一番大切な記憶
忘却の海の底。
きずなの船は、巨大な海底都市の門の前で止まった。
門番は、静かにヒカリを見つめている。
「ここから先へ進むには――。」
「自分が忘れた『一番大切な記憶』を思い出せ。」
ヒカリは目を閉じた。
「僕が忘れた……一番大切な記憶?」
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■ 何も思い出せない
ヒカリは必死に考える。
ソラと遊んだこと。
二人で見た星空。
家で食べた夕食。
一緒に笑ったこと。
けれど、門番は首を横に振る。
「それではない。」
「もっと前だ。」
ヒカリは困った顔になる。
「もっと前……?」
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■ 最初の日
突然、ヒカリの前に光が現れた。
そこに映ったのは――。
まだ幼いヒカリ。
そして、赤ちゃんのソラ。
二人が初めて出会った日の記憶だった。
幼いヒカリは、赤ちゃんのソラを見ている。
母親が笑って言う。
「今日から、お兄ちゃんだよ。」
幼いヒカリは少し戸惑いながら、ソラの手を握った。
そして――。
「僕が守る。」
そう言った。
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■ ヒカリが忘れていた約束
ヒカリが目を見開く。
「……そうだ。」
「僕、ソラに約束したんだ。」
悠真が尋ねる。
「何て?」
ヒカリは胸に手を当てる。
「ずっと一緒にいるって。」
「どんな世界になっても。」
「どんな場所に行っても。」
「絶対に忘れないって。」
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■ 門が開く
その瞬間。
海底都市全体が光に包まれた。
巨大な門がゆっくり開く。
門番が微笑む。
「思い出したな。」
「それが、お前の一番大切な記憶だ。」
ヒカリは頷く。
「うん。」
「ソラとの約束。」
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■ 海底都市
門の向こうには、巨大な街が広がっていた。
しかし、人の姿はない。
建物も道路もある。
街灯もついている。
けれど――。
誰もいない。
ノノが小声で言う。
「ここにも誰か住んでたのかな。」
ゼロスが答える。
「おそらく。」
「ここは、忘れられた世界の記憶が保存されている場所です。」
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■ 記憶の図書館
都市の中央には、大きな建物があった。
看板には――。
『記憶図書館』
と書かれている。
中に入ると、壁一面に本が並んでいる。
一冊一冊が、誰かの人生。
誰かの思い出。
誰かの大切な時間。
ヒカリが一冊の本を見つける。
表紙には――。
『ソラ』
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■ ソラの本
ヒカリが本を開く。
ページには、ソラの記憶が映し出される。
ソラが初めて歩いた日。
初めて笑った日。
ヒカリと遊んだ日。
そして――。
世界が消え始めた日。
ヒカリはページをめくる手を止めた。
「ここから……ソラがいなくなったんだ。」
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■ 最後のページ
最後のページには、ソラが一人で立っている。
周囲の景色が少しずつ消えている。
ソラは泣いていない。
ただ、誰かを待っている。
そしてページの端に、短い言葉が残されていた。
『お兄ちゃんが来るまで待つ。』
ヒカリの目が潤む。
「ソラ……。」
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■ 地下への階段
突然、図書館の床が開いた。
地下へ続く階段が現れる。
悠真が言う。
「ソラは、この下だ。」
ヒカリは頷く。
「行こう。」
仲間たちも続く。
階段を下りるほど、周囲の音がなくなっていく。
やがて――。
大きな扉にたどり着いた。
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■ 忘却者の城
扉の向こうには巨大な空間。
中央に、一人の少女が立っている。
長い髪。
白い服。
そして――。
ヒカリと同じ瞳。
ヒカリは息をのむ。
「……ソラ?」
少女が振り向く。
「お兄ちゃん。」
ヒカリは走り出す。
「ソラ!」
二人は再会した。
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■ しかし……
ソラは嬉しそうに笑ったあと――。
静かに言った。
「お兄ちゃん。」
「私、ここから出られないの。」
ヒカリが驚く。
「どうして?」
ソラは自分の後ろを指差す。
そこには巨大な黒い時計があった。
時計の針は――。
『忘却』
を指している。
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■ ソラが守っていたもの
ソラは言った。
「この時計が動いたら、忘却の海にある全部の記憶が消える。」
「だから、私がここに残って止めてたの。」
悠真が驚く。
「ずっと一人で?」
ソラは頷く。
「うん。」
「でも、もう疲れちゃった。」
ヒカリがソラを見る。
「じゃあ、今度は僕たちが一緒に止める。」
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■ 忘却者、再び
その瞬間。
黒い時計の奥から声が響いた。
「そう簡単にはいかない。」
巨大な影が現れる。
前話で現れた――。
忘却者。
忘却者は言う。
「記憶を守るなら、代わりに何かを忘れなければならない。」
悠真が尋ねる。
「何を?」
忘却者は答える。
「この旅で得た、一番大切なものを。」
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■ 迫られる選択
時計が動き始める。
カチ……。
カチ……。
ノノが叫ぶ。
「そんなの選べない!」
リナも頷く。
「誰か一人の思い出を犠牲にするなんてできない。」
ヒカリが時計を見る。
そして――。
「だったら。」
「僕たちは、誰も忘れない。」
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■ みんなの声
悠真が仲間たちを見る。
「僕たちが一人ずつ、思い出を話そう。」
ノノが笑う。
「私は、みんなで初めて冒険した日!」
リナは言う。
「私は、世界を越えて友達が増えたこと。」
アシタは言う。
「僕は、未来をもう一度信じられたこと。」
ハジメも続ける。
「私は、初めて『ここにいていい』と思えたこと。」
イチも笑う。
「僕は、初めて世界の外へ出たこと。」
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■ ヒカリの記憶
最後にヒカリが言う。
「僕は――。」
ソラを見る。
「ソラと初めて会った日。」
「そして、今日。」
「もう一度会えたこと。」
ソラが笑う。
「私も。」
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■ 時計が止まる
仲間たちの思い出が光になっていく。
一つ。
また一つ。
そして無数の光が、黒い時計を包み込む。
カチ……。
時計が止まった。
忘却者が驚く。
「そんな……。」
悠真は言った。
「大切な思い出は、一人で守るものじゃない。」
「みんなで覚えていれば――。」
「誰にも消せない。」
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■ 忘却者の正体
黒い影が少しずつ崩れていく。
その中から――。
小さな光が現れた。
それは、寂しそうな少年の姿だった。
「僕も……。」
「誰かに覚えていてほしかった。」
ヒカリが近づく。
「じゃあ、名前を教えて。」
少年は首を振る。
「名前がない。」
ノノが笑う。
「じゃあ、一緒に考えよう!」
少年は驚いた。
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■ 新しい名前
少年はしばらく考えた。
そして――。
「……カコ。」
「過去を忘れないように。」
悠真は頷く。
「いい名前だね。」
カコは初めて笑った。
その瞬間――。
忘却の海に、朝日のような光が差し込んだ。
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■ 海が変わる
真っ白だった海が、少しずつ青くなっていく。
忘れられていた世界の記憶が、元の場所へ戻っていく。
海底都市にも光が戻る。
そしてソラの体にも、温かな光が宿った。
ヒカリが驚く。
「ソラ?」
ソラは笑った。
「もう、ここにいなくても大丈夫みたい。」
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■ 帰ろう
ヒカリは手を差し出す。
「帰ろう、ソラ。」
ソラはその手を握る。
「うん。」
二人で歩き出す。
きずなの船へ戻る途中――。
海底都市のあちこちから、たくさんの声が聞こえてきた。
「ありがとう。」
「忘れないでくれて、ありがとう。」
悠真たちは振り返る。
誰もいないはずの街に、たくさんの光が浮かんでいた。
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そして――
きずなの船が海面へ向かう。
ソラとヒカリは並んで甲板に立つ。
ノノが笑う。
「兄妹がそろったね!」
ソラも笑う。
「うん。」
悠真は前方を見る。
忘却の海の向こうに――。
新しい航路が浮かび上がっている。
しかし、その航路の名前を見た瞬間、ゼロスの表情が変わった。
そこに書かれていたのは――。
『第−∞世界』
アシタが呟く。
「……ついに、一番古い世界へつながった。」
悠真は船の舵を握る。
「行こう。」
「この旅の、本当の始まりを見に。」
きずなの船は――。
まだ誰も足を踏み入れたことのない、最初の闇へ向かって進み始めた。




