あなたの世界
第∞+3世界。
悠真たちは、地図に浮かび上がった文字を見つめていた。
『あなたの世界』
その言葉の下には、一本の道が伸びている。
道の先は、地図では白く塗りつぶされていた。
「……あそこに行けば、自分の世界が見つかるのかな?」
ノノが尋ねる。
ハジメは首をかしげた。
「分からない。でも、この世界の目的が『自分の世界を、自分で見つけること』なら……行ってみるしかないと思う」
隣に立っていた少年も頷いた。
「僕も行きたい」
悠真が笑う。
「もちろん。一緒に行こう」
「うん!」
一行は、地図に示された道を歩き始めた。
しばらくすると、街を抜けた。
その先には三本の道があった。
左は森へ。
中央は山へ。
右は海へ。
しかし、地図にはどの道にも名前がない。
カイが魔導書を開く。
「面白いな。ここから先は、記録が完全に空白だ」
キオクが道を眺める。
「過去も存在していないみたいだ」
イマは中央の道を見る。
「今は……どの道も同じだよ」
アスは海への道を指差した。
「未来なら、全部の道にある」
ミライが笑う。
「じゃあ、どれを選ぶ?」
悠真は三本の道を見比べた。
すると、ハジメが言った。
「……どれか一つを選ばなくてもいいんじゃない?」
全員が振り向く。
ハジメは少し照れながら続けた。
「この世界は、自分で世界を見つける場所なんだよね」
「だったら……」
ハジメは三本の道の間に、新しい道を歩き始めた。
――何もない場所へ。
すると。
地面が光った。
一本の道が、ハジメの足元から伸びていく。
『新しい道――発生』
カイが驚く。
「選択肢にない道を作った……!」
アカリが嬉しそうに笑う。
「これも可能性ってことだね!」
悠真たちも、その道を進んだ。
森にも山にも海にも向かわない。
ただ、誰も知らない方向へ。
やがて、道の先に小さな丘が現れた。
丘の上には、一軒の家が建っていた。
看板には何も書かれていない。
ハジメが扉を開ける。
中には、机が一つ。
椅子が一つ。
そして、白い本が一冊置かれていた。
表紙には――
『あなたの世界』
と書かれている。
悠真が本を開いた。
最初のページには、たった一行。
『この本の持ち主は、まだ決まっていません』
ノノが首をかしげる。
「持ち主が決まってない?」
すると本のページが勝手にめくれた。
次のページには――。
『世界とは、場所ではありません』
『世界とは、そこにいる者が大切だと思ったものです』
さらにページがめくれる。
『あなたが大切にするものを選んでください』
本の前に、いくつもの光が浮かび上がった。
『友』
『旅』
『記憶』
『未来』
『知識』
『自然』
『挑戦』
『平和』
『自由』
そして最後に――。
何も書かれていない光。
悠真がそれを見る。
「これだけ、名前がない」
記録者が答えた。
「名前がないからこそ、何にでもなれます」
ハジメが無言で近づく。
そして、その光に触れた。
光が大きく輝いた。
『新しい価値――発生』
『名称――未定』
ハジメはしばらく考えた。
「……『発見』」
その言葉と同時に、光が七色に変わった。
『新しい価値――発見』
『第∞+3世界に新しい概念を追加』
すると外の景色が変わった。
森の向こうに新しい湖が現れた。
山の中には洞窟が生まれた。
海には小さな島が浮かび上がった。
そして、誰も知らなかった道が何本も伸びていく。
ノノが目を輝かせる。
「世界が広がった!」
記録者が静かに言った。
「誰かが何かを発見するたび、この世界は広がるのでしょう」
悠真は白い本を見た。
最後のページに、新しい文字が浮かんでいた。
『第∞+3世界――第一発見を記録』
『発見した者――ハジメ』
『次の発見者――未定』
その瞬間。
家の外から声が聞こえた。
「……じゃあ、次は僕の番だね」
振り返ると、さっきの少年が立っていた。
少年は新しく生まれた洞窟を見つめている。
「僕、あそこに何があるのか知りたい」
悠真は頷いた。
「じゃあ、次はみんなで洞窟を探検しよう」
全員が歩き出す。
しかし――。
白い本だけは、誰にも見られない最後のページを開いていた。
そこには、いつの間にか文字が書かれていた。
『第一発見――完了』
『第二発見――開始』
『発見予定者――???』
そして、その下に小さな一文。
『この世界には、まだ誰も知らない「最初の秘密」が存在します』
――第∞+3世界の奥深く。
誰にも知られていない場所で、巨大な扉がゆっくりと開き始めていた。




