未来を選べない者
第∞+3世界。
未来相談所の中から聞こえてきた声。
「……僕の未来も、誰かが決めてくれるの?」
悠真たちは顔を見合わせた。
ミチが本をそっと開く。
「大丈夫。ここにいるよ」
すると、本のページが淡く光り始めた。
ページの上に、一人の少年の姿が映し出された。
少年は白い服を着ていて、顔を伏せている。
「僕には、未来がありません」
ミチが尋ねる。
「どうして?」
少年は答えた。
「僕が生まれる未来が、まだ選ばれていないからです」
記録者が本を調べる。
「この存在は……住民登録されていません」
キオクも記録を確認する。
「過去にも名前がない」
イマが続ける。
「現在にもいない」
トキが時計を見る。
「未来にも、まだ存在していない……」
少年は小さくうなずいた。
「だから僕は、どこにもいないんです」
ミチはしばらく黙っていた。
そして少年に言った。
「じゃあ、僕と一緒に未来を探そう」
少年が顔を上げる。
「……僕と?」
「うん。一人で決めなくてもいいんだよ」
その瞬間、未来相談所の本が大きく輝いた。
――ピカッ!
少年の前に、三つの光が現れる。
一つ目。
【未来を待つ】
二つ目。
【誰かに未来を決めてもらう】
三つ目。
【みんなと未来を探す】
少年は三つの光を見つめる。
けれど、手を伸ばさない。
「……僕、選べません」
ミチが笑う。
「じゃあ、今は選ばなくていいよ」
「え?」
「未来を選べないことだって、未来の一つじゃないかな」
悠真が頷く。
「そうだね。『今は決めない』という選択もある」
すると三つの光が一つに重なった。
【未来――未定】
少年の胸に、小さな紋章が浮かぶ。
記録者が驚く。
「仮住民紋章……!」
ハジメが近づく。
「名前は?」
少年は首を横に振った。
「まだありません」
ミチが笑う。
「じゃあ、名前も一緒に探そう」
その言葉に、少年の表情が初めて明るくなった。
未来相談所の壁が開く。
その向こうには、無数の道が広がっていた。
街へ向かう道。
森へ向かう道。
海へ向かう道。
空へ向かう道。
そして、まだ誰も歩いたことのない道。
少年はその道を見つめる。
「僕……この先を見てみたい」
悠真が答える。
「それなら、もう未来は始まってるよ」
少年が一歩踏み出した。
――その瞬間。
未来の木に、新しい葉が生まれた。
そこには、
【第五の歴史――未来を選べない者も、未来を持つ】
と刻まれた。
さらに、少年の前に小さな道標が現れる。
【名前を探す道】
少年は道標を見つめる。
「僕の名前……自分で見つけてもいいのかな?」
ミチが頷く。
「もちろん」
少年は初めて笑った。
「じゃあ……探してみます」
その瞬間、遠くの空に新しい星が現れた。
星の下には、まだ誰にも読めない文字。
――【???】
そして未来の木のさらに奥で、
第∞+3世界ではまだ存在しないはずの――
「第六の歴史」の鐘が鳴り始めた。
ゴーン……。
ゴーン……。
悠真たちは顔を上げる。
新しい歴史が、また始まろうとしていた。




