第∞+1世界
『第∞+1世界』
そう刻まれた巨大な扉を、万能の絆号がくぐった。
まばゆい光が船を包み込む。
そして――。
「……静かだ」
悠真が窓の外を見る。
そこには、今まで見たことのない世界が広がっていた。
空には三つの太陽。
大地は透き通り、遠くには巨大な浮遊島。
そして中央には、誰もいない街があった。
ノノが窓に近づく。
「街があるのに……誰もいないね」
「家も店もある」
カイザー……ではなく、カイが周囲を確認しながら言った。
「でも、住んでいた形跡だけが残っている」
カイが魔導書を開く。
ページをめくっていく。
「この世界についての記録は……ない」
「名前は?」
悠真が聞く。
「それもない」
アカリが首をかしげた。
「世界なのに、名前がない?」
シンが静かに答える。
「まだ完成していない世界なのかもしれない」
そのとき――。
ゴォォォン……。
街の中央にある巨大な時計塔が鳴った。
一度。
二度。
三度。
三度目の鐘が鳴り響いた瞬間、街中の明かりが一斉に灯った。
そして――。
『おかえりなさい』
声が聞こえた。
全員が振り返る。
誰もいない。
『おかえりなさい』
今度は、街全体から声が響いた。
オボロが空を見上げる。
「この世界そのものが話している……」
すると悠真の足元に、一枚の白い紙が落ちてきた。
拾い上げると、文字が浮かび上がる。
『あなたたちは、この世界で最初に訪れた存在です』
続いて――。
『この世界には、まだ名前がありません』
さらに文字が現れる。
『名前を与えれば、この世界は正式に存在します』
悠真は驚いた。
「名前を付けなかったら?」
紙に答えが浮かぶ。
『この世界は、存在しない世界となります』
キボウが不安そうに言った。
「じゃあ……この世界の未来を、僕たちが決めるの?」
「そうみたいだね」
悠真は街を見渡した。
まだ誰も暮らしていない。
まだ何も決まっていない。
可能性だけが存在する世界。
そのとき――。
時計塔の頂上から、一筋の光が降りてきた。
光の中から、一人の少女が現れた。
白い髪。
透明な瞳。
胸には『∞+1』の紋章。
少女は悠真たちを見つめる。
「ようこそ」
悠真が尋ねる。
「君は、この世界の住人?」
少女は首を横に振った。
「まだ違います」
「まだ?」
「この世界が正式には存在していないからです」
少女は街を見渡した。
「私は、この世界が生まれる前から、ここで待っていました」
「誰を?」
少女は悠真を見る。
「あなたたちを」
悠真は驚いた。
「僕たちを?」
「はい」
少女はうなずく。
「あなたたちが、この世界に最初の名前を与えることになっているからです」
ノノが尋ねる。
「あなたの名前は?」
少女は少し寂しそうに笑った。
「私にも、まだ名前がありません」
「じゃあ……」
悠真は考える。
「名前を付けてもいい?」
少女はうなずいた。
「お願いします」
悠真は仲間たちを見る。
ノノ。
カイ。
アカリ。
シン。
オボロ。
キボウ。
ミオ。
レイン。
そして自分。
これまでの旅で出会い、共に未来を選んできた仲間たち。
悠真は少女に言った。
「君の名前は……『ユラ』」
「ユラ……?」
「まだ決まっていない未来が、ゆっくり揺れながら形になっていく感じ」
少女――ユラは、初めて笑った。
「……素敵な名前」
その瞬間。
空に一つの星が生まれた。
「!」
星が輝き、世界中に光が広がっていく。
時計塔。
街。
空。
大地。
すべてが少しずつ色を持ち始めた。
しかし――。
万能の絆号から警告音が鳴った。
『世界情報を更新します』
『世界番号:∞+1』
『住民数:1』
『創造者数:0』
悠真は画面を見つめる。
「創造者が……0?」
カイが驚く。
「誰も、この世界を作っていない?」
ミオがつぶやく。
「でも、ユラが生まれた」
シンが首を横に振る。
「正確には……まだ生まれていない」
「え?」
シンは計器を指差した。
そこには新しい文字が表示されていた。
『創造者候補:9名』
悠真たちは顔を見合わせる。
ノノ。
カイ。
アカリ。
シン。
オボロ。
キボウ。
ミオ。
レイン。
そして――悠真。
「僕たち9人が……創造者候補?」
すると、ユラが突然、悠真を見つめた。
「違います」
「え?」
「創造者は9人ではありません」
ユラが空を指差す。
そこには、無数の光が浮かんでいた。
「この世界を作るのは、ここにいる全員です」
悠真が驚く。
「全員……?」
「はい」
ユラは微笑んだ。
「この世界には、まだ未来が一つも決まっていません」
「だから――」
ユラの胸の紋章が輝く。
「ここで選ばれたすべての未来が、この世界を作ります」
その瞬間。
街の中央に巨大な扉が現れた。
扉には、こう刻まれている。
『第∞+1世界・創造室』
さらに、その下に小さな文字が浮かんだ。
『最初の選択をしてください』
悠真は扉に近づいた。
すると扉が開く。
その奥には――。
何もない巨大な空間。
そして中央に、一冊の真っ白な本が置かれていた。
カイが息をのむ。
「この本……」
悠真が近づく。
表紙には、たった一文字。
『未来』
そして本が、ひとりでに開いた。
最初のページに文字が浮かび上がる。
『第∞+1世界を、どんな世界にしますか?』
悠真は仲間たちを見る。
今度は誰か一人が答えるのではない。
みんなで決めるのだ。
悠真は笑った。
「じゃあ――」
新しい世界の最初の選択が始まった。




