原初世界・もう一人の悠真
キズナ号は、光の門を抜けた。
その瞬間――。
すべての音が消えた。
「……静か」
ノノが窓の外を見る。
そこには、何もなかった。
星もない。
太陽もない。
大地もない。
時間さえ流れているのか分からない。
ただ、巨大な白い空間が広がっていた。
「ここが……原初世界」
ハジメがつぶやく。
アカリが周囲を見渡した。
「ここは、第∞世界よりもさらに前」
シンが静かに続ける。
「僕たちが生まれる前の場所だ」
そのとき――。
キズナ号の前方に、一つの小さな光が現れた。
光は人の姿へ変わっていく。
「……来たんだね」
その声を聞いた瞬間。
悠真は立ち止まった。
「この声……」
見覚えのある姿だった。
自分と同じ顔。
自分と同じ声。
けれど、その人物は悠真より少し幼く見えた。
「僕は――」
少年は悠真を見る。
「君になる前の君」
ノノが目を丸くする。
「悠真が……もう一人?」
少年は首を振った。
「正確には違う」
「僕は、君が最初に選択する前の存在」
悠真は少年を見つめた。
「僕が……選択する前?」
「そう」
少年は白い空間を指差した。
「ここには、何もなかった」
「世界も」
「時間も」
「未来も」
「名前も」
「そして――」
少年は悠真を見る。
「君自身も」
悠真は言葉を失った。
「じゃあ、どうして僕が……」
「最初に君が選んだから」
少年の手のひらに、小さな光が生まれた。
それは、まだ何の形も持っていない。
「存在する」
たった一つの言葉。
それだけだった。
しかし、その瞬間――。
白い空間に、小さな点が生まれた。
点は光になり、光は星になった。
「これが最初の選択」
少年が言う。
「『存在したい』という選択」
シンがその星を見つめる。
「……それが僕たちの始まりだったのか」
「うん」
少年はうなずいた。
すると、次々に光が生まれた。
可能性。
時間。
世界。
生命。
未来。
そして――。
きずな。
悠真が持つ羽も光り始める。
ノノが羽を見る。
「全部、ここから始まったんだ……」
しかし、悠真には一つ疑問があった。
「じゃあ、なぜ僕はそれを忘れているの?」
少年は少し寂しそうに笑った。
「忘れたんじゃない」
「……?」
「託したんだよ」
「誰に?」
少年は悠真の胸を指差した。
「今の君に」
その瞬間。
悠真の頭の中に、いくつもの光景が流れ込んできた。
初めて仲間と出会ったこと。
困っている人を助けたこと。
失敗したこと。
笑ったこと。
迷ったこと。
そして――。
「一緒に行こう」
そう言った自分。
悠真は胸に手を当てた。
「僕は……最初から全部を知っていたわけじゃなかった」
「うん」
「でも、誰かと出会うたびに、何かが生まれていった」
「それが君の選択だったんだ」
少年が微笑む。
そのとき、カイの本が突然開いた。
ページに大きな文字が浮かぶ。
『真実』
続いて、別の文章が現れた。
『世界を作ったのは、一人ではない』
『世界を作ったのは、選択したすべての存在である』
悠真が顔を上げる。
「じゃあ……創造者っていうのは?」
少年は答えた。
「君だけじゃない」
「みんなだよ」
ノノが驚く。
「私も?」
「うん」
カナタも。
ヒカリも。
ソラも。
ハジメも。
トキも。
トワも。
ミライも。
カイも。
ユメも。
アカリも。
シンも。
ヒナタも。
オボロも。
キボウも。
ミオも。
全員がそれぞれ、自分の選択によって未来を作っていた。
そして――。
九つの鍵が、再び現れた。
可能性。
存在。
始まり。
きずな。
思い出。
希望。
選択。
約束。
真実。
九つの光が、悠真たちの前で一つになる。
すると、少年が言った。
「これで、最後の問いを聞ける」
「最後の問い?」
少年はうなずいた。
「君が旅を続けてきた理由」
悠真は考える。
世界を救うため?
謎を解くため?
鍵を集めるため?
どれも間違ってはいない。
けれど――。
悠真は仲間たちを見る。
ノノが笑っている。
キボウも笑っている。
ミオも。
オボロも。
ユメも。
みんなが悠真を見ている。
悠真はゆっくり答えた。
「……みんなと、未来を見たかったから」
少年が目を閉じる。
そして――。
笑った。
「それが答えだよ」
ズンッ――!
原初世界全体が揺れた。
九つの鍵が巨大な光となり、キズナ号を包み込む。
そして、白かった世界に――。
一つの道が生まれた。
その道の先には、無数の世界がある。
生まれた世界。
これから生まれる世界。
まだ選ばれていない世界。
すべてがつながっている。
しかし、その中央に一つだけ、黒い点があった。
ミライが気づく。
「あれは……?」
アカリが青ざめる。
「世界じゃない」
ハジメが続ける。
「可能性でもない」
シンが言った。
「存在ですらない」
オボロが静かに言う。
「記憶でもない」
ミオが首を振る。
「選択でもない」
そしてキボウがつぶやいた。
「希望……でもない」
悠真は黒い点を見つめた。
すると、黒い点から声が響いた。
「……全部、見つけたんだね」
その声は――。
悠真の声だった。
しかし、今まで出会った「もう一人の悠真」とも違う。
もっと遠く。
もっと深い場所から響いてくる。
「なら、最後の世界へ来て」
黒い点が巨大な扉へ変わった。
扉には、初めて文字が浮かぶ。
『第十の鍵――答え』
悠真は仲間たちを見る。
そして、ゆっくり前へ進んだ。
「行こう」
キズナ号が動き出す。
原初世界のさらに奥へ。
その先に待つのは――。
すべての世界が生まれた理由。
そして、悠真たちがここまで旅をしてきた本当の意味だった。




