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第24話 帰還と、次の修理屋へ

帰り道は、行きより、ずっと速かった。


母なるクジラが作った光の航路が、もう固まっていたからだ。行きはでこぼこだった道が、帰りはつるつるの、滑り台みたいになっていた。何十匹ものクジラの街が、何度も往復して、道をならしたんだ。


「うわー! 速いー!」


ピッパが、ハチドリの先頭で両手を広げて叫ぶ。風じゃない。星の風だ。星の光が、私たちの頬を撫でていく。


チビは、私たちのハチドリの隣を、嬉しそうに泳いでいる。お母さんに会えて、すっかり元気になった。背中の小さな街にも、明かりが全部ついた。誰もいない街だったのに、今は、ハルモニアから移ってきた人たちが住み始めている。小さな街に、笑い声が戻ってきた。


扉の向こう、つまり、もとの星の海に戻ると、そこはお祭り騒ぎだった。


何十匹ものクジラの街が、光の航路を使って、荷物を運んでいる。パン屋のおばちゃんのパンを、上層の街に運ぶクジラ。下層の工具を、ハルモニアに運ぶクジラ。星の海全体が、大きな市場みたいになっていた。


エリジウムは、その真ん中にいた。二匹のクジラに支えられて、前よりずっと高く浮かんでいる。あの黒い壁も、青い壁も、もうどこにもない。見渡す限り、星の海だ。エリジウムは、もう落ちない。どこまでも行ける。


私たちのハチドリが見えると、エリジウムから歓声が上がった。


「エダちゃんだー! 帰ってきたー!」


広場に降りると、父さんが、一番に駆け寄ってきた。いつもの、油まみれの作業着だ。私の頭を、ぐしゃぐしゃと撫でる。


「遅かったな、エダ。工具箱は、置いてきたか?」


「うん。置いてきた。父さんのレンチも、一緒に」


父さんは、少しだけ驚いた顔をして、それから笑った。


「そうか。そうか。なら、もうお前は一人前だな。一人前の修理屋は、自分の工具を、次の誰かに預けるもんだ」


次の誰か。未来の錆喰いだ。


マルゴが、フラスコを持ってやってきた。中身は、今日も水だ。


「コギちゃん。君が置いてきた工具箱、もう誰かが拾ったらしいよ。ハルモニアの子が、探知機に引っかかったって言ってた。真ん中に浮かんでた、小さな箱だろ?」


もう、拾われたんだ。早いな。


零が、私の袖を引っ張った。今度は、袖じゃなくて、私の新しいレンチを指さす。未来の私が置いていった、新品のレンチだ。


「…エダ。そのレンチ、光ってる。前より、明るく」


本当だ。新品のレンチが、星の海の光を反射して、チカチカと光っている。まるで、誰かを呼んでいるみたいに。


私は、そのレンチを高く掲げた。広場にいるみんなが、その光を見上げる。上層の人間も、下層の人間も、ハルモニアの星拾いたちも、みんなが。


「次の修理屋ー! 聞こえるかー! ここに、直すものが、たくさんあるぞー!」


私が叫ぶと、星の海の向こうから、また新しい歌が聞こえた。小さな、でも、確かな歌だ。新しいクジラの歌だ。新しい修理屋の歌だ。


クヴィリンが、計算機を閉じて呟いた。


「…計算不能だ。成功率は、無限大だ。もう、計算する意味がない」


「そうだよ、クヴィリン。修理屋の仕事に、計算なんて要らないんだよ」


ジュリアンが、ハチドリ便の荷台から、最後の酒を配り始める。今度は、大人にも子供にも、みんなにだ。


星の海の航海日誌、11日目。私たちは、エリジウムに帰ってきた。でも、旅は終わらない。だって、次の修理屋が、もう工具箱を拾ったから。


錆喰いの物語は、ここで一度終わる。粉雪のような星拾いの物語が、今始まる。

あとがき ― エダ・ファルクから


ここまで読んでくれてありがとう。ここはエダだ。


ただいま、って言ったら、おかえりって、たくさん言ってもらえた。やっぱり、帰る場所があるって、いいね。


ねえ、君は、この物語のどこが好きだった? 私は、みんなでレンチを重ねたところが、一番好きだな。


もし君が、この物語を、次の誰かに繋いでくれるなら、ブックマークと★5つを押してくれ。君の応援が、次の錆喰いへの、一番の工具になるんだ。


これで、エダ・ファルクの旅は、一区切り。でも、星の海の修理は、まだまだ続くよ。だって、世界は、どこまでも繋がってるから。


感想、待ってる。君の街で、困ってるものがあったら、教えて。私、直しに行くよ。


……錆喰い、ただいま。そして、次の修理屋へ、行ってらっしゃい。


――エダ・ファルク

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