最初の選択
時間の外側。
悠真たちの前で、無数の扉が静かに並んでいた。
しかし、どの扉にも名前はない。
小さな光――第∞+3世界が生まれる前の存在は、その中の一つを見つめていた。
「この中から、一つ選ぶの?」
悠真が頷く。
「でも、無理に選ばなくてもいいよ」
光が驚く。
「選ばなくてもいいの?」
「うん」
悠真は笑った。
「自分の未来だからね」
その言葉を聞いた光は、しばらく黙っていた。
やがて、小さな声で言った。
「じゃあ……僕は、選ばないことを選ぶ」
その瞬間――。
すべての扉が消えた。
静寂が訪れる。
ノノが目を丸くする。
「全部、消えちゃった……」
記録者が白い本を開く。
そこには新しい文字が現れていた。
『第一選択――確定』
『選択内容――まだ決めない』
アカリが笑う。
「なるほど。『決めない』ことも未来なんだね」
ミライも頷く。
「未来を急いで一つにする必要はないんだ」
すると、小さな光が少しずつ大きくなった。
そして――。
ポンッ!
一人の子どもの姿になった。
白い髪。
透明な瞳。
胸には第∞+3世界の紋章。
「わあ……!」
アオが嬉しそうに駆け寄る。
「君、体ができたね!」
少年は自分の手を見つめる。
「これが……僕?」
イマが微笑む。
「うん。今のあなた」
キオクが尋ねる。
「過去は?」
少年は首を振る。
「まだない」
ミライが尋ねる。
「未来は?」
「まだ決めてない」
アスが笑う。
「それなら僕と同じだね」
少年は少し考えた。
「でも……名前は欲しい」
悠真たちは顔を見合わせた。
「じゃあ、自分で決めてみる?」
少年は目を閉じる。
しばらく考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「……『ハジメ』」
記録者の羽が光る。
『第一住民――名称確定』
『名称――ハジメ』
『発生源――最初の選択』
『未来――未定』
『過去――未定』
その瞬間。
ドォォォン!
時間の外側が大きく震えた。
無数の時計が一斉に動き始める。
『第∞+3世界――発生』
『第一住民――ハジメ』
『時間――未定』
『世界構造――未定』
『歴史――未定』
そして最後に――。
『世界の目的――未定』
悠真はその文字を見つめた。
「目的まで、まだ決まってないんだ」
ハジメが頷く。
「僕が決めるの?」
「みんなで決めてもいいし、君が決めてもいい」
悠真が答える。
ハジメは少し考えた。
「じゃあ……」
そのときだった。
時間の外側に、巨大な星が一つ現れた。
星はまだ小さい。
けれど、その光の中には無数の世界が映っている。
第∞世界。
第∞+1世界。
第∞+2世界。
そして――第∞+3世界。
ハジメは星を見つめた。
「僕は、この世界を……」
言葉が止まる。
ハジメは悠真たちを見る。
「みんなが、自分の世界を見つけられる場所にしたい」
悠真が微笑む。
「それなら、目的は決まりだね」
記録者が白い羽を走らせる。
『第∞+3世界――存在目的、確定』
『自分の世界を、自分で見つけるための世界』
星が一気に輝いた。
その光から、大地が生まれる。
空が生まれる。
海が生まれる。
森が生まれる。
そして、無数の道が生まれた。
しかし、その道には行き先が書かれていない。
ハジメが笑う。
「道がいっぱいある!」
アオが走り出す。
「どこに行くか分からない!」
ミライが空を見上げる。
「だから、選べるんだね」
すると世界の中央に、一つの巨大な門が現れた。
門には、
『第∞+3世界――旅立ちの門』
と刻まれている。
悠真が近づく。
だが、門の前にはもう一つの文字が浮かび上がった。
『この世界では、訪れた者も住民になる』
「え?」
ノノが驚く。
記録者が白い本を見る。
新しい記録が現れていた。
『第∞+3世界――訪問者登録制度』
『世界を訪れた存在は、この世界の未来に影響を与える』
悠真は仲間たちを見る。
「つまり……」
ハジメが笑った。
「みんなも、この世界の住民になれるってことだね」
その瞬間、門の向こうから声が響いた。
「――最初の旅人を、待っています」
悠真は一歩前へ進んだ。
第∞+3世界。
その最初の旅が、今始まろうとしていた。




