第六の鍵・希望
「――六つ目の鍵は、『希望』です」
未来の扉の向こうから、静かな声が響いた。
悠真たちは、しばらく誰も言葉を出せなかった。
「希望……」
ノノが小さくつぶやく。
カイは手にした本を閉じた。
「これまでの五つとは、少し違う気がするね」
ハジメもうなずいた。
「可能性は『こうなるかもしれない』。存在は『ここにある』。始まりは『最初の一歩』。きずなは『つながること』。思い出は『過去を受け取ること』」
そして、悠真を見る。
「なら、希望は――未来に向かって進むためのものなんじゃないかな」
その瞬間だった。
六つの鍵のうち、まだ存在していない「希望」の場所だけが、ぽっかりと空いていることに気づいた。
すると――。
ピコン。
キズナ号の中央に、見たことのない表示が浮かんだ。
『希望の所在――検索不能』
「え?」
ミライが驚く。
「未来なのに、検索できない……?」
トキが時計を確認する。
「時間軸にも存在しない」
アカリが目を閉じる。
「可能性にも、まだ現れていないみたい」
ユメが首をかしげた。
「じゃあ、希望はどこにあるの?」
その問いに答えるように、未来の扉がゆっくり閉じ始めた。
「待って!」
悠真が扉へ駆け寄る。
すると扉に、一行の文字が浮かんだ。
『希望は、見つけるものではない』
「……?」
次の瞬間、文字が変わった。
『生み出すものだ』
カッ――!
船内がまばゆい光に包まれた。
気がつくと、悠真たちは見知らぬ場所に立っていた。
そこには何もなかった。
空もない。
大地もない。
星もない。
ただ、真っ白な空間がどこまでも続いている。
ノノが周囲を見回す。
「ここ……どこ?」
カイが本を開く。
しかし、ページには何も書かれていない。
「記録できない……」
シンが静かに言った。
「ここには、まだ何も起きていないんだ」
そのとき。
遠くから、かすかな声が聞こえた。
「……もう、無理だよ」
悠真たちは声の方向を見る。
そこには、一人の小さな少年が座っていた。
少年は膝を抱え、下を向いている。
「何をしても変わらない」
「……」
「何度やっても失敗する」
少年の周囲には、たくさんの壊れた小さな星が転がっていた。
「だから、もう何も期待しない」
ノノが一歩近づく。
「どうして?」
「期待したら……また悲しくなるから」
その言葉に、誰もすぐには答えられなかった。
すると悠真が少年の隣に座った。
「それでも、もう一回やってみない?」
少年が顔を上げる。
「……また失敗するよ」
「うん」
悠真はうなずいた。
「失敗するかもしれない」
「じゃあ、なんで?」
「成功するかもしれないから」
少年は黙った。
悠真は続ける。
「未来が決まっていないなら、やってみる意味はあると思う」
ノノも笑った。
「一人で無理なら、みんなでやればいいよ!」
カナタも言った。
「壊れた星なら、直せるかもしれない」
ヒカリとソラも星を拾い始める。
ユメは両手を広げた。
「新しい星を作ろう!」
アカリから小さな光が生まれた。
ヒナタもその光に近づく。
シンは黙って、その光を守るように立った。
オボロは壊れた星の一つを拾った。
「……思い出せるなら、やり直せることもあるのかもしれない」
そして――。
レインが空のない空間で、大きく翼を広げた。
虹色の光が広がっていく。
一つ。
また一つ。
壊れていた星に光が戻っていった。
少年が目を丸くする。
「……星が……」
悠真が立ち上がる。
「ほら」
少年は初めて笑った。
その瞬間――。
カッ!
六つ目の鍵が現れた。
それは、これまでの鍵とは違っていた。
金属でも、宝石でもない。
小さな光だった。
光は少年の胸元へ飛んでいき、そこで輝いた。
少年は驚いた。
「これ……なに?」
未来そのものの声が響く。
「それが、希望です」
六つの鍵が光り始める。
「希望とは、未来が明るいと信じることだけではありません」
「暗くても、もう一度歩こうと思える心」
「失敗しても、もう一度試そうと思える心」
「誰かと一緒なら、変えられるかもしれないと思える心」
そして光が、少年の手の中へ移った。
少年はその光を見つめる。
「……じゃあ、僕も一緒に行っていい?」
悠真は笑った。
「もちろん」
「名前……まだないんだ」
ノノが考える。
ユメが手を挙げた。
「『キボウ』!」
ノノが笑う。
「そのままだね!」
すると少年も笑った。
「うん。僕は――キボウ」
その瞬間、白い世界に一本の道が生まれた。
道の先には、まだ見たことのない巨大な扉。
そこには――。
『第七の鍵』
と書かれていた。
「……え?」
カイが本を落としそうになる。
ハジメが目を見開く。
「六つで終わりじゃないのか?」
未来そのものの声が、静かに響いた。
「六つの鍵は、世界を未来へ進ませるための鍵」
「そして第七の鍵は――」
そこで声が途切れた。
扉の向こうから、誰かが言った。
「――『選ぶ』ための鍵だよ」
悠真たちは顔を見合わせた。
その声には、どこか聞き覚えがあった。
「この声……」
悠真がつぶやく。
扉がゆっくり開いていく。
その向こうに立っていたのは――。
かつて、原点で出会った「未来の本」に描かれていた人物だった。
そしてその人物は、悠真たちを見て言った。
「やっと、ここまで来たね」
キズナ号の世界地図が激しく光る。
新たな領域が開かれた。
そこに表示された名前は――。
『選択世界』




