未来の名前
第∞+1世界――未定義領域。
悠真たちは、白い髪の少年に案内されながら、街の奥へと進んでいた。
目の前にあるのは、小さな透明な扉。
その扉には、たった四文字だけが刻まれている。
『未来の名前』
悠真が手を伸ばす。
カチッ。
扉が開いた。
その先にあったのは、部屋ではなかった。
無限に広がる星空だった。
「わあ……!」
アオが目を輝かせる。
そこには、数え切れないほどの星が浮かんでいた。
しかし、普通の星とは違う。
一つ一つの星に、名前のような文字が浮かんでいる。
『平和』
『冒険』
『知識』
『出会い』
『旅』
『変化』
『挑戦』
そして、まだ文字すら存在しない星もあった。
ミライが静かに言う。
「これ……全部、未来なの?」
「そう」
少年が答えた。
「未来は、生まれる前には名前がない」
「じゃあ、名前をつけたら……?」
悠真が尋ねる。
少年は星空を見上げた。
「その未来が、選択できるようになる」
カイが魔導書を開いた。
すると、ページに新しい記録が現れる。
『未来には名前が必要』
『名前を持たない未来――選択不能』
『名前を持つ未来――選択可能』
「なるほど……」
悠真は星々を見つめた。
「だから、この大陸には名前がなかったんだ」
記録者がうなずく。
「正確には、この大陸そのものが『まだ選ばれていない未来』なのです」
ノノが驚く。
「じゃあ、ここは未来なの?」
「はい」
記録者は答えた。
「ただし、誰の未来なのかは決まっていません」
その瞬間。
巨大な星が一つ、こちらへ近づいてきた。
その星には、まだ何も書かれていない。
『――――』
アカリが首をかしげる。
「この星だけ、名前がない」
オボロが静かに言った。
「名前がないなら……まだ、誰にも選ばれていない」
キボウが星を見つめる。
「でも、名前がつけば未来になるんだよね?」
「そう」
悠真は考えた。
そして少年に尋ねた。
「君は、この星に名前をつけたい?」
少年は少し驚いた。
「僕が?」
「うん」
「でも……僕はまだ、この世界の住民じゃない」
悠真は笑った。
「だからこそ、自分で決められるんじゃない?」
少年は星を見上げた。
長い沈黙。
やがて――。
「……『アス』」
悠真たちが振り返る。
少年は自分の胸に手を当てた。
「僕の名前は、アスがいい」
「アス……?」
「まだ何も決まっていない未来だから」
少年は笑った。
「明日って、今日の続きだけど、今日とは違うでしょう?」
悠真はうなずいた。
「いい名前だね」
その瞬間。
少年の胸に∞+1の紋章が輝いた。
『第二住民――正式登録』
『名称――アス』
『未来――未定』
『選択権――本人』
カイが驚く。
「第二住民……?」
「そうか」
記録者が言った。
「これまで彼は外部世界から来た訪問者でした。しかし、自分の名前を選んだことで、この世界の住民になる未来を選択した」
アスは自分の手を見る。
「僕……ここにいていいの?」
アオがすぐに答える。
「もちろん!」
ミライも笑った。
「一緒に未来を見つけよう」
「うん」
アスがうなずく。
その瞬間、星空全体が明るくなった。
無数の星に、新しい文字が浮かび始める。
『まだ決まっていない』
『これから選べる』
『誰かと進める』
『何度でも変えられる』
悠真はその光景を見ていた。
すると突然――。
ドンッ!
大陸全体が揺れた。
「な、何!?」
ノノが驚く。
カイの魔導書が激しくめくれる。
そして、ページの中央に赤い文字が浮かび上がった。
『警告』
『未定義領域に、新しい未来が発生』
『未来名称――不明』
『発生源――不明』
『接続先――第∞+1世界の外』
「世界の外……?」
シンが空を見上げる。
すると星空に、大きな亀裂が走った。
その向こう側には――。
第∞+1世界とはまったく違う景色が広がっていた。
見たことのない星。
見たことのない世界。
そして、その中央に巨大な文字が浮かんでいる。
『第∞+2世界』
悠真は息をのんだ。
「第∞+2……?」
記録者が初めて、明らかに動揺した。
「ありえません」
「どうして?」
「第∞+1世界の次に、世界が生まれることは……記録されていないからです」
亀裂の向こうから、声が聞こえた。
「記録されていないなら――」
少し幼い声だった。
「これから、記録すればいい」
悠真たちは顔を見合わせる。
そして、亀裂の向こうに小さな光が現れた。
『新世界――接続開始』
キズナ号の航行システムが自動的に起動する。
『未知領域への航路を生成します』
悠真は前を向いた。
「……行こう」
ノノがうなずく。
「うん!」
そしてキズナ号は、まだ誰も知らない世界へ向かって進み始めた。
第∞+1世界の空に、新しい星が生まれる。
その星に刻まれた文字は――。
『次』
だった。




