名前を探す旅
「名前を探しているのなら――ここへ来てください」
門の奥から聞こえた声。
悠真たちは顔を見合わせた。
「誰の声だろう?」
ノノがそっと尋ねる。
「分からない。でも、行ってみよう」
悠真が門に手を触れる。
ギィィィ……。
巨大な門が開いた。
その先には、白い道がどこまでも続いていた。
道の両側には、たくさんの小さな扉が並んでいる。
「これは……?」
アカリが一つの扉を見る。
扉には、
【星】
と書かれていた。
別の扉には、
【海】
【森】
【空】
【未来】
【記憶】
と書かれている。
そして一番奥には、文字のない扉が一つ。
少年がその扉を見つめた。
「僕は……あの扉が気になる」
ミチが笑う。
「じゃあ、開けてみよう」
少年が扉に近づく。
だが――。
カチッ。
扉は開かなかった。
「……開かない」
トキが時計を見る。
「鍵がないようだ」
キオクが扉を調べる。
「違う。これは鍵で開く扉じゃないみたい」
記録者が静かに言った。
「扉そのものが、あなたの選択を待っています」
「僕の……選択?」
少年は考え込んだ。
すると扉に、文字が浮かんだ。
『名前とは、誰かから与えられるものか』
少年は答えられない。
悠真が口を挟もうとしたが、ミチが首を振った。
「待とう」
少年はしばらく黙っていた。
そして、小さな声で言った。
「僕は……誰かに決めてもらうんじゃなくて、自分で見つけたい」
その瞬間。
カチッ。
扉が開いた。
中には何もなかった。
ただ、床に一枚の白い紙が置かれている。
少年が拾い上げる。
そこには――
【 】
空白だけがあった。
「名前を書く紙?」
悠真が尋ねる。
少年は紙を見つめる。
しかし、ペンはない。
そのとき、空から一筋の光が降りてきた。
光は少年の手の中に入り――一本の白いペンになった。
「これで……書ける」
少年は紙にペンを当てた。
けれど、まだ書かなかった。
「……怖いんだ」
「何が?」
ミチが聞く。
「名前を書いたら、僕がその名前になっちゃう気がする」
ミチは少し考えてから答えた。
「じゃあ、今は書かなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「名前は、未来を閉じるためのものじゃないよ。自分が進む道を見つけるためのものだと思う」
少年はミチを見た。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「……ありがとう」
その瞬間、白い紙に一文字だけ浮かんだ。
【未】
少年が驚く。
「僕が書いたんじゃないのに……」
記録者が答える。
「世界が、あなたの現在を記録したのでしょう」
【未】
それはまだ名前ではない。
けれど――。
完全な空白でもなくなった。
空の【???】の星が、また少し輝きを増す。
そして、文字のない扉の奥から声が響いた。
「名前は、最後に決めるものではありません」
「歩いた道の中で――自分自身が見つけていくものです」
少年は白いペンを握った。
「じゃあ……僕、もっと歩いてみたい」
悠真が笑う。
「行こう」
一行は再び歩き始めた。
その瞬間、白い道の先に新しい景色が現れた。
そこには巨大な湖があり、湖面には無数の未来が映っている。
そして湖の中央には、一本の橋。
橋の入口にはこう刻まれていた。
【第六の歴史――自分の名前を見つける者】
少年は橋を見つめる。
「僕の名前……この先にあるのかな」
ミチが答えた。
「きっと、見つけられるよ」
しかし――。
湖に映った少年の姿には、なぜか三つの違う影が重なっていた。
一つは少年。
一つは知らない誰か。
そしてもう一つは――まだ存在していない誰か。
悠真たちは、その意味をまだ知らなかった。
第∞+3世界の「名前の旅」は、始まったばかりだった。




