第九の鍵・真実
『創造者――悠真』
キズナ号の中央画面に表示された文字。
誰も動かなかった。
「……僕が?」
悠真は自分を指差した。
「創造者って……どういうこと?」
ハジメが画面を調べる。
「待って。これは単純な本人認証じゃない」
カイも本を開く。
「過去の記録が……書き換わっている?」
「書き換わった?」
ノノが驚く。
カイはページをめくる。
そこには、これまでの旅の記録が並んでいた。
しかし、一番最初のページだけが真っ白だった。
「悠真がこの旅を始める前の記録だけ、存在しない」
悠真は考え込んだ。
「僕が……この世界を作った?」
するとミオが首を振った。
「違うと思う」
「え?」
「創造者という言葉は、『全部を作った人』という意味じゃない」
ミオは画面を見つめる。
「『最初に選択した人』という意味かもしれない」
その瞬間――。
第九の扉が開いた。
ゴゴゴゴゴ……。
扉の向こうには、巨大な図書館が広がっていた。
本棚はどこまでも続いている。
一冊一冊の本には、世界の名前が書かれていた。
『にじの世界』
『物語世界』
『第∞世界』
『未来迷路』
そして――。
『悠真』
「……僕の名前の本?」
悠真が手を伸ばす。
しかし、本に触れる直前――。
バタン!
本が勝手に開いた。
最初のページに、一つの文章が浮かび上がる。
『この物語は、悠真が最初の選択をした日から始まった』
「最初の選択……」
悠真は記憶を探る。
けれど、思い出せない。
そのとき、オボロが悠真の肩に手を置いた。
「思い出せないことには、理由があるのかもしれない」
「うん……」
すると、本の次のページがめくれた。
そこには一枚の絵が描かれていた。
まだ何もない白い世界。
そこに、一人の小さな子どもが立っている。
「……これ、誰?」
ノノが尋ねる。
悠真は絵を見つめた。
なぜか胸が温かくなる。
「……わからない」
さらにページがめくられる。
『世界には、まだ名前がなかった』
『時間もなかった』
『未来もなかった』
『可能性さえなかった』
その白い世界に、小さな光が生まれていた。
そして、絵の中の子どもがその光へ手を伸ばしている。
『最初に選ばれたもの――』
『それは、存在することだった』
シンが目を見開く。
「……僕の始まりと同じだ」
さらにページがめくられる。
『次に生まれたもの――』
『可能性』
アカリが反応する。
『そして――始まり』
ヒナタが輝く。
『きずな』
悠真の持つ羽が光る。
『思い出』
オボロの胸元が輝く。
『希望』
キボウの光が強くなる。
『選択』
ミオの胸元が七色に輝く。
『約束』
八つ目の光がみんなを包む。
そして最後に――。
『真実』
ページが真っ白になった。
「……真実だけ、書かれてない」
カイが言う。
その瞬間、図書館の奥から声が響いた。
「それは当然だよ」
悠真たちは振り返る。
そこに、一人の人物が立っていた。
白い服。
長い髪。
そして――悠真とよく似た瞳。
「あなたは……?」
悠真が尋ねる。
人物は答えた。
「私は『記録される前の悠真』」
「え……?」
ノノが驚く。
人物は続けた。
「君が忘れている記憶」
「君がまだ選んでいない未来」
「君が知らない真実」
「それらを全部知っている」
悠真は一歩近づいた。
「じゃあ、僕は何者なの?」
人物は静かに答えた。
「君は創造者ではない」
悠真が驚く。
「じゃあ、なぜ『創造者』って表示されたの?」
人物は微笑んだ。
「君が最初に作ったのは――世界じゃない」
「……何を?」
「仲間だよ」
悠真は目を見開いた。
その瞬間。
これまでの旅の光景が、図書館いっぱいに映し出された。
ノノと出会った日。
カナタと出会った日。
ヒカリとソラ。
ハジメ。
トキ。
トワ。
ミライ。
カイ。
ユメ。
アカリ。
シン。
ヒナタ。
オボロ。
キボウ。
ミオ。
そして――。
悠真自身。
人物が言う。
「君が誰かと出会い、誰かを受け入れ、誰かと未来を選ぶたびに、新しい世界が生まれてきた」
「つまり……」
悠真がつぶやく。
「僕が作ったのは、世界じゃなくて……」
ノノが笑った。
「つながり?」
「うん」
人物はうなずく。
「それこそが、九つの鍵を生み出した理由」
可能性。
存在。
始まり。
きずな。
思い出。
希望。
選択。
約束。
そして――真実。
九つの鍵が一斉に輝いた。
ズォォォン!
図書館全体が震える。
九つの鍵が空中へ浮かび上がり、一つの巨大な鍵へと変わっていく。
その鍵には――。
『未来』
と刻まれていた。
しかし、人物の表情が突然曇った。
「……でも」
「まだ足りない」
悠真が尋ねる。
「何が?」
人物は図書館の最奥を指差した。
そこには、誰も触れたことのない巨大な扉があった。
扉には文字がない。
鍵穴もない。
ただ、一つの小さな手形だけが刻まれている。
人物が言う。
「十個目の鍵は、鍵ではない」
「じゃあ、何?」
「『答え』だよ」
その瞬間、巨大な扉の向こうから――。
悠真自身の声が聞こえた。
『僕は、何のためにこの旅をしている?』
悠真は息をのんだ。
そして、九つの鍵が消えた。
代わりにキズナ号の世界地図に、新しい場所が表示される。
『最終世界――原初世界』
ミオが小さくつぶやく。
「……全部の始まりの場所」
悠真は仲間たちを見る。
「行こう」
キズナ号がゆっくり動き始める。
その瞬間、図書館の人物が最後に告げた。
「悠真」
「何?」
「原初世界で、君は必ず自分自身に会う」
「……自分自身に?」
「そして、そのとき初めて――」
人物は微笑んだ。
「君が本当に何を選んだのか、わかる」
キズナ号は光の門へ突入した。
その先に広がっていたのは――。
すべての世界が生まれる前の世界。
『原初世界』




