第∞+3世界の発生者
時間の外側。
無数の時計が浮かぶ空間で、悠真たちは一つの時計を見つめていた。
その文字盤には、
『∞+3』
と刻まれている。
しかし、その時計には針がなかった。
「第∞+3世界……」
悠真が呟く。
「まだ生まれていないのに、どうしてここにあるんだろう?」
記録者が白い本を開いた。
ページには、何度調べても同じ言葉しか現れない。
『発生条件――確認済み』
『発生者――未確認』
『発生時刻――存在せず』
『発生場所――時間の外』
トキが時計に近づいた。
「この世界……僕と似てる」
「似てる?」
ノノが尋ねる。
「うん。僕も時間の外側にいた」
トキが時計に手を伸ばす。
すると――。
カチッ。
初めて時計の針が現れた。
しかし針は数字の上ではなく、時計の外側を指している。
その瞬間、空間に声が響いた。
「第∞+3世界は、まだ存在していません」
「でも……」
悠真が周囲を見る。
「ここに時計がある」
「はい」
声が答える。
「それは世界ではありません」
「では何なの?」
キオクが尋ねた。
「これは――『世界になる前の選択』です」
全員が黙った。
アカリが目を輝かせる。
「世界そのものじゃなくて、世界になる可能性なんだ!」
すると時計の文字盤が開いた。
中には、三つの光が浮かんでいた。
『生まれる』
『生まれない』
『別の世界になる』
ミライがじっと見つめる。
「第∞+3世界自身が、まだ選んでいないんだ」
悠真は頷いた。
「だから発生者もいない」
記録者が静かに答える。
「正確には――発生者が『誰になるか』を選んでいないのです」
そのときだった。
トキの胸の小さな時計が、強く輝いた。
「え?」
トキが胸元を見る。
時計の針が、∞+3の文字を指していた。
「まさか……」
記録者が驚く。
「トキが発生者なの?」
トキは首を振った。
「違うと思う」
そして時計に触れる。
「僕は、この世界を作ったわけじゃない」
すると、∞+3の時計から一つの光が飛び出した。
光はトキの前で止まる。
そこに映し出されたのは――。
今まで見たことのない景色だった。
空も大地もない。
ただ、一つの小さな扉だけがある。
扉には、
『最初の一歩』
と書かれている。
悠真が近づく。
「この扉を開ければ、第∞+3世界が始まるの?」
声が答えた。
「いいえ」
「この扉は、世界を作るための扉ではありません」
「では何の扉?」
「誰かが『最初に選ぶ』ための扉です」
悠真は考えた。
第∞+1世界では、最初の住民アオが未来を選んだ。
第∞+2世界では、イマが「今」を選び、時間が生まれた。
ならば――。
第∞+3世界は、誰かの選択によって始まる。
「でも、その『誰か』がいない」
悠真が言う。
その瞬間。
扉の向こうから、小さな声が聞こえた。
「……いるよ」
全員が振り向いた。
「え?」
声の主は――。
悠真たちの後ろに立っていた。
小さな光だった。
手のひらほどの大きさしかない。
けれど、その光には第∞+3世界の紋章が浮かんでいた。
イマが驚く。
「あなた……第∞+3世界の住民?」
光は答えた。
「まだ違うよ」
「僕は、まだ生まれていないから」
悠真は尋ねる。
「じゃあ、君は何?」
光は少し考えた。
そして答えた。
「僕は――『最初の選択』」
その瞬間、時間の外側に無数の時計が現れた。
すべての時計が同じ方向を向く。
そして一斉に文字を表示した。
『第∞+3世界――発生条件、確定』
『発生者――最初の選択』
『第一住民――未定』
『世界の名前――未定』
『時間――未定』
『未来――未定』
最後に、一つの文字が浮かび上がった。
『選択してください』
悠真が光を見る。
「君が選ぶの?」
光は頷く。
「うん」
「でも、僕にはまだ何も分からない」
「だから……」
光は悠真たちを見る。
「一緒に考えてほしい」
悠真は笑った。
「もちろん」
その瞬間。
光の前に、無数の扉が現れた。
しかし今までの扉とは違う。
扉には、何も書かれていない。
未来の名前も。
世界の形も。
時間の流れも。
住民の数も。
すべてが空白だった。
トキが呟く。
「何も決まっていない……」
記録者が白い本を閉じた。
「だからこそ、この世界は誰にも決められていない」
悠真は最初の扉に手を伸ばす。
だが――。
扉の向こうから、別の声が響いた。
「待って」
悠真の手が止まる。
「その世界を始める前に――」
「一つだけ、決めなければならないことがあります」
扉に新しい文字が浮かんだ。
『第∞+3世界――何のために存在する?』
悠真たちは顔を見合わせた。
第∞+1世界は「未来を探すため」。
第∞+2世界は「今を生き、時間を進めるため」。
では――。
第∞+3世界は、何のために生まれるのか。
小さな光が静かに輝いた。
「それを……僕と一緒に探してほしい」
そして、最初の扉がゆっくりと開き始めた。




