第19話 出会いと、修理屋の仕事
星の海の街たちは、思っていたより、にぎやかだった。
一番近くに来たクジラは、私たちのエリジウムの三倍はある大きさだった。背中に乗っている街も、私たちの三倍は大きい。でも、明かりは半分くらいしかついていない。歯車の回る音も、少しだけ、苦しそうだった。
そのクジラの背中から、小さなハチドリみたいな船が、私達に向かって飛んできた。私たちのハチドリ便より、ずっと綺麗で、ずっと新しい船だ。船の上には、白い作業着を着た女の子が立っていた。年は、私と同じくらいだ。手には、私の父のレンチとよく似た、少しだけ形が違うレンチを持っている。
女の子は、私たちのハチドリの縁に、器用に飛び移って、こう言った。
「あなたたちが、チビを助けてくれた子? 私は、リナ。〈ハルモニア〉の修理屋」
ハルモニア。向こうの大きな街の名前だ。
「私は、エダ。エリジウムの…錆喰い」
私がそう言うと、リナは目を丸くした。
「錆喰い? 錆を、食べるの?」
「違う! 錆を直すんだ! 捨てられたものを、直すのが仕事だ!」
私が慌てて言うと、リナはクスクスと笑った。
「ごめんごめん。私たちの街では、修理屋のことを〈星拾い〉って呼ぶんだ。落ちた星を、拾って直すのが仕事だから。似てるね」
似てる。確かに似てる。
リナは、チビの背中に降りて、チビの皮膚に手を当てた。私と同じように、レンチを当てる。でも、音が違う。キン、という高い音だ。
「…なるほど。この子、心臓の歯車が、一枚欠けてる。だから、みんなを置いていかれた時、一人で帰れなかったんだ。直せるよ。私たちの街に、同じ規格の歯車がある」
直せる。リナは、そう言って、すぐに自分の船に戻ろうとした。その時、零が、リナの袖を引っ張った。
「…待って。その歯車、錆びてる。古い。付けても、また壊れる。エダの歯車の方が、いい。錆びても、回るから」
零は、私の共鳴レンチを見た。私は頷いて、レンチをリナに渡した。父からもらった、大事なレンチだ。でも、今は、こっちの方が大事だ。
リナは、私のレンチを受け取って、チビの心臓に当てた。ブゥン、という低い音が、星の海に響く。私のレンチと、リナのレンチが、同じリズムで震える。二つの修理屋の音が、一つになる。
カチリ。
チビの胸の中で、何かが噛み合う音がした。欠けていた歯車の場所に、錆色の光が集まって、新しい歯車ができる。私の工房のガラクタと、ハルモニアの新しい部品が混ざった、誰も見たことのない歯車だ。
チビが、大きく息を吸い込んで、そして、今までで一番大きな声で鳴いた。痛みの歌じゃない。喜びの歌だ。チビの背中の街の明かりが、一つ、また一つと、ついていく。誰もいなかったはずの街に、遠くから、たくさんのクジラが集まってきて、自分たちの街の明かりを分けているんだ。
ハルモニアの街からも、たくさんのハチドリが飛んできて、チビの街の修理を手伝い始める。星拾いたちと、錆喰いたちの、共同作業だ。
私は、ハチドリの縁に座って、その光景を見ていた。星の海に、たくさんの錆色の明かりが灯る。捨てられた街が、また一つ、直った瞬間だ。
マルゴが、私の隣に来て、缶ジュースを渡してきた。
「やるじゃん、エダ。星の海でも、修理屋は修理屋だね」
「うん。どこでも、修理屋だ」
ジュリアンが、リナの船を見て、口笛を吹いた。
「向こうの船、速そうだな。今度、レースでもするかって、向こうのパイロットに言われたぞ」
「負けるなよ、ジュリアン」
クヴィリンは、リナの持っていた本を借りて、夢中で読んでいる。星の海の向こうの、まだ誰も知らない星の設計図が載っているらしい。
零が、私の隣に座って、小さく呟いた。
「…エダ。チビが言ってる。『ありがとう』って。『お母さんに、会いに行ける』って」
お母さん。チビのお母さんは、星の海の渦の向こうにいるんだろうか。
私は、星の海の向こうの、光の渦を見た。あそこに行けば、もっとたくさんの迷子がいるかもしれない。もっとたくさんの、直さなきゃいけない街があるかもしれない。
父さんの声の機械が、最後に一度だけ鳴った。
『エダ。お前の旅は、ここからが本番だ。世界を直すんじゃない。世界を繋げるんだ。錆喰いのやり方でな』
世界を、繋げる。
私は、立ち上がって、父のレンチを高く掲げた。リナも、自分のレンチを掲げる。二つのレンチが、星の光を反射して、同じように光る。
向こうから来たたくさんのクジラたちが、私たちの歌に合わせて、また鳴いた。星の海全体が、歌で満ちる。
星の海の航海日誌、5日目。私たちは、修理屋の仲間を見つけた。錆喰いは、もう一人じゃない。
あとがき ― エダ・ファルクから
ここまで読んでくれてありがとう。ここはエダだ。
ねえ、リナちゃん、かっこよかったでしょ? 向こうの街の修理屋なんだ。私と同じ、レンチを持ってたんだ。
もし君も、この星の海の修理屋仲間になりたいと思ってくれたら、ブックマークと★5つを押してくれ。君の応援が、私とリナの新しい工具箱になるんだ。
次回、渦の向こうへ。チビのお母さんに、会いに行くよ。
感想、待ってる。君は、どんな工具持ってる? 私は、やっぱり父のレンチが一番だな。
……錆喰いと星拾い、行くぞ。
――エダ・ファルク




