古代の扉
第∞+1世界――無限未来領域。
新しく現れた大陸へ向かって、キズナ号はゆっくりと進んでいた。
「この大陸……地図に何も表示されないね」
ノノが窓の外を見ながら言った。
カイも魔導書を開く。
「おかしいな。地形そのものは存在している。でも、記録が一つもない」
アカリが首をかしげる。
「未来なのに、未来として記録されていない……?」
「そういうことになるね」
悠真は前方を見つめた。
大陸には、森も山も川もある。
けれど、不思議なことに生き物の姿がまったく見えない。
「誰もいないのかな?」
アオがつぶやく。
その隣で、ミライが目を閉じた。
「……ううん」
「何か聞こえる?」
「うん。未来の音がする」
ミライが目を開ける。
「でも、すごく遠い。まるで……まだ生まれていない未来みたい」
その瞬間だった。
キズナ号の前に、巨大な石の門が現れた。
門には古い文字が刻まれている。
『ここより先――記録されていない未来』
キオクが門を見上げた。
「記録されていない……?」
「僕にも、この文字は読めない」
記録者が静かに言った。
「この大陸は、私の記録帳にも存在していません」
悠真は驚いた。
「記録者にも分からない場所?」
「はい」
記録者は少しだけ笑った。
「だからこそ、行く価値があります」
悠真はうなずいた。
「じゃあ、行こう」
キズナ号が門をくぐる。
その瞬間――。
世界から音が消えた。
風の音も。
エンジンの音も。
仲間たちの声さえも。
そして、目の前に巨大な街が現れた。
しかし、その街は普通ではなかった。
建物は透明で、道路は空中に浮かび、無数の光が街の中を流れている。
けれど、人影は一つもない。
「……未来都市?」
アスがつぶやく。
カイが魔導書を開く。
すると、本のページに文字が勝手に浮かび上がった。
『第∞+1世界・未記録領域』
『都市名――未定』
『住民数――0』
『建設者――0』
『歴史――0』
「何もない……?」
ノノが不思議そうに言った。
「でも、街はあるよ」
悠真は街の中央を見た。
そこには、巨大な時計塔が立っている。
時計の針は動いていない。
その下に、一枚の石板があった。
悠真が近づく。
石板には、たった一文だけ刻まれていた。
『未来を選ばなかった者たちのための街』
「未来を……選ばなかった?」
オボロが静かに言う。
「それって……」
その言葉に反応するように、街中の光が一斉に点灯した。
すると、空から無数の扉が現れた。
『行く』
『帰る』
『待つ』
『忘れる』
『挑戦する』
『諦める』
『誰かと進む』
『一人で進む』
そして最後に――。
何も書かれていない透明な扉。
アカリがそれを見つめる。
「また、選択……」
悠真は透明な扉の前に立った。
「でも、今回は違う」
「何が?」
ノノが尋ねる。
悠真は答えた。
「どの扉を選ぶかじゃない」
そして透明な扉に手を触れた。
「扉そのものを作れるかもしれない」
その瞬間。
透明な扉が淡く輝いた。
『新しい選択を作成しますか?』
悠真は迷わず答えた。
「うん」
『どんな選択ですか?』
悠真は仲間たちを見る。
アオ。
ミライ。
キオク。
アス。
ユラ。
キボウ。
オボロ。
シン。
アカリ。
ノノ。
カイ。
そして記録者。
悠真は笑った。
「まだ誰も知らない未来を選ぶ」
ドォォォン――!
街全体が揺れた。
止まっていた時計塔が動き始める。
一秒。
二秒。
三秒。
そして、時計の文字盤に新しい文字が浮かび上がった。
『未定』
『未定』
『未定』
すべての数字が消えていく。
記録者が驚いた声を上げた。
「これは……」
カイが魔導書を見つめる。
「記録が……書き換わっている!」
そして最後のページに、一行だけ新しい文章が刻まれた。
『この世界には、まだ名前のない未来が存在する』
その瞬間。
街の奥から、一人の少年が歩いてきた。
白い髪。
透明な瞳。
そして、∞+1の紋章。
アオが驚く。
「住民……?」
少年は首を横に振った。
「違う」
「じゃあ、君は?」
少年は少し考えてから答えた。
「……僕は、未来になる前の存在」
そして悠真を見つめた。
「君たちが来るのを、ずっと待っていた」
悠真は目を見開く。
「どうして僕たちを知っているの?」
少年は微笑んだ。
「知っていたんじゃない」
「え?」
「君たちが来る未来を、今、選んだんだ」
その瞬間、時計塔の最上階に巨大な文字が浮かんだ。
『第∞+1世界――未定義領域、解放』
そして少年の足元に、一つの小さな扉が現れる。
扉にはこう書かれていた。
『未来の名前』
少年が悠真を見る。
「この先に行けば、この世界にまだ存在していないものが分かる」
悠真は仲間たちを見る。
そして静かに言った。
「行こう」
キズナ号の新たな冒険が始まった。




