時間の塔
第∞+2世界の空に、白い塔がそびえていた。
雲よりも高く、頂上は空の向こうへ消えている。
塔の入口には、大きな文字が刻まれていた。
『時間の塔』
悠真たちは、その前に立っていた。
「いよいよ、時間そのものを選ぶんだね」
ミライが塔を見上げる。
アオは目を輝かせた。
「時間って、どうやって選ぶんだろう?」
イマが首をかしげる。
「時間って……今が続いていくものじゃないの?」
キオクが静かに答えた。
「それだけじゃない。時間には、過去も未来もある」
アスも空を見上げる。
「僕がいた未来も、たくさんの可能性の一つだった。時間がどう進むかで、その未来も変わるんだと思う」
そのとき、記録者が塔の扉に手を触れた。
ギィィィ……。
扉が開く。
中には、巨大な時計がいくつも浮かんでいた。
前へ進む時計。
逆向きに回る時計。
同じ場所を何度も回る時計。
そして、針が存在しない時計。
中央には白い本が置かれていた。
本の表紙には、
『時間の選択』
と書かれている。
悠真が本を開く。
すると、四つの選択肢が現れた。
『一方向の時間』
『循環する時間』
『分岐する時間』
そして、
『すべての時間を残す』
ノノが考え込む。
「一方向なら分かりやすいけど……過去には戻れないよね」
キオクがうなずく。
「循環する時間なら、同じ出来事を繰り返すことになるかもしれない」
ミライは三つ目の文字を見る。
「分岐する時間なら、未来がいっぱい生まれる。でも……どれが本当の未来なの?」
アスが答えた。
「どれも本当じゃないかな。選ばれた未来も、選ばれなかった未来も、可能性として存在する」
すると、最後の選択肢が光った。
『すべての時間を残す』
イマがその文字を見つめる。
「でも……全部残したら、時間がいっぱいになっちゃわない?」
その瞬間だった。
塔全体が揺れた。
ゴォォォン――!
無数の時計が一斉に動き始める。
過去。
現在。
未来。
それぞれの時計から時間が流れ出し、空間の中でぶつかっていく。
「危ない!」
悠真が叫ぶ。
すると、記録者が白い羽を掲げた。
「待ってください」
時間の流れが止まった。
記録者は静かに言った。
「時間は、保存するものではありません」
「じゃあ……何なの?」
悠真が尋ねる。
記録者は時計を見つめた。
「時間とは、存在が変化していくことです」
キオクが続ける。
「過去があるから、今がある」
イマが言う。
「今があるから……」
アスが続けた。
「未来へ進める」
三人の言葉が重なった。
その瞬間、三つの時計が一つにつながった。
過去。
現在。
未来。
そして中央に、新しい時計が現れた。
その時計には、数字も針もなかった。
代わりに文字が浮かんでいる。
『選択によって進む時間』
悠真は白い本を見る。
そこには、新しい選択肢が生まれていた。
『過去を記録し、現在を生き、未来を選ぶ時間』
悠真は迷わなかった。
「これにしよう」
ノノも笑う。
「うん」
アオも手を上げた。
「ぼくも!」
イマも頷く。
「わたしも」
キオク、ミライ、アス、ユラ、キボウ、オボロ、アカリ、シン、レインも、それぞれ頷いた。
最後に記録者が言った。
「では、記録します」
白い羽が輝く。
『第∞+2世界――時間の法則、確定』
『過去――記録される』
『現在――生きられる』
『未来――選択できる』
『時間――選択によって進む』
ドォォォン!
塔の時計が動き始めた。
一秒。
また一秒。
世界に初めて、正式な「時間」が流れ始めた。
空には朝が生まれ、太陽が昇る。
そして――夜が来る。
星が輝く。
イマは初めて見る夜空に驚いた。
「これが……時間なんだ」
悠真は笑った。
「うん。明日も来るってことだよ」
そのとき。
時間の塔の最上階から、鐘の音が響いた。
カァァァン――。
一度。
二度。
三度。
そして四度目の鐘が鳴った瞬間。
白い空に、巨大な文字が浮かび上がった。
『第∞+2世界――第一日、終了』
『第二日――開始』
だが、その下にもう一つの表示が現れた。
『新たな住民――発生』
「え?」
悠真たちは空を見上げた。
遠くの山の向こうから、一つの光がこちらへ向かって飛んでくる。
記録者が驚いた。
「これは……私の記録にはありません」
光がどんどん近づいてくる。
そして、その光の中から声が聞こえた。
「……次は、私の時間です」
悠真は目を見開いた。
第∞+2世界に、新しい住民が生まれようとしていた。




