第三住民の鐘
ゴォォォン……。
山の向こうから、二度目の鐘が響いた。
アオは空を見上げる。
「また鳴った……」
悠真たちは急いで山へ向かった。
道を進むにつれて、周囲の景色が変化していく。
草原だった場所に森が現れ、森だった場所に湖が生まれる。
「この世界、まだ安定してないんだね」
ノノが言う。
カイが魔導書を開く。
「第三住民の発生に合わせて、新しい地域が生成されているようだ」
やがて山頂に到着すると、そこには巨大な鐘楼が建っていた。
しかし――鐘を鳴らしている者はいない。
「誰もいない……」
悠真が鐘楼の中へ入る。
中央には、大きな銀色の鐘。
その表面には文字が刻まれていた。
『未来を呼ぶ鐘』
「未来を……呼ぶ?」
その瞬間。
ゴォォォン……!
鐘がひとりでに鳴った。
すると、鐘の下に小さな光が現れた。
光はどんどん大きくなり、一人の少女の姿へ変わっていく。
長い髪。
透明な瞳。
胸には∞+1の紋章。
少女は目を開けると、最初にアオを見た。
「……あなたが、最初の住民?」
アオがうなずく。
「うん。ぼくはアオ」
「そう……」
少女は少し笑った。
「じゃあ、私は三番目なんだね」
悠真が驚く。
「自分が第三住民だって分かるの?」
「鐘の中で、ずっと聞いていたから」
「何を?」
少女は胸に手を当てた。
「この世界が作られていく音」
悠真たちは黙った。
少女は続ける。
「誰かが未来を選ぶ音。誰かが名前を選ぶ音。誰かが迷う音……全部、聞こえていた」
アカリが目を輝かせる。
「すごい! じゃあ、あなたは世界の声を聞けるんだ!」
「たぶん……」
少女は困ったように笑う。
「でも、私はまだ何者なのか分からない」
すると記録者が現れた。
「第三住民候補――確認」
「候補?」
悠真が聞き返す。
記録者は少女を見る。
「この存在には、まだ一つの未来しかありません」
「一つの未来?」
ミオが驚く。
記録者が説明する。
「彼女は『未来を聞く者』として生まれました。しかし――」
空に文字が浮かんだ。
『第三住民候補』
『役割:未来の観測』
『選択可能な未来:1』
悠真の表情が険しくなる。
「それじゃあ、自由じゃない」
記録者は答えなかった。
少女自身も、空の文字を見つめている。
「……私、未来を聞くだけの存在なの?」
その声は少し寂しそうだった。
悠真は首を横に振った。
「違うよ」
「え?」
「この世界の住民の役割は、自分で選べるって決めたんだ」
ノノもうなずく。
「だから、あなたが何になるかは、あなたが決めていい」
少女はしばらく考えた。
そして、鐘に手を触れた。
「だったら……」
鐘が淡く輝く。
「未来を聞くだけじゃなくて、未来を選びたい」
その瞬間――。
『役割変更』
『未来の観測者』
という文字が消えた。
新しい文字が浮かぶ。
『役割:未来の選択者』
さらに、世界中の鐘が一斉に鳴り始めた。
ゴォォォン……!
ゴォォォン……!
ゴォォォン……!
記録者が驚く。
「これは……」
悠真が尋ねる。
「どうしたの?」
「第三住民が、自分の未来を選んだことで……」
空に巨大な文字が現れた。
『第∞+1世界――第三段階』
『住民は、与えられた役割を変更できる』
『自由の法則――更新』
少女は悠真たちを見つめる。
「ありがとう」
悠真が笑う。
「僕たちは何もしてないよ。決めたのは君だから」
少女は少し考えてから言った。
「じゃあ……私も名前を決めたい」
アオが嬉しそうに笑う。
「みんなで決める?」
少女は首を横に振った。
「今度は、自分で決めてみたい」
鐘が静かに揺れる。
少女は空を見上げた。
そして――。
「私の名前は……」
一瞬、世界が静まり返る。
「ミライ」
その名前が世界中に響いた。
『第三住民――確定』
『名称:ミライ』
『役割:本人が選択』
『未来:本人が選択』
第∞+1世界に、新しい歴史が刻まれた。
しかし――。
その直後、鐘楼の地下から、
「ゴゴゴゴゴ……」
という大きな音が響いた。
カイが魔導書を開く。
ページが激しくめくれていく。
そして、最後のページに一行だけ文字が現れた。
『第四住民――世界の外からではなく、世界の「過去」から発生』
悠真が息をのむ。
「過去から……?」
記録者が地下を見つめる。
「この世界には、まだ存在しないはずの過去が……生まれようとしています」
山の地下で――
何かが、目を覚ました。




