最初の名前
「ぼくは……どんな名前になればいいの?」
小さな光の問いかけが、静かな世界に響いた。
悠真たちは、すぐには答えなかった。
ユラがそっと光へ近づく。
「あなた自身は、どんな名前がいいと思いますか?」
「ぼく自身……?」
「はい。名前は、その人の存在を表すものです。だから、誰かに決めてもらうだけじゃなくて、自分で選んでもいいと思います」
光が小さく揺れた。
「……自分で、選ぶ」
すると、門の中央に新しい文字が浮かび上がった。
『名前の選択』
その下には三つの道が現れる。
『誰かに決めてもらう』
『自分で決める』
『みんなで決める』
ノノが首をかしげた。
「三つもあるんだ」
「どれが正しいんだろう?」
キボウが尋ねる。
カイは魔導書をめくった。
「正解は……書かれていない」
「つまり、この子自身が決めるってことだね」
悠真が言った。
すると光が、ゆっくりと三つの道の前まで移動する。
そして――。
『みんなで決める』
の前で止まった。
「みんなで……?」
悠真が驚く。
光から、小さな声が聞こえた。
「ぼくは、まだ何も知らないから……」
「うん」
「一人で決めるより、みんなと一緒に決めたい」
ノノが笑った。
「じゃあ、みんなで考えよう!」
レインが空に虹を描く。
アカリは「新しい可能性を感じる名前がいい」と言い、シンは「存在していることを大切にできる名前がいい」と話した。
オボロは「過去に縛られず、でも思い出を大切にできる名前」。
ミオは「自分で未来を選べる名前」。
キボウは「明るい未来を思える名前」。
ユラは少し考えてから言った。
「私は……この世界で最初に生まれる人だから、『はじまり』を感じる名前がいいと思います」
全員が考え込む。
そのとき、悠真が空を見上げた。
三つの太陽。
無数の星。
虹色の大地。
そして、これから生まれてくる世界。
「……『アオ』はどうかな?」
光が揺れる。
「アオ?」
「空の色みたいに、どこまでも広がっていける感じがするから」
光はしばらく黙っていた。
やがて――。
「……うん」
小さな声が響いた。
「ぼく、『アオ』がいい」
その瞬間。
世界全体が光に包まれた。
『第一住民――名前確定』
『名称:アオ』
『誕生条件――完了』
時計塔の針が一気に動き出す。
残り時間――九時間。
そして、光の中心から小さな人影が現れ始めた。
白い髪。
青い瞳。
胸には、∞+1の紋章。
アオはゆっくりと目を開けた。
「……ここが、ぼくの世界?」
「そうだよ」
悠真が答える。
「ようこそ、アオ」
アオは空を見上げる。
すると、まだ存在していなかった一羽の小さな鳥が、空を飛び始めた。
続いて花が咲き、風が吹き、川の水が流れ出す。
『第一住民の誕生を確認』
『第∞+1世界――歴史の生成を開始』
しかし、その直後。
空に大きな文字が浮かんだ。
『第一の歴史――記録』
その下に、さらに一行。
『第一住民アオが誕生した理由を決定してください』
「……え?」
悠真たちは顔を見合わせた。
アオが生まれた理由。
それさえも、まだ決まっていない。
そして空の彼方から、記録者の声が響いた。
「これが……この世界で最初の『過去』になります」
悠真はアオを見る。
アオも悠真を見つめている。
第∞+1世界の本当の歴史が――
今、始まろうとしていた。




