選択世界
「やっと、ここまで来たね」
巨大な扉の向こうに立っていた人物。
その姿を見た瞬間、悠真は息をのんだ。
「……あなたは?」
人物は、ゆっくり顔を上げた。
長い白い髪。
透明な瞳。
そして胸元には、七色に輝く小さな紋章。
カイが本を開く。
しかし――。
ページには何も書かれなかった。
「記録できない……」
「当然だよ」
人物は静かに答えた。
「私は、まだ選ばれていない存在だから」
「選ばれていない……?」
ノノが首をかしげる。
人物はうなずいた。
「ここは『選択世界』。無数の選択肢が、実際の世界になる前に集まる場所」
ハジメが周囲を見回した。
すると、白い空間の中に無数の扉が浮かび上がった。
一つの扉には――
『旅を続ける』
別の扉には――
『旅をやめる』
さらに、
『出会う』
『出会わない』
『助ける』
『助けない』
『戻る』
『進む』
ありとあらゆる選択肢が並んでいる。
ユメが目を丸くした。
「こんなにいっぱい……!」
ミライがつぶやく。
「これが全部、未来になる可能性なの?」
「違う」
人物が答えた。
「選択肢は、未来そのものじゃない」
「じゃあ何?」
悠真が尋ねる。
「未来を作るための入口だよ」
その言葉と同時に、六つの鍵が輝いた。
『可能性』
『存在』
『始まり』
『きずな』
『思い出』
『希望』
六つの光が中央に集まる。
すると――。
七つ目の鍵穴が現れた。
しかし、鍵そのものはどこにもない。
「第七の鍵……『選択』」
カイが読み上げる。
「鍵はどこにある?」
人物は悠真を見た。
「もう持っているよ」
「僕が?」
「うん」
悠真が自分の手を見る。
そこには何もない。
「見えないけど……?」
「選択は、手に持つものじゃない」
人物は胸に手を当てた。
「自分で決めるものだから」
その瞬間だった。
ズズズズズ……。
選択世界全体が揺れ始めた。
無数の扉が一斉に開き始める。
「危ない!」
カナタが叫ぶ。
扉の向こうから、別々の未来が流れ込んできた。
巨大な都市。
森に囲まれた村。
海の上を走る船。
誰もいない世界。
笑い声に包まれた世界。
静まり返った世界。
そして――。
悠真たちが存在しない世界。
ノノが青ざめる。
「私たちが……いない?」
「選択肢の一つだよ」
人物が言う。
「この世界では、どんな未来も否定されない」
「じゃあ、僕たちがいなくなる未来も……?」
「そう」
悠真は黙った。
そのとき、オボロが一歩前へ出た。
「……だから怖いんだね」
人物がオボロを見る。
「何が?」
「選択するということが」
オボロは静かに続けた。
「一つを選べば、別の可能性を選ばないことになる」
「……」
「僕は昔、それが怖かった」
記憶を失ったときのことを思い出す。
「だから全部消してしまえば、選ばなくて済むと思った」
悠真がオボロを見る。
「でも、違ったんだよね」
「うん」
オボロは笑った。
「選ばなかったことも、ひとつの選択だった」
その言葉に、七つ目の鍵穴が強く輝いた。
人物が驚く。
「……そこまで理解したんだ」
悠真は尋ねた。
「あなたは誰なの?」
人物はしばらく黙っていた。
そして――。
「私は、『選ばれなかった未来』」
「え……?」
「誰かが選ばなかったことで生まれた存在」
その瞬間、カイの本に初めて文字が浮かんだ。
『名前――ミオ』
人物は微笑んだ。
「私の名前は、ミオ」
ユメが嬉しそうに言う。
「ミオ!」
「うん」
ノノが近づく。
「じゃあ、ミオも一緒に来ればいいよ」
ミオは驚いた。
「……私を?」
「だって、まだ選ばれてないんでしょ?」
ノノは笑った。
「だったら今、選べばいいじゃん」
ミオは目を見開いた。
「私が……自分で?」
「うん!」
しばらくして――。
ミオは悠真たちを見た。
「じゃあ……」
小さく手を伸ばす。
「私は、あなたたちと旅をする未来を選ぶ」
その瞬間。
ドォォォン――!
七つ目の鍵が現れた。
黄金色でも、銀色でもない。
七色の光を持つ鍵だった。
『選択』
六つの鍵と七つ目の鍵が一つになる。
可能性。
存在。
始まり。
きずな。
思い出。
希望。
そして――選択。
七つの光がキズナ号へ戻っていく。
船内の世界地図が更新された。
しかし、そこに表示されたものを見て、全員が言葉を失った。
地図の中心。
そこに新しい文字が浮かんでいた。
『第八の鍵――「約束」』
「……まだあるの?」
カナタが驚く。
ハジメは地図を見つめた。
「七つの鍵を集めたことで、さらに先の領域が開いたんだ」
ミライが続ける。
「でも、『約束』って……何と約束するの?」
すると、キズナ号の窓の外に、一つの巨大な星が現れた。
星には、無数の文字が刻まれている。
その中に、ひときわ大きな文字があった。
『未来へ』
そして星の向こうから、声が聞こえる。
「約束は、未来と交わすもの」
「あなたたちは、未来に何を約束する?」
悠真は窓の外を見た。
まだ誰も答えを知らない。
けれど――。
七つの鍵を集めた今なら、一歩ずつ進める。
悠真は仲間たちを見る。
ノノ。
カナタ。
ヒカリ。
ソラ。
ハジメ。
トキ。
トワ。
ミライ。
カイ。
ユメ。
アカリ。
シン。
ヒナタ。
オボロ。
キボウ。
そして、新しい仲間――ミオ。
「行こう」
悠真が言った。
「次の世界へ」
キズナ号が動き出す。
その船首に、新しい文字が浮かんだ。
『約束世界』
そして、遠くの星がゆっくりと開いていった。




