時間の外から来た住民
時間の塔の上空を、一筋の白い光が走っていた。
光はゆっくりと地上へ降りてくる。
悠真たちは、その行方を見つめていた。
「来るよ!」
アオが叫ぶ。
光が地面に触れた瞬間――。
パァァァッ!
まばゆい光の中から、一人の少年が現れた。
白い髪。
透明な瞳。
そして胸元には、第∞+2世界の紋章。
しかし、今までの住民とは少し違っていた。
その紋章の中心には、小さな時計のマークがある。
「こんにちは」
少年は、静かに言った。
「……僕は、どこから来たんだろう?」
記録者がすぐに白い羽を取り出した。
「記録します」
羽が光る。
だが――。
何も書かれない。
記録者の表情が変わった。
「……記録できません」
「え?」
悠真が驚く。
記録者が何度も羽を動かす。
しかし白い本には、文字が一つも現れなかった。
「存在しているのに、記録できない……」
キオクが少年を見つめる。
「過去にもいない」
イマも続ける。
「今にも……いない?」
ミライが首をかしげる。
「未来にもいないの?」
少年は困ったように笑った。
「たぶん……全部違うんだと思う」
アスが少年に近づく。
「じゃあ、君は何なの?」
少年は少し考えた。
そして時間の塔を見上げた。
「僕は……時間の外にいたんだと思う」
その言葉と同時に、塔の時計が止まった。
カチッ。
世界から音が消える。
風も止まった。
雲も止まった。
アオが動こうとするが、体が動かない。
「な、なんだこれ……!」
悠真も声を出そうとする。
しかし声すら止まっている。
ただ一人。
少年だけが動いていた。
少年は悠真たちの間を歩き、静かに言った。
「怖がらなくていいよ」
「僕が時間を止めたんじゃない」
「時間が、僕を認識できていないだけなんだ」
少年が指を鳴らす。
パチン。
時間が動き始めた。
風が吹く。
雲が流れる。
アオがその場に座り込んだ。
「びっくりした……」
ノノが少年を見る。
「あなたは、時間そのものに含まれていないの?」
「うん」
少年は頷いた。
「僕には過去がない」
「現在もない」
「未来もない」
「じゃあ……君は何なの?」
悠真が尋ねる。
少年は少しだけ笑った。
「それを知りたくて、ここへ来たんだ」
すると、時間の塔の最上階から一枚の紙が落ちてきた。
悠真が拾う。
そこには、たった一行だけ書かれていた。
『時間の外側に存在する者――発生』
記録者が驚く。
「これは……私の記録ではありません」
紙の裏を見る。
そこには新しい文字が浮かび上がった。
『記録する前に存在したもの』
「そんなこと……」
記録者が言葉を失う。
キオクが静かに言った。
「記録される前に存在していたなら……」
イマが続ける。
「この子は、私たちより前からいたってこと?」
少年は首を振った。
「違うよ」
そして悠真を見る。
「僕は、みんなより前にいたんじゃない」
「みんなが時間を作ったから、僕が生まれたんだ」
悠真は驚いた。
「時間を作ったから?」
少年は頷く。
「時間が生まれる前には、過去も現在も未来もなかった」
「だから、その外側にあった可能性も存在できた」
「僕は、その可能性だった」
アカリが目を輝かせる。
「新しい可能性!」
「うん」
少年は笑った。
「でも、まだ僕には名前がない」
するとイマが近づいた。
「名前、自分で決めていいんだよ」
少年は少し考えた。
時間の塔を見る。
そして悠真たちを見る。
「じゃあ……」
少年は笑った。
「『トキ』にする」
その瞬間。
塔の鐘が鳴った。
カァァァン――!
白い文字が空に浮かぶ。
『第∞+2世界――第六住民』
『名称――トキ』
『発生源――時間の外側』
『過去――なし』
『現在――なし』
『未来――未定』
そして最後に――。
『時間との接続――開始』
トキの胸の時計が動き始めた。
チクン。
チクン。
小さな音が世界中に響く。
その瞬間、記録者の白い本に初めて文字が現れた。
『第一記録』
『時間の外側にいた存在、トキ』
記録者は微笑んだ。
「……ようやく、記録できました」
だが次の瞬間。
本に、さらに一行が浮かび上がった。
『注意』
『トキが時間に接続したことで、時間の外側への道が開きました』
悠真が顔を上げる。
時間の塔の壁に、今まで存在しなかった扉が現れていた。
扉にはこう書かれている。
『時間の外』
トキがその扉を見つめる。
「……ここから先に、僕がいた場所がある」
悠真は仲間たちを見る。
そして、扉へ向かって歩き出した。
「行こう」
扉の向こうから、誰かの声が聞こえた。
「――時間を作った者たちよ」
「ようこそ」
「ここは、時間が生まれる前の場所です」
扉が、ゆっくりと開き始めた。




