第∞+3世界のさらに奥へ
「……誰にも、見つけられなかった?」
悠真たちは、巨大な扉の向こうを見つめていた。
扉の先には、見たことのない世界が広がっていた。
空は淡い紫色。
地面には白い草が広がり、その向こうには無数の小さな島が浮かんでいる。
しかし――。
「静かすぎる……」
ノノが周囲を見回した。
鳥の声もない。
風の音もない。
水の流れる音さえない。
カイが魔導書を開いた。
「記録がありません」
ページには、ただ一行だけが浮かんだ。
『世界名称――不明』
オボロが周囲を見つめる。
「忘れられた世界……なのかな」
キオクが首を横に振った。
「違う。僕の記憶にも、この場所はない」
そのとき、空に浮かぶ巨大な∞の文字が光った。
∞の中心から、一筋の光が地面へ落ちる。
すると、地面に文字が浮かび上がった。
『ここは、存在しなかった世界ではない』
『ここは、見つけられなかった世界』
ミライが驚く。
「存在していたのに……誰にも見つけてもらえなかったの?」
光は答えなかった。
代わりに、遠くの島に一本の道が現れた。
ハジメがその道を見つめる。
「行ってみよう」
悠真たちは道を歩き始めた。
島から島へ。
何もないように見える世界だったが、進むたびに小さな痕跡が見つかった。
一つ目の島には、椅子が一つ。
二つ目の島には、空っぽの本棚。
三つ目の島には、小さな鐘。
四つ目の島には、誰かが描いた星の絵。
そして五つ目の島には――。
「……家?」
アカリが声を上げた。
そこには、小さな家が建っていた。
扉には文字が刻まれている。
『最初にここを見つけた人へ』
悠真が扉を開ける。
中には一冊の本があった。
表紙には、こう書かれていた。
『見つけられなかった世界の記録』
悠真がページを開く。
最初のページには、
『私は、この世界を作った者ではない』
と書かれていた。
次のページ。
『私は、この世界に住む者でもない』
さらに次のページ。
『私は、この世界を見つけたかった』
ノノが小さくつぶやく。
「じゃあ……この人は誰なの?」
最後のページに、一つの質問が残されていた。
『もし、誰にも見つけられない世界があったら――』
『あなたは、探しますか?』
悠真は迷わず答えた。
「うん。探すよ」
すると――。
家の外で、大きな音がした。
∞の文字が空から消え、代わりに無数の星が現れる。
そして一人の小さな少年が、星の中から姿を現した。
「……やっと、見つけてくれた」
少年はそう言って笑った。
ハジメが尋ねる。
「君は、この世界の住民?」
少年は首を横に振った。
「まだ、決めてない」
アスが驚く。
「まだ決めてない?」
少年は空を見上げた。
「僕は、ずっとここにいた。でも、誰にも見つけてもらえなかったから、自分が住民なのかも分からなかった」
悠真は少年に手を差し出す。
「じゃあ、これから決めればいい」
少年はその手を見る。
そして――。
ゆっくりと手を重ねた。
その瞬間、世界に初めて風が吹いた。
草が揺れる。
鐘が鳴る。
川が流れ始める。
そして空に、新しい文字が浮かんだ。
『未発見だった世界――発見』
続いて、
『新規住民候補――1』
少年は驚いた顔で空を見上げる。
「僕……ここにいていいの?」
悠真は笑って答えた。
「もちろん」
少年の胸に、∞+3の紋章が浮かび上がった。
だが――。
記録者の顔が曇った。
「待ってください」
「どうしたの?」
「この少年の存在を……記録できません」
カイの魔導書も、突然すべてのページが真っ白になる。
そして世界の中心から、声が響いた。
『発見されたことで、この世界の過去が始まります』
『しかし――』
『この世界には、まだ「最初の日」がありません』
悠真たちは顔を見合わせた。
少年も空を見上げる。
すると、遠くの地平線に巨大な扉が現れた。
その扉には――。
『第∞+3世界――発見される前の日』
と刻まれていた。
ハジメが小さく息をのむ。
「……僕たちが見つける前の日?」
悠真は扉を見つめた。
「行こう」
そして一行は、まだ誰にも記録されていない“昨日”へ向かって歩き出した。




