発見される前の日
巨大な扉の向こうへ、一行は足を踏み入れた。
そこは――何もない場所だった。
空もない。
大地もない。
星もない。
ただ、遠くに一本の白い道だけが伸びている。
「ここが……発見される前の日?」
ノノが周囲を見回す。
「でも、昨日なのに何もないよ?」
キオクが白い道を見つめた。
「僕にも、この場所の記憶がない」
記録者も静かに首を振る。
「記録できません。ここには、まだ『昨日』という概念そのものが存在していなかったようです」
すると、白い道の上に文字が浮かんだ。
『発見される前の日』
その下に、もう一行。
『この世界には、誰も来なかった』
悠真は少し考えた。
「誰も来なかった……?」
アカリが気づく。
「つまり、来る可能性はあったんじゃない?」
その瞬間、白い道の左右に無数の光が現れた。
光の一つ一つが、別々の未来を映している。
誰かがこの世界を発見する未来。
誰も発見しない未来。
世界そのものが消える未来。
別の世界へつながる未来。
そして――。
「これ……僕たちが来る未来もある」
ハジメが一つの光を指差した。
そこには、現在の悠真たちが映っていた。
しかし、その光には一つだけ違いがあった。
ハジメがいない。
「……僕がいない?」
ハジメが驚く。
悠真が光を見つめる。
「これは、僕たちが来る前の可能性なんだ」
記録者が説明する。
「この世界では、未来が一つに決まる前に、すべての可能性が存在していたのでしょう」
トキが時計を見る。
「時間も、まだ始まっていない」
イマがうなずく。
「だから『昨日』もなかったんだね」
そのとき――。
遠くから声が聞こえた。
「……そうです」
一行が振り返る。
そこには、あの小さな少年が立っていた。
「君も来られたの?」
悠真が尋ねる。
少年はうなずいた。
「ここは、僕が生まれる前の場所だから」
カイが魔導書を開く。
しかし、ページには何も書かれない。
「やっぱり記録できません」
少年は少し寂しそうに笑った。
「僕も、ここではまだ『存在』していないんだ」
ハジメが尋ねる。
「じゃあ、どうして僕たちはここに来られたの?」
少年は白い道の先を指差した。
「誰かが、道を残したから」
道の先に、小さな机が現れた。
その上には一冊の本。
表紙には――
『見つけられる日まで』
と書かれている。
悠真が本を開く。
最初のページには、
『この世界を隠したのは、誰かを拒むためではない』
二ページ目。
『まだ、見つける準備ができていなかったから』
三ページ目。
『世界は、見つけられることで完成するのではない』
四ページ目。
『見つけた者が、新しい問いを持つことで続いていく』
ノノが小さく笑った。
「第∞+3世界らしいね」
悠真も笑う。
「答えをくれる世界じゃないんだ」
その瞬間、本の最後のページが開いた。
そこには一つだけ質問が書かれていた。
『では――』
『この世界を、誰が最初に見つけたのでしょう?』
全員が顔を見合わせる。
記録者が本を調べる。
「……記録がありません」
カイも首を振った。
「魔導書にもありません」
すると、少年の胸にある∞+3の紋章が強く輝いた。
そして空間そのものに、新しい文字が浮かび上がる。
『最初の発見者――未定』
「未定……?」
悠真が驚く。
すると、ハジメが静かに言った。
「じゃあ……僕たちが決めてもいいんじゃない?」
その瞬間、白い道の先に新しい扉が現れた。
扉には、
『最初の発見者を決める』
と書かれている。
しかし、その下には小さな注意書きがあった。
『ただし――』
『発見者を決めた瞬間、この世界の最初の歴史が生まれます』
悠真は扉を見つめた。
「歴史を作る……」
キオクがうなずく。
「つまり、この世界の『昨日』が始まる」
イマが言った。
「そして『今日』につながる」
アスが続ける。
「その先には、まだ見たことのない未来がある」
ミライが微笑む。
「なら、選べるね」
ハジメも扉の前に立った。
「僕は……みんなで選びたい」
悠真たちはハジメの隣に並んだ。
そして――。
扉に手をかけた。
その瞬間。
世界中の時計が、一斉に動き始めた。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
そして巨大な文字が浮かび上がる。
『第∞+3世界――最初の歴史、生成開始』
さらに、その下に一つの名前が表示された。
『最初の発見者――???』
しかし、その「???」の文字が――。
ゆっくりと、一つの名前へ変わり始めていた。




