始まりより前
きずなの船は、誰も知らない場所へ向かっていた。
前方に見えるのは、光でも闇でもない。
「何もない」
という言葉すら当てはまらない空間。
アカリは窓の外を見つめていた。
「ここから先が……『始まりより前』です。」
ノノが尋ねる。
「アカリでも、ここには来たことがないの?」
「ありません。」
アカリは少し寂しそうに笑った。
「だって、私が生まれる前の場所だから。」
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■ 世界間時計が消える
突然、
ピッ。
世界間時計の表示が消えた。
ハジメが驚く。
「故障?」
トワが時計を調べる。
「違います。」
「時計が時間を測れなくなっています。」
カイも自分の本を見る。
白紙。
「記録もできない。」
レインが翼を広げる。
「この先では、私の力も使えないかもしれない。」
悠真は静かに前を見る。
「それなら、歩いて行こう。」
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■ 船を降りる
きずなの船が停止する。
悠真。
ノノ。
カナタ。
ヒカリ。
ソラ。
ハジメ。
トキ。
トワ。
ミライ。
カイ。
ユメ。
アカリ。
そしてレイン。
全員が船を降りる。
足元には何もない。
それなのに、ちゃんと立っていられる。
ノノが一歩進む。
「地面……あるのかな?」
カナタが答える。
「分からない。」
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■ 音のない世界
誰も話さなくなる。
話しているのに、声が聞こえない。
ノノが口を動かす。
「みんな、聞こえる?」
声は出ている。
でも音にならない。
ユメがアカリの手を握る。
アカリは優しく頷いた。
すると――。
ユメの手から小さな光が生まれた。
その光が仲間たちをつないでいく。
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■ 「言葉」より前
ハジメが気づく。
「ここでは、言葉すら生まれる前なんだ。」
だから声が届かない。
名前も。
文章も。
物語も。
まだ存在していない。
カイは自分の本を閉じる。
「記録するという概念そのものがない。」
アカリが静かに言う。
「ここは、本当に『始まりより前』なんですね。」
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■ 最初の光
突然、遠くに小さな光が現れた。
ほんの小さな点。
アカリが立ち止まる。
「……あれは。」
悠真が聞く。
「知ってるの?」
アカリは首を横に振る。
「いいえ。」
「でも――。」
光を見つめる。
「私に似ています。」
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■ 光から声が生まれる
小さな光が揺れる。
すると、初めて音が生まれた。
「……だれ?」
ノノが驚く。
「しゃべった!」
光が尋ねる。
「ここは、どこ?」
悠真が答える。
「僕たちも分からない。」
光はしばらく黙る。
そして――。
「じゃあ、いっしょに探そう。」
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■ 最初の友達
ノノが笑う。
「もちろん!」
すると光が少し大きくなる。
カナタが尋ねる。
「名前はある?」
「ない。」
ノノが考える。
「じゃあ、名前をつけよう!」
アカリが微笑む。
「私たちが最初に名前をつけることになりますね。」
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■ 新しい名前
悠真は光を見る。
最初の光。
まだ何も決まっていない。
そこで――。
「ヒナタはどう?」
光が揺れる。
「ヒナタ……?」
「うん。」
「暖かい場所って感じがするから。」
光が嬉しそうに輝く。
「ヒナタ!」
その瞬間。
何もなかった空間に――。
初めて小さな温かさが生まれた。
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■ ひとつ目の「存在」
ハジメが驚く。
「名前をつけたことで、存在が確定した。」
トワが頷く。
「ここでは、名前そのものが世界を作る力になるんですね。」
カイが本を開く。
今度は――。
一行だけ書けた。
『ヒナタ』
カイが笑う。
「初めて記録できた。」
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■ しかし、異変
ヒナタが突然震える。
「……怖い。」
悠真が尋ねる。
「どうしたの?」
ヒナタは暗闇の奥を見る。
「向こうに――。」
「何かいる。」
全員が振り返る。
何もない。
でも――。
何かが近づいている。
音はない。
姿もない。
それでも、確かに存在を感じる。
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■ 「やっと見つけた」
暗闇の奥から声が響く。
今度は全員に聞こえた。
「やっと見つけた。」
悠真が身構える。
「誰だ!」
声が答える。
「私は、あなたたちを探していた。」
アカリの表情が変わる。
「……あなたは、誰?」
しばらく沈黙。
そして――。
「名前はない。」
「名前を持つ前の存在だから。」
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■ アカリが知る真実
アカリが一歩前へ出る。
「あなたは……。」
「私より前に存在していた?」
声が答える。
「そう。」
「私は可能性より前。」
「世界より前。」
「物語より前。」
「時間より前。」
そして――。
「『存在する』という概念より前。」
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■ それは敵なのか?
ノノが尋ねる。
「じゃあ、悪い人?」
声は答えない。
悠真が続ける。
「僕たちをどうするつもり?」
しばらくして――。
「何もしない。」
「ただ、一つだけお願いがある。」
悠真が聞く。
「何?」
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■ 名前をつけてほしい
声が言う。
「私にも、名前をつけてほしい。」
全員が驚く。
カイが呟く。
「名前を……?」
「そう。」
「私はずっと名前がなかった。」
「だから、どこにも存在できなかった。」
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■ 悠真の答え
悠真は少し考える。
そして仲間たちを見る。
ノノ。
カナタ。
アカリ。
ユメ。
みんなが頷く。
悠真は暗闇へ向かって言った。
「じゃあ、一緒に考えよう。」
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■ 名前を持つということ
アカリが微笑む。
「名前は、存在を決めるものだけではありません。」
「誰かに呼んでもらうためのものでもあります。」
ヒナタが光る。
「僕も、名前をもらって嬉しかった。」
暗闇の存在が初めて黙り込む。
そして――。
小さな声で言った。
「……嬉しい、というのは、こういうもの?」
ノノが笑う。
「そうだよ!」
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■ 名前の候補
みんなで考える。
「ゼロ?」
「それだと何もない感じがする。」
「ハジメ?」
「もういるよ。」
「ソラ?」
「これもいる。」
最後に――。
悠真が言う。
「ノアは?」
カイが尋ねる。
「どういう意味?」
悠真は答える。
「何もないところから、新しいものを始める名前。」
暗闇が静かに揺れる。
「ノア……。」
そして――。
「その名前がいい。」
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■ ノア
暗闇の中に、初めて姿が現れる。
小さな人影。
白い髪。
黒い瞳。
そして、胸には小さな黒い星。
ノアが悠真を見る。
「これが……私?」
アカリが頷く。
「はい。」
ノアは自分の手を見る。
「存在している。」
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■ 始まりより前に生まれたもの
その瞬間――。
何もなかった空間に、一つの星が生まれた。
続いて二つ。
三つ。
そして――。
無数の星。
ノアが生まれたことで、
「始まりより前」
にも最初の世界が生まれ始めた。
ハジメが驚く。
「これは……世界の誕生?」
アカリが首を横に振る。
「違います。」
「もっと小さい。」
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■ 「始まり」
アカリがノアを見る。
「これは――。」
「始まりそのものです。」
悠真が驚く。
「じゃあ、アカリは?」
アカリは笑う。
「私は『可能性』の始まり。」
「ノアは――。」
ノアが答える。
「『存在』の始まり。」
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■ 新しい仲間
ノアは悠真たちを見る。
「私も……一緒に行っていい?」
悠真が笑う。
「もちろん。」
ノノが手を振る。
「きずなの船へようこそ!」
こうして――。
ノア
が新しい仲間になった。
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■ しかし、まだ終わらない
きずなの船へ戻る途中。
アカリが突然立ち止まった。
「待ってください。」
悠真が振り返る。
「どうしたの?」
アカリは暗闇を見る。
「今、何かを感じました。」
トワが時間を確認する。
「何かとは?」
アカリが答える。
「ノアより、さらに前の何か。」
全員が沈黙する。
ノアも暗闇を見る。
そして――。
初めて不安そうな顔をした。
「……私も感じる。」
暗闇の奥から――。
ドン。
巨大な何かが動いた。
ドン。
また動く。
そして、遠くから声が響いた。
「名前を……つけるな。」
悠真たちは凍りつく。
ノアが呟く。
「……私を生んだことを、怒っている。」
悠真は仲間たちを見る。
そして静かに言った。
「なら、確かめに行こう。」
きずなの船は、まだ誰も知らない暗闇の奥へ向かう。
そこにいるのは――。
ノアより前に存在していた、最初の「何か」。




