失われた世界
金色の扉をくぐった、きずなの船。
その先に広がっていたのは――。
真っ暗な宇宙。
星が一つもない。
しかし、レーダーには確かに惑星反応がある。
ミナが画面を見つめる。
「惑星は存在しています。」
「でも、光を反射していません。」
悠真が言った。
「じゃあ、真っ暗なのは惑星そのもの?」
「はい。」
---
影の惑星
船が惑星へ近づく。
そこには巨大な都市があった。
建物も道路もある。
けれど、すべてが灰色。
人々もいる。
しかし、誰も話していない。
悠真たちが着陸すると、一人の少女が近づいてきた。
「……あなたたち、外から来たの?」
悠真が頷く。
「うん。」
少女は驚いた顔をした。
「外の世界が……まだ存在していたんだ。」
---
少女の名前
少女は自分をノアと名乗った。
あかりが尋ねる。
「ここには何人くらいいるの?」
「分からない。」
「数えられないの?」
ノアは首を振る。
「名前も住所も、ほとんど消えてしまったから。」
悠真は以前訪れた「名前をなくした世界」を思い出した。
「また、名前が?」
ノアは答える。
「ここでは、もっとひどい。」
「自分が誰かという記憶そのものが、少しずつ消えているの。」
---
最後の学校
ノアは悠真たちを一つの建物へ案内した。
そこは学校だった。
教室には、たくさんの机。
でも、生徒の名前が書かれていない。
黒板には一つだけ文章が残っていた。
『忘れないために、今日も話しましょう。』
ノアが言う。
「ここだけが、まだ記憶を守っている場所。」
---
教室の奥には、一冊の大きな本があった。
ページには、この世界の人々の思い出が書かれている。
「この本をみんなで読んでいます。」
「でも、ページが少しずつ白くなっている。」
悠真が本を見る。
確かに、文字が消えている。
---
最後の姉妹
ノアは一枚の写真を取り出した。
そこには二人の少女が写っていた。
「この二人は、この世界で最初に姉妹レンタルを始めた人たち。」
悠真が聞く。
「名前は?」
ノアは悲しそうに答える。
「……もう誰も覚えていません。」
あかりが写真を見る。
「でも、写真は残ってる。」
「うん。」
「だから、二人のことを知ることはできる。」
---
写真の裏
悠真が写真を裏返す。
そこには古い文字があった。
『私たちが忘れられても、あなたが覚えていてくれるなら、それでいい。』
悠真は静かに言った。
「この二人は、自分たちの名前よりも――。」
「誰かに覚えていてもらうことを選んだんだね。」
ノアが頷く。
「だから、この世界では姉妹レンタルが最後まで残った。」
---
最後のレンタル
悠真が言う。
「じゃあ、もう一度やろう。」
ノアが驚く。
「姉妹レンタルを?」
「うん。」
この世界の人々を集める。
知らない人同士。
記憶が薄れている人同士。
それでも、一緒に話す。
「好きなものは?」
「昔好きだった場所は?」
「覚えている家族は?」
少しずつ、会話が生まれる。
---
名前が戻る
一人の少年が突然言った。
「……僕、おばあちゃんの名前を思い出した。」
別の女性が言う。
「私は、昔飼っていた犬の名前を思い出した。」
さらに別の人が――。
「友達の名前を思い出した。」
記憶が、一つずつ戻っていく。
そして教室の本にも文字が戻り始めた。
---
二人の名前
最後に残ったページ。
そこには、写真の二人の名前が書かれていた。
ユナ。
ミナ。
ノアが涙ぐむ。
「思い出した……。」
悠真が笑う。
「これで二人も、忘れられないね。」
その瞬間――。
真っ暗だった惑星の空に、小さな星が一つ灯った。
---
世界が明るくなる
一つ。
また一つ。
星が増えていく。
灰色だった街にも、少しずつ色が戻る。
海が青くなる。
森が緑になる。
建物に明かりが灯る。
人々の声が街中に響く。
ノアが空を見上げる。
「世界が……戻ってる。」
ミナが分析する。
「記憶が戻ったことで、世界そのものが再構成されています。」
悠真が笑う。
「じゃあ、ここも消えないね。」
---
新しい姉妹
そして、ノアが悠真たちに言った。
「私も、誰かと姉妹になりたい。」
あかりが笑う。
「もちろん!」
ノアの相手として選ばれたのは――。
先ほど教室で昔の犬の名前を思い出した少女だった。
名前はリナ。
二人は少し緊張しながら向き合う。
「よろしく。」
「よろしく。」
そして、二人で笑った。
この世界に――。
もう一度、姉妹レンタルが始まった。
---
帰還
きずなの船へ戻る悠真たち。
ノアが手を振る。
「ありがとう!」
悠真も手を振る。
「また来るよ!」
船が出発する。
すると、原初局から通信が入った。
セナの声だった。
「成功しました。」
「失われた世界は、完全に記録へ戻りました。」
悠真はほっとする。
「よかった。」
しかし、セナは続けた。
「ですが、一つだけ問題があります。」
悠真が聞く。
「何?」
「金色の鍵が、まだ開いたままです。」
---
画面に、金色の扉が映る。
扉の向こうには――。
これまで見たことのない巨大な光。
ミナが解析する。
「これは……世界ではありません。」
あかりが尋ねる。
「じゃあ何?」
ミナはしばらく黙った。
そして――。
「世界を生み出している場所です。」
悠真たちは顔を見合わせた。
どうやら姉妹レンタルの旅は、銀河だけでは終わらない。
次に向かうのは――。
すべての世界が生まれる場所。




