原点
第∞+3世界の奥深く。
悠真たちは、巨大な門の前に立っていた。
門には、ただ一つの言葉だけが刻まれている。
『原点』
ハジメが門を見つめる。
「ここが……僕より前の場所なんだ」
記録者が頷いた。
「ですが、私の記録には、この場所の記録がありません」
キオクが不思議そうに尋ねる。
「過去にもないの?」
「ありません」
イマが続ける。
「現在にもない」
アスも空間の奥を見つめる。
「未来にもない」
トキの時計も、完全に止まっていた。
「時間そのものが、ここを避けているみたいだ」
悠真は門に手を触れた。
すると――。
門が静かに開いた。
中には、巨大な白い空間が広がっていた。
そこには、世界も星も大地もない。
ただ中央に、一つの小さな点だけが浮かんでいる。
アカリがその点を見つめる。
「……あれ、何?」
記録者が答えようとした。
しかし――。
「分かりません」
その言葉に、全員が驚いた。
記録者が分からない。
それは、この旅が始まってから初めてのことだった。
ハジメが点に近づく。
すると点から声が聞こえた。
「ここまで来たんだね」
悠真が尋ねる。
「君は誰?」
「まだ、誰でもない」
「じゃあ、何なの?」
「最初の『どうして?』」
悠真たちは顔を見合わせた。
点が少しだけ大きくなる。
「世界は、最初から目的を持って生まれたわけじゃない」
「最初にあったのは――」
「『どうして?』という疑問だった」
その言葉とともに、白い空間に映像が浮かび上がった。
何もない。
本当に何もない。
世界もない。
時間もない。
存在すらない。
そこに、一つの小さな光が生まれた。
光は周囲を見回す。
そして――。
「どうして?」
と尋ねた。
その瞬間。
二つ目の光が生まれた。
「どうして、ここにいるの?」
三つ目の光が生まれる。
「どこへ行けばいいの?」
四つ目。
「誰かに会えるの?」
無数の疑問が生まれていく。
そして疑問から、可能性が生まれた。
可能性から存在が生まれた。
存在から世界が生まれた。
世界から時間が生まれた。
悠真は息をのんだ。
「じゃあ……世界の始まりは、答えじゃなくて質問だったんだ」
「そう」
小さな点が答えた。
「だから、未来は終わらない」
ハジメが尋ねる。
「どうして?」
点が笑ったように輝いた。
「その質問が、次の未来を作るから」
その瞬間――。
ハジメの胸にある∞+3の紋章が光り始めた。
『第一住民――原点との接続を確認』
『第∞+3世界――起源情報を取得』
『世界の目的――再確認』
そして新しい文字が現れた。
『この世界は、答えを与えるために存在するのではない』
『新しい質問を見つけるために存在する』
ハジメはその言葉をじっと見つめた。
「……僕が言った『自分の世界を見つける』っていうのは」
悠真が続ける。
「自分だけの答えを見つけることじゃなくて、自分だけの質問を見つけることでもあるんだ」
ハジメは嬉しそうに笑った。
「うん」
その瞬間。
原点の中央に、新しい道が現れた。
しかし、その道には名前がない。
記録者が記録しようとする。
だが――。
文字が一文字も書けない。
「記録できません」
カイも魔導書を開く。
「こっちも駄目だ」
アカリが笑う。
「じゃあ、まだ誰も知らない道なんだね」
悠真が道の先を見る。
「だったら、行ってみよう」
一行が歩き出した。
ハジメもその後に続く。
ところが――。
最後尾にいたノノが突然立ち止まった。
「……待って」
「どうしたの?」
悠真が振り返る。
ノノは、誰もいないはずの空間を見つめていた。
「今……誰かが、私たちの名前を呼んだ気がする」
全員が静かになる。
すると、原点の奥から声が響いた。
「悠真」
「ノノ」
「カイ」
「アカリ」
一人ずつ。
全員の名前が呼ばれていく。
最後に――。
「ハジメ」
ハジメが振り返る。
「……僕を知ってるの?」
声は答えなかった。
代わりに、空間の奥に巨大な扉が現れた。
その扉には、初めて文字が刻まれていた。
『あなたたちが来る前の世界』
悠真が目を見開く。
「僕たちが来る前……?」
記録者が静かに呟く。
「そんな世界が存在するはずはありません」
しかし扉の向こうから――。
確かに、誰かの声が聞こえた。
「存在しなかったわけではありません」
「ただ――」
「誰にも見つけられなかっただけです」
扉がゆっくりと開く。
その向こうには、第∞+3世界とはまったく違う景色が広がっていた。
そして、その世界の空には――。
悠真たちが見たことのない、巨大な∞の印が浮かんでいた。




