最初の秘密
第∞+3世界。
「この世界には、まだ誰も知らない『最初の秘密』が存在します」
白い本に書かれたその言葉を、悠真たちは何度も読み返していた。
「最初の秘密……」
ノノがつぶやく。
ハジメは、遠くの山を見つめていた。
「たぶん、あの山の向こうにある」
その瞬間。
空に一本の光の線が走った。
そして、第∞+3世界の地図が再び現れる。
今まで何も表示されていなかった場所に、新しい道が生まれていた。
『最初の秘密への道』
悠真は仲間たちを見る。
「行こう」
全員が頷いた。
一行は山へ向かって歩き始めた。
しばらく進むと、道の両側に不思議な石が並んでいることに気づいた。
石には、一つずつ言葉が刻まれている。
『生まれる』
『出会う』
『選ぶ』
『忘れる』
『覚える』
『変わる』
『旅する』
そして最後の石には――
『見つける』
と刻まれていた。
キオクが石を見つめる。
「この世界が今まで作ってきたものが、全部ここに書かれている」
記録者が頷いた。
「この世界は、まだ新しい。しかし、旅をするたびに歴史が生まれているのです」
そのとき。
ハジメが突然立ち止まった。
「……待って」
「どうしたの?」
悠真が聞く。
ハジメは一番最初の石を指差した。
『生まれる』
「これ、おかしくない?」
アカリが首をかしげる。
「何が?」
「僕がこの世界の最初の住民だったよね」
「うん」
「だったら……」
ハジメは石の裏側を見た。
そこには小さな文字があった。
『この言葉を書いた者――不明』
全員が沈黙した。
記録者が石に触れる。
しかし――。
何も記録されない。
「……記録できません」
カイが魔導書を開く。
ページは真っ白だった。
「僕の魔導書にも何も出ない」
悠真は石をじっと見つめる。
「つまり、この世界が生まれる前から、誰かがこの場所を知っていた?」
トキの時計が突然動きを止めた。
「時間も……ここだけ認識できない」
イマも不思議そうに周囲を見る。
「ここには『今』がない……」
アスが山の上を見る。
「未来もない」
キオクが続ける。
「そして、過去もない」
三人の言葉を聞いた悠真は気づいた。
「じゃあ、ここは……」
記録者が静かに答えた。
「時間の外側でもありません」
「え?」
「ここは――時間が生まれる前より、さらに前です」
山の奥から、低い音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……。
地面が震える。
山肌が左右に開き、その中から巨大な扉が姿を現した。
扉には文字がない。
名前もない。
ただ中央に、手の形をしたくぼみがある。
ハジメが近づく。
「これ……僕の手と同じ大きさだ」
悠真が手を伸ばそうとした。
しかし、ハジメが止める。
「待って」
「?」
「この扉は……僕が開けるべきなんだと思う」
悠真は少し考えたあと、頷いた。
「分かった。行っておいで」
ハジメが扉に手を置く。
その瞬間――。
世界中の時計が止まった。
風が止まる。
川の流れも止まる。
空の雲も止まる。
第∞+3世界そのものが静止した。
そして扉が開いた。
中にあったのは――。
何もない白い空間。
ただ一つだけ、小さな椅子が置かれていた。
椅子の上には、古びた一冊の本。
ハジメが本を手に取る。
表紙には、初めて文字が書かれていた。
『第∞+3世界が生まれる前の記録』
「……そんな本が?」
ハジメがページを開く。
最初のページには、一行だけ。
『この世界を最初に選んだのは、ハジメではない』
ハジメの目が大きく開いた。
悠真たちも息をのむ。
さらにページをめくる。
次のページには――。
『ハジメが「最初の選択」を選べるようにした存在がいる』
そして、その下に名前があった。
しかし、その名前は黒く塗りつぶされている。
最後のページには、こう書かれていた。
『その存在は、今もこの世界を見ています』
その瞬間。
白い空間の奥から、声が響いた。
「――見つけましたね」
全員が振り返る。
そこには誰もいない。
けれど、空間の中央に小さな光が浮かんでいた。
光はゆっくりと人の形になっていく。
そして、その存在は悠真たちに向かって言った。
「私は、この世界の最初の住民ではありません」
「私は、この世界の創造者でもありません」
少し間を置いて――。
「私は……あなたたちが『自分の世界』を見つけるために、この世界を残した存在です」
悠真が尋ねる。
「あなたは……誰?」
光は答えなかった。
代わりに、白い本の最後のページに新しい文字が浮かび上がった。
『第二の秘密――開始』
そして、光の向こうに新しい世界への門が現れた。
その門には――。
『第∞+3世界・原点』
と刻まれていた。




