだ。
【未来を選ぶ前に、未来を知る】
「……これなら僕にもできるかもしれない」
少年が湖に手を伸ばす。
すると――。
三つの影から、それぞれ一枚ずつ光る羽根が現れた。
町の未来からは、銀色の羽根。
森の未来からは、緑色の羽根。
白い未来からは、透明な羽根。
少年は三枚を受け取った。
「この羽根は?」
記録者が答える。
「それぞれの未来を調べるための『未来のしるし』でしょう」
その瞬間、湖の中央に橋が現れた。
橋の向こうには三本の道。
そして入口には、こう刻まれていた。
【第一の未来――誰かと暮らす】
【第二の未来――未知を探す】
【第三の未来――何もない場所から始める】
少年は三本の道を見つめる。
「全部、行ってみたい」
悠真が笑った。
「じゃあ、最初の旅が決まったな」
ミチが少年の肩を軽く叩く。
「名前を探す旅じゃなくて――」
「未来を知る旅だね」
少年は初めて、嬉しそうに笑った。
その瞬間、胸元の仮住民紋章が大きく輝く。
そして空の【???】の星から、一筋の光が降りてきた。
光は少年の前に小さな文字を浮かべる。
【未来候補――三つ】
その下には、まだ空白。
【名前――未定】
しかし、その空白の一部に、小さな点が生まれた。
記録者が静かに言う。
「名前の記録欄に、変化が始まりました」
少年は驚いた。
「僕の名前……?」
「まだ名前ではありません」
記録者は首を振る。
「でも、あなた自身が歩けば、空白は少しずつ変わるでしょう」
少年は三枚の羽根を胸に抱えた。
「じゃあ、歩くよ」
そして一行は、最初の道へ向かう。
【第一の未来――誰かと暮らす】
その先には、見たことのない町が待っていた。
だが町の入口に立った瞬間――。
誰もいないはずの鐘が鳴った。
カァン……。
町の中央から、声が響く。
「ようこそ」
「あなたが来ることは、ずっと前から決まっていました」
少年の表情が変わった。
「……ずっと前から?」
誰もいない町で、一つの家の扉がゆっくり開く。
その中には――。
少年と同じ仮住民紋章を持つ、もう一人の少年が立っていた。
「君を待っていたんだ」
第∞+3世界に、二人目の「未来」が現れようとしていた。




