第∞+2世界へ
キズナ号は、巨大な亀裂へ向かって進んでいた。
その先に見えているのは、まだ誰にも知られていない世界。
『第∞+2世界』
「本当に行くの?」
ノノが窓の外を見ながら尋ねる。
悠真はうなずいた。
「うん。ここまで来たんだ。見てみたい」
アカリが操縦席の表示を見る。
「でも、航路が安定してないよ」
シンが画面をのぞき込む。
「第∞+1世界の外側に、さらに世界がある……」
オボロがつぶやく。
「世界って、どこまで続くんだろう」
「それを確かめる旅になるのかもね」
悠真が答えた。
その瞬間――。
キズナ号が大きく揺れた。
「わっ!」
アオが手すりにつかまる。
「航路が閉じます!」
アカリが叫ぶ。
亀裂が少しずつ小さくなっていく。
「急ごう!」
悠真の声とともに、キズナ号が加速する。
そして――。
光の中へ飛び込んだ。
◆
静かだった。
キズナ号が着地した場所は、巨大な草原。
空は真っ白。
太陽も月もない。
けれど、地面には無数の小さな光が浮かんでいる。
ミライがその光を見つめた。
「……未来の音がしない」
キオクも辺りを見回す。
「過去も……ない」
アスが驚く。
「じゃあ、ここには何があるの?」
記録者が答えた。
「おそらく……『現在』だけです」
悠真は驚いた。
「現在だけ?」
「過去になる前。未来になる前。その間だけが存在する世界なのかもしれません」
そのとき。
一つの光が悠真の前へ飛んできた。
光の中に文字が浮かぶ。
『現在』
そして別の光。
『今』
さらにもう一つ。
『ここ』
三つの光が集まり、一人の小さな女の子の姿になった。
白い髪。
透明な瞳。
胸には、∞+2の紋章。
少女は悠真たちを見つめる。
「……あなたたちは?」
悠真が答える。
「僕たちは、第∞+1世界から来たんだ」
少女は首をかしげる。
「第∞+1……?」
「うん」
「そんな世界、知らない」
記録者が一歩前に出る。
「あなたは、この世界の住民ですか?」
少女は少し考えた。
「……わからない」
カイが魔導書を開く。
ページには、文字が一つずつ現れていく。
『第∞+2世界』
『住民――1』
『名前――未定』
『発生源――現在』
『過去――なし』
『未来――なし』
カイが目を見開いた。
「本当に……現在しかない」
少女は魔導書を見て尋ねた。
「それは何?」
「魔導書だよ」
「魔導書?」
少女は初めて見るものを不思議そうに眺める。
そして悠真に聞いた。
「未来って、何?」
悠真は少し考えた。
「まだ起きていないこと」
「過去は?」
「もう起きたこと」
少女は空を見上げる。
「じゃあ、私は?」
悠真は答えに迷った。
少女は続ける。
「私は何も知らない。昨日もない。明日もない」
「……」
「私は、今ここにいる。それだけ」
ミライが優しく言った。
「それなら……あなたは『今』なんじゃないかな」
少女はその言葉を繰り返した。
「……今」
すると、少女の胸の紋章が光った。
『存在――確認』
『現在――確定』
そして、新しい文字が現れる。
『名前を選択してください』
少女は悠真たちを見る。
「名前……?」
「自分で選んでいいんだよ」
悠真が言う。
少女はしばらく考えた。
「じゃあ……」
少女は空を見上げた。
「『イマ』がいい」
その瞬間。
真っ白だった空に、初めて青い色が広がった。
『第一住民――確定』
『名称――イマ』
『発生源――現在』
『第∞+2世界――存在開始』
「世界が……変わった」
アスが驚く。
草原に風が吹き始めた。
遠くに山が現れ、川が流れ始める。
そして空には、小さな太陽が生まれた。
イマは嬉しそうに笑った。
「今って……こんなに広いんだ」
悠真も笑う。
「うん」
しかし、その直後だった。
カイの魔導書が突然閉じた。
バタン!
「どうした!?」
悠真が驚く。
魔導書の表紙に、今まで見たことのない文字が浮かんでいた。
『警告』
『第∞+2世界に、存在しないはずの過去を検出』
キオクが振り返る。
「過去が……?」
イマの足元に、黒い影が現れた。
影の中から、声が聞こえる。
「……今だけでは、世界は続かない」
記録者が息をのむ。
「そんな……」
影が広がっていく。
「過去を持たない世界は、何度でも同じ現在を繰り返す」
悠真は影を見つめた。
「君は誰?」
影は答えない。
ただ、最後に一言だけ残した。
「私は――この世界が忘れた『昨日』」
そして消えた。
イマが不安そうに悠真を見る。
「ねえ……悠真」
「どうしたの?」
「私にも……昨日が必要なの?」
悠真は静かにうなずいた。
「たぶん。でも、それは誰かが決めるものじゃない」
「じゃあ……?」
悠真は笑った。
「一緒に探そう」
イマも笑った。
その瞬間、キズナ号の航行画面に新しい目的地が表示された。
『第∞+2世界――最初の過去』
そして、その場所を示す矢印の先には――。
まだ存在していないはずの、巨大な古代都市が浮かび上がっていた。
新たな旅が始まる。




