第一住民の選択
巨大な門――『第一住民の選択』。
その前に、悠真たちは立っていた。
時計を見ると、第一住民が生まれるまで、残り十一時間。
「この門の先に、第一住民が選ぶ未来があるんだね」
悠真がそう言うと、ユラが静かにうなずいた。
「はい。でも……少し変なんです」
「何が?」
「この世界の第一住民は、まだ生まれていません。なのに、どうして選択できるのでしょう?」
カイが魔導書を開く。
「……記録には、こう書いてある」
ページには一行だけ記されていた。
『第一住民は、生まれる前に一度だけ未来を選ぶ』
「生まれる前に……」
ノノが驚く。
すると門がゆっくり開いた。
その向こうには、無数の景色が浮かんでいた。
緑豊かな世界。
巨大な都市。
魔法に満ちた世界。
静かな村。
宇宙へ続く世界。
そして、何も決まっていない真っ白な世界。
「どれか一つを選ぶのかな?」
ミオが尋ねる。
しかし、レインが首を横に振った。
「違うよ。あれは『未来の候補』そのものだ」
その瞬間、空から声が響いた。
『第一住民に未来を与えるため、選択してください』
悠真たちは顔を見合わせる。
「……僕たちが?」
オボロがつぶやいた。
「もし僕たちが選んだら、その子の未来を僕たちが決めてしまうことになる」
キボウも真剣な表情になる。
「それじゃあ……自由じゃない」
アカリが一歩前へ出る。
「でも、選ばなかったら、この世界はどうなるの?」
シンが答えた。
「きっと……生まれない」
沈黙が広がった。
そのとき、真っ白な世界の中から小さな光が現れた。
光はまだ言葉を話せない。
けれど、悠真たちのほうを向いている。
悠真は光を見つめた。
「……この子に選ばせよう」
「え?」
ノノが振り返る。
「僕たちが選ぶんじゃない。この子自身が選べるようにするんだ」
悠真は門の中央にある白い台へ手を置いた。
すると、すべての未来の景色が消えた。
代わりに、一つの新しい扉が現れる。
そこには――
『自分で選ぶ』
と書かれていた。
「これだ」
悠真が言う。
「未来を一つ決めるんじゃない。未来を選ぶ権利を、この子に渡す」
ユラの目が輝いた。
「それなら……私たちが作った世界でも、その子自身の世界になりますね」
カイが魔導書を閉じた。
「記録する」
魔導書に文字が浮かぶ。
『第一住民の選択――未来を自分で選ぶ権利』
その瞬間。
ドクン――。
世界全体が大きく揺れた。
三つの太陽が輝き、空に無数の星が生まれる。
そして、白い光がゆっくりと門の中へ進んでいった。
『第一住民の選択、完了』
時計塔の鐘が鳴る。
残り時間――十時間。
しかし、次の瞬間。
システムに新しい文字が表示された。
『第一住民――誕生準備開始』
『ただし、誕生には最後の条件があります』
悠真が画面を見る。
「最後の条件……?」
その下に、一文字ずつ文字が浮かんだ。
『名前』
ノノが驚く。
「名前が必要なの?」
ユラは静かに空を見上げた。
「まだ名前のない、この世界の最初の住民……」
すると、遠くから小さな声が聞こえた。
「……ぼくの名前……誰が決めるの?」
悠真たちは、一斉に振り返った。
そこには、まだ姿のない小さな光が浮かんでいた。
そして光は、もう一度問いかける。
「ぼくは……どんな名前になればいいの?」
悠真は答えず、仲間たちと顔を見合わせた。
この世界で初めて生まれる住民。
その名前を決めるのは――
誰なのか。




