第六の歴史ーー名前のない未来
第∞+3世界の町に、静かな鐘の音が響いた。
カァン……。
未来相談所の外にある大時計が、ゆっくりと動き始める。
「……始まった」
ミチが空を見上げた。
さっきまで一つだった【???】の星が、淡く明滅している。
イマが星を見つめる。
「今、何かが変わったよ」
キオクも本を開いた。
しかし、そこに書かれていたのはたった一行だった。
『第六の歴史――名前のない未来』
「名前のない……未来?」
悠真が首をかしげる。
仮住民の少年は、不安そうに自分の胸元の紋章を見た。
「それって……僕のこと?」
記録者が答える。
「おそらく、そうでしょう。しかし、まだ確定していません」
「確定していない?」
「あなたには過去がなく、現在も生まれたばかり。そして未来も未定です」
少年は少し寂しそうに笑った。
「じゃあ、僕はまだ何者でもないんだね」
すると、ミチが首を横に振った。
「違うよ」
「え?」
「何者でもないんじゃない。まだ、何者になるか決まっていないだけだよ」
少年は驚いた顔をした。
悠真も笑う。
「名前も未来も、自分で見つければいい」
その瞬間――。
少年の仮住民紋章が、ほんの少しだけ光った。
「……!」
記録者が目を見開く。
「記録に変化があります」
キオクが少年を見る。
「何か思い出した?」
「ううん」
少年は首を振る。
「でも……初めて、自分にも何かできる気がした」
すると町の中央にある未来の木から、一枚の葉が落ちてきた。
葉には文字が浮かんでいた。
【未来――自分で見つける】
ミチが笑った。
「ほら。未来ができた」
少年は葉を両手で受け取った。
「これが……僕の未来?」
トキが時計を確認する。
「正確には違う」
「え?」
「これは未来そのものじゃない。未来を探すための最初の時間だ」
アスが空を見上げる。
「未来はまだ遠い。でも、始まったんだ」
シンも静かにうなずいた。
「存在するかどうかさえ決まっていなかった君が、今は未来を探している」
オボロが言った。
「それだけで、大きな一歩だよ」
キボウも続ける。
「だから、焦らなくていい」
レインが空を見上げる。
「星だって、最初は小さな光だからね」
アカリが笑う。
「じゃあ、次は名前かな?」
少年は葉を握りしめた。
「名前……」
彼は少し考えた。
けれど、しばらくして首を横に振った。
「まだ……分からない」
ミチは笑った。
「じゃあ、今はそれでいいよ」
悠真も頷いた。
「名前が決まらない未来も、未来の一つだから」
その言葉に反応するように、大時計がまた動いた。
カチッ。
そして町の外に、新しい道が一本現れた。
道の入口には、こう書かれていた。
【まだ名前のない場所】
「……新しい道だ」
ミチが目を輝かせる。
少年も道を見つめた。
「行ってみたい」
悠真が尋ねる。
「一緒に行く?」
「うん」
少年は初めて、自分からはっきりとうなずいた。
一行は新しい道へ歩き始める。
すると、空の【???】の星が、少しだけ大きく輝いた。
記録者が空を見上げる。
「記録します」
『第六の歴史――開始』
そして、その下に新しい一文が現れた。
『名前のない未来は、誰かと歩くことで道になる』
だが――。
道の先には、まだ誰にも知られていない巨大な門が立っていた。
門には一つの問いだけが刻まれている。
『あなたは、自分を何と呼びたいですか?』
少年は門の前で立ち止まった。
そして、まだ答えられないまま――。
門の奥から、誰かの声が聞こえてきた。
「名前を探しているのなら――」
「ここへ来てください」
新たな冒険が、始まろうとしていた。




