未来から来た住民
第∞+1世界の空に、巨大な月が浮かんでいた。
それは、この世界が生まれたときには存在していなかった月だった。
「……やっと、ここまで来た」
月から声が響く。
悠真たちは空を見上げた。
すると、月の中心から銀色の光が伸び、その中から一人の少年がゆっくりと降りてきた。
白銀の髪。
青白く透明な瞳。
胸には、∞+1の紋章。
少年は地面に立つと、周囲を見回した。
「ここが……第∞+1世界……」
カイが魔導書を開く。
「これは……!」
ページに文字が次々と浮かび上がった。
『第五住民――未来より到着』
『発生源――未来領域』
『未来情報――複数存在』
『未来――未確定』
「未来から来た住民……」
ノノが驚く。
少年は小さくうなずいた。
「僕は、この世界の未来から来たんだ」
「未来を知っているの?」
ミライが尋ねる。
「……少しだけ」
少年は空を見上げた。
「僕のいた未来では、この世界にはたくさんの町があった。たくさんの人が暮らしていて、空にはもっとたくさんの星があった」
アオが目を輝かせる。
「じゃあ、すごい世界だったんだね!」
「うん」
少年は笑った。
しかし、その笑顔はすぐに消えた。
「でも……僕が知っている未来は、一つだけじゃない」
「え?」
少年が手を伸ばす。
すると空いっぱいに無数の光が現れた。
光の一つには、大きな都市。
別の光には、深い森。
別の光には、海に囲まれた島。
そして別の光には――誰もいない世界。
「これ全部、未来なの?」
キボウが尋ねる。
「そう。全部、可能性として存在している」
オボロが静かに言った。
「つまり、お前がいた未来も、その一つということか」
「そういうこと」
少年はうなずいた。
「だから、僕が知っている未来が必ず起こるわけじゃない」
キオクが少年を見つめる。
「それなら……未来は変えられる?」
「変えられる」
少年は即答した。
「だから僕は、ここへ来たんだ」
悠真が尋ねる。
「何のために?」
少年は胸の紋章に手を当てた。
「未来を教えるためじゃない」
少し間を置いて、少年は言った。
「自分の未来を、自分で選ぶために」
悠真は微笑んだ。
「それなら、ここに来てよかったね」
「……え?」
「この世界では、自分の未来は自分で選べるから」
少年は驚いたように悠真を見る。
その瞬間――。
『第五住民』
『未来選択権――確認』
『名前――未定』
『役割――未定』
文字が空中に浮かんだ。
「名前も、まだ決まってないんだ」
アカリが言う。
少年は自分の手を見つめる。
「僕には……名前が必要なの?」
ユラが答える。
「必要とは限らないよ。でも、自分で選ぶことはできる」
「自分で……」
少年は考え込んだ。
そのときだった。
空に亀裂が走った。
バリッ――!
「なに!?」
ミオが空を見上げる。
亀裂の向こう側から、黒い影が現れる。
カイの魔導書が激しく震えた。
『警告』
『未来領域からの干渉を確認』
『第∞+1世界の未来が現在へ接近』
レインが空を見つめる。
「未来が……こっちに来ている」
少年の表情が変わった。
「……そんな……」
悠真が少年を見る。
「知っているの?」
「うん」
少年は震える声で答えた。
「僕のいた未来でも……同じことが起きた」
「そのあと、どうなったの?」
少年はしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと答えた。
「世界の未来が、一つに固定された」
空の亀裂がさらに大きくなる。
そこから巨大な機械のような光が姿を現した。
『未来固定装置』
文字が空に表示される。
『すべての可能性を一つに統合します』
「そんなことをしたら……」
ミライが言葉を失う。
「他の未来が消える」
アカリが続ける。
「可能性そのものがなくなっちゃう!」
悠真は未来から来た少年を見る。
「君はどうしたい?」
少年は驚いた。
「僕……?」
「うん。君の未来なんだから、君が決めればいい」
少年は空を見上げる。
無数の未来が輝いている。
その中には、彼が知っている未来もあった。
しかし――。
少年は首を横に振った。
「僕は……一つに決めたくない」
胸の紋章が強く輝く。
「まだ知らない未来を、見てみたい」
その瞬間、未来固定装置が停止した。
『選択を確認』
『第五住民――未来選択権、成立』
そして空に新しい扉が現れる。
扉には、こう刻まれていた。
『未来を一つにしないための選択』
悠真は仲間たちを見る。
「行こう」
ノノがうなずく。
「うん!」
悠真たちは、未来の扉へ向かって歩き始めた。
その後ろで、未来から来た少年は初めて笑った。
「……僕も、自分の未来を探してみる」
しかし――。
扉が開いた瞬間。
その向こうから、別の声が響いた。
「未来を選ぶのは……あなたたちだけではない」
悠真たちは立ち止まる。
扉の向こうには、まだ誰も見たことのない世界が広がっていた。
そしてそこには――。
『第∞+1世界・未来領域』
という文字が浮かんでいた。




