最初の沈黙
きずなの船は、暗闇の奥へ進んでいた。
前には何もない。
後ろにも何もない。
ただ、一定の間隔で――。
ドン……。
ドン……。
何かが動く音だけが響いている。
ノアは船の先端から動かなかった。
「……あの音。」
アカリが隣に立つ。
「怖いですか?」
ノアは少し考えてから答えた。
「うん。」
そして悠真を見る。
「でも、知りたい。」
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■ 最初の沈黙
しばらく進むと、暗闇の中に巨大な空間が現れた。
そこだけ、何かに囲まれている。
壁もない。
天井もない。
それなのに、明らかに「部屋」のようになっていた。
ハジメが世界間時計を確認する。
「ここは……。」
トワが続ける。
「時間が生まれる直前の場所です。」
カイが本を開く。
しかしページには――。
何も書かれない。
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■ 巨大な影
突然、目の前に巨大な影が現れた。
あまりにも大きい。
レインですら、その全体を見ることができない。
ノノが小声で言う。
「大きすぎる……。」
影はゆっくり動く。
そして――。
「名前をつけるな。」
低い声が響いた。
悠真が尋ねる。
「どうして?」
「名前は、形を与える。」
「形は、境界を生む。」
「境界は、世界を生む。」
影は答える。
「私は世界を生みたくない。」
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■ 何もない理由
アカリが前へ出る。
「あなたが、ここを何もない場所にしているのですか?」
影は答える。
「そう。」
「私は、最初に『何もない』を選んだ。」
悠真が驚く。
「何もないことを?」
「そう。」
「何もなければ、失うこともない。」
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■ ノアの質問
ノアが影を見る。
「じゃあ、どうして私を怒っているの?」
影はしばらく黙った。
そして答える。
「お前が、最初の一歩を踏み出したからだ。」
「私はずっと、何もないことを守っていた。」
「だが、お前は――。」
「存在した。」
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■ 「存在する」ということ
ノアは自分の手を見る。
「存在するのは、悪いこと?」
影は答える。
「分からない。」
「だから怖い。」
ノノが言う。
「じゃあ、あなたも知らないんだ。」
影が止まる。
「……何?」
「存在することが本当に悪いのか、まだ分からないんでしょ?」
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■ ノノの答え
ノノは笑う。
「だったら、一緒に確かめればいいじゃん。」
影は何も言わない。
カナタが続ける。
「知らないなら、知ればいい。」
ミライも言う。
「未来は、最初から決まっているわけじゃないから。」
トワが頷く。
「可能性も同じです。」
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■ 悠真の提案
悠真が影に向かって言う。
「あなたも、一緒に外へ来ない?」
影が驚く。
「私が?」
「うん。」
「私は何もない存在だ。」
「それでもいい。」
悠真は笑う。
「仲間になるのに、最初から何かを持っている必要はないよ。」
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■ 初めての感情
影が黙る。
長い沈黙。
そして――。
「……仲間。」
その言葉を口にした瞬間。
影の周囲に小さな光が生まれた。
ノアが驚く。
「光ってる。」
アカリも驚いている。
「感情が、存在を変えています。」
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■ 影の正体
巨大な影が少しずつ小さくなっていく。
巨大な身体。
大きな頭。
長い腕。
そして――。
最後には、悠真たちと同じくらいの大きさになった。
姿は少年のようだった。
黒い髪。
銀色の瞳。
そして、胸には何もない。
名前もない。
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■ 名前をつける
ノアが言う。
「名前、必要?」
少年は答える。
「……分からない。」
悠真は少し考える。
「じゃあ――。」
「シンはどう?」
少年が尋ねる。
「シン?」
「新しいことを始める『新』。」
アカリが笑う。
「そして、真実の『真』にもできますね。」
少年は胸に手を当てる。
そこに初めて、小さな光が生まれた。
「……シン。」
「いい名前だ。」
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■ 最初の沈黙が終わる
シンが名前を受け入れた瞬間――。
暗闇に音が戻った。
風。
水。
鳥の声。
そして――。
遠くから聞こえる、誰かの笑い声。
「世界が……。」
ハジメが驚く。
「生まれてる!」
シンが振り返る。
何もなかった場所に――。
小さな青い星が浮かんでいる。
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■ 最初の世界
アカリがその星を見る。
「これが……。」
ノアが言う。
「私たちが作った世界?」
シンは首を横に振る。
「違う。」
悠真が尋ねる。
「じゃあ何?」
シンは星を見つめる。
「私が初めて――。」
少し考えて。
「生きてみたいと思った世界。」
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■ 世界の名前
ノノが笑う。
「じゃあ、名前をつけよう!」
みんなで考える。
「始まりの星?」
「最初の星?」
「新しい星?」
最後にユメが言う。
「あした星は?」
悠真が振り返る。
「いいね。」
ユメが笑う。
「だって、明日があるってことだから。」
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■ あした星
シンが空に手を伸ばす。
「あした星。」
その言葉に反応するように、星が輝く。
そして――。
周囲に小さな星が次々と生まれ始める。
一つ。
十。
百。
千。
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■ 新しい世界の誕生
トワが時計を見る。
「時間が始まります。」
トキが驚く。
「空間も安定しています。」
カイが本を書く。
今度は文章が次々と浮かび上がる。
『あした星が生まれた。』
カイが笑う。
「初めて、歴史が書かれた。」
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■ シンの決断
シンは悠真を見る。
「私も、旅をしていい?」
悠真は頷く。
「もちろん。」
ノアが笑う。
「これで三人。」
アカリも笑う。
「可能性、始まり、そして存在。」
ノノが指を数える。
「だんだん難しくなってきた!」
みんなが笑った。
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■ しかし、星の向こうに
そのとき――。
あした星のさらに向こう。
誰にも見えない場所で、一つの巨大な目が開いた。
ギョロッ。
そして、誰にも聞こえない声で呟く。
「三つの始まりが揃った。」
「これで、扉を開けられる。」
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■ 三つの鍵
悠真たちの船に戻る。
アカリ。
ノア。
シン。
三人が並ぶ。
すると、きずなの船の中央に――。
今まで存在しなかった三つの扉が現れた。
一つ目には、
『可能性』
二つ目には、
『存在』
三つ目には、
『始まり』
と書かれている。
悠真が驚く。
「これ……何?」
アカリが答える。
「分かりません。」
ノアが扉に触れる。
すると――。
三つの扉の奥から、同時に声が響いた。
「第四の鍵を探せ。」
シンが尋ねる。
「第四の鍵?」
声が答える。
「そう。」
「それは、あなたたちが最初から持っている。」
悠真たちは顔を見合わせる。
そして、船の中央に――。
新しい光が現れた。
その形は、
小さな羽根。




