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時間が生まれる前の世界

時間の塔に現れた扉。


『時間の外』


その向こう側には、何もなかった。


空もない。


大地もない。


星もない。


そして――時間もない。


悠真たちが一歩入ると、後ろの扉が静かに消えた。


「扉が……」


ノノが振り返る。


しかし記録者は落ち着いていた。


「大丈夫です。ここでは『後ろ』という概念すら、まだ存在していません」


「えっ?」


アオが目を丸くする。


その瞬間、前方に小さな光が現れた。


光はゆっくりと大きくなり、一つの道を作っていく。


トキがその道を見る。


「……この場所、知ってる」


「ここにいたの?」


悠真が尋ねる。


「うん。でも……正確には『いた』という言葉も違うんだ」


トキは少し困ったように笑った。


「時間がなかったから」


すると、道の先に巨大な時計が現れた。


ただし、その時計には針がない。


文字盤だけが浮かんでいる。


その中央に、一文字。


『零』


キオクが時計を見つめる。


「零……?」


「時間の始まり?」


ミライが尋ねる。


記録者は首を振った。


「違います」


「これは、時間が始まる『前』です」


その瞬間、時計の文字盤に映像が浮かび上がった。


何もない空間。


そこに、一つの小さな光が現れる。


そして二つ目の光。


三つ目。


光はどんどん増えていく。


やがて光と光の間に、可能性が生まれた。


可能性から存在が生まれた。


存在から世界が生まれた。


そして――最後に時間が生まれた。


悠真は息をのんだ。


「時間って、最後に生まれたんだ……」


記録者が頷く。


「はい」


「だから時間は、世界を作ったものではありません」


「世界が変化し続けるために生まれたものです」


トキが時計に触れる。


すると、文字盤に新しい文字が現れた。


『時間には、最初がある』


そして、


『時間には、最後がある』


アスが驚く。


「最後?」


ミライも時計を見る。


「時間が終わるってこと?」


誰も答えられない。


そのとき――。


ドン。


時計が一度だけ鳴った。


ドン。


二度目。


ドン。


三度目。


すると、時間の外側に巨大な扉が現れた。


扉には、


『時間の最後』


と書かれている。


「そんな……」


イマが不安そうに扉を見る。


キオクが首を振った。


「まだ開いていない」


「なら、時間の最後はまだ決まっていない」


悠真が言った。


「そうだね」


ノノが頷く。


「未来が決まっていないなら、時間の最後だって決まってないよ」


その言葉に反応するように、扉が震えた。


ギギギ……。


少しだけ開く。


その隙間から、黒い光が漏れてきた。


「これは……?」


悠真が身構える。


だが、記録者が手を伸ばして止めた。


「待ってください」


黒い光の中に、何かが見える。


それは世界だった。


一つではない。


無数の世界。


そして、それぞれの世界に――それぞれ違う「最後」が存在していた。


世界が終わる未来。


世界が新しく生まれる未来。


誰もいない世界。


新しい住民が暮らす世界。


そして、ずっと続いていく世界。


トキが呟いた。


「時間の最後も、一つじゃないんだ」


悠真は頷いた。


「だったら……」


白い本を取り出す。


ページには何も書かれていない。


悠真はペンを手に取った。


そして、一行を書いた。


『時間の最後も、未来によって選べる』


文字が光る。


時間の外側全体が震えた。


すると、巨大な時計が姿を変えた。


文字盤が消え、その代わりに無数の星が浮かび上がる。


記録者が驚く。


「時間そのものが……可能性になった」


トキの胸の時計も輝き始めた。


『時間の外側――接続完了』


『時間の最後――未確定』


『未来――無限』


そして最後に、


『新たな領域――時間の果て』


という文字が現れた。


悠真たちは顔を見合わせる。


アカリが笑った。


「まだ先があるんだね」


「うん」


悠真も笑う。


「じゃあ、行こう」


トキが先頭に立つ。


その向こうには、無数の時計が浮かぶ道が続いていた。


しかし――。


その道の途中に、一つだけ動いていない時計があった。


文字盤には、見たことのない数字。


『∞+3』


悠真が立ち止まる。


記録者の白い本が、ひとりでに開いた。


そこに、新しい一文が現れた。


『第∞+3世界――発生条件を確認』


そして、その下に――。


『発生者――未確認』


誰も言葉を失った。


時間の外側で、新しい世界が生まれようとしていた。

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