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第11話 錆喰いたちの総力戦

雲の上の街は、修理屋の街になった。


工房の前に、ありとあらゆるガラクタが積み上げられる。壊れたトースター、使えなくなった蓄音機、子供が拾ってきた真鍮のネジ一本まで。みんな、私の前に置いて、こう言うんだ。


「エダちゃん、これ、使えるかい?」


使える。全部使える。捨てられたものに、使えないものなんてない。父さんがそう言っていた。


私は、真ん中に黒いエンジンの欠片を置いた。まだ微かに熱を持っている、帝国が作った〈標準機関〉の心臓だ。その隣に、父さんが作ってくれた小さな白い歯車の共鳴写しを置いた。本体は零の胸の中で回っている。だからここにあるのは、振動が作った影だ。そして、私の共鳴レンチ。


三つを繋げる。直すんじゃない。新しい何かを作るんだ。


「クヴィリン! 出力の計算、できた!?」


「うるさい! やってる! 黒いエンジンの出力は、クジラを呼び戻すには足りない。それに、この雲の蒸気を一緒に燃やせば、ワンチャンある。効率は最悪だが…今は効率なんて言ってられないな!」


屋根裏の天才は、埃まみれになりながらも、楽しそうだった。初めて、自分の知識が、蔵書のためじゃなくて、誰かのために役に立っているのが嬉しいみたいだった。


「ピッパ! 燃料は!?」


「できたよー! その名も〈雲色スーパー花火燃料〉! 雲を掻き集めて、パン屋のおばちゃんの古いジャムと混ぜてみた! すごく綺麗に燃えるよ! たぶん!」


たぶん、はやめて。


マルゴは、住人たちをまとめていた。元主任の腕は、やっぱり本物だ。怠惰なふりをしながら、誰よりも的確に指示を出す。


「はいはい、そこのお兄さん、その板はこっち。おばちゃん、油はあっちね。ほら、エダちゃんが困ってるよ」


ジュリアンは、ハチドリ便の気嚢を補強していた。破れたところを、自分のパイロットジャケットで塞いでいる。


「おいおい、これ、私のお気に入りなんだぞ。返してもらうからな、エダ」


「返さない。あんたのジャケット、燃えにくいから丁度いい」


私がそう言うと、ジュリアンは大声で笑った。


零は、ずっと空の向こうを見ていた。胸の歯車が、今までより少し速く回っている。


「…近づいてる。クジラ、近づいてる。でも、黒い影も、近づいてる」


黒い影。帝国の本隊だ。


空の向こうから、轟音が聞こえた。青い空に、黒い線が何本も現れる。帝国工務局の旗を掲げた、巨大な飛行戦艦だ。


『こちら帝国工務局。雲の上の不法占拠者たちに告ぐ。直ちに降伏し、第七を引き渡せ。さもなければ、雲ごと焼き払う』


(マルゴが低く呟いた)「……あれは、昔から建造中だった、第七捕獲用の檻だ。標準機関が失敗したから、前倒しで飛ばしてきたんだ」


拡声器の声が、空に響く。下層の住人たちが、怯えて私を見る。


父さんが、私の肩に手を置いた。


「エダ。お前が決めろ。戦うか、逃げるか。お前が、この街の修理屋だ」


戦うか、逃げるか。違う。私がやりたいのは、どっちでもない。


私は、作りかけの新しいエンジンに、共鳴レンチを当てた。ブゥン、と音がして、エンジンの声が聞こえる。


……飛びたい。でも、怖い。黒い船が、怖い。


大丈夫だよ。怖くないよ。私たちが、一緒に飛ぶから。


私は、零の手を取って、エンジンの上に置いた。


「零、クジラに伝えて。『もう一人じゃないよ』って。『みんなで迎えに行くよ』って」


零は頷いて、目を閉じた。背中から伸びた真鍮の糸が、新しいエンジンに絡みつく。白い歯車の写しが、黒いエンジンの欠片と噛み合う。共鳴が、形を繋ぐ。私のレンチが、その間を繋ぐ。


カチリ。


三つの鼓動が、一つになった。


新しいエンジンが、目を覚ました。黒くも、白くもない。錆色の、温かい光を放つエンジンだ。錆喰いのエンジンだ。


エンジンが、ハチドリの気嚢を、雲の街全体を包み込む。街が、また少しだけ浮き上がる。


空の向こうから、答えるように、クジラの鳴き声が響いた。今度は、はっきりと聞こえた。


『待ってた』


帝国の戦艦が、熱線砲の照準を私達に合わせる。発射まで、あと数秒。


でも、もう怖くなかった。私達は、錆喰いたちだ。捨てられたもので、世界を直すのが仕事だ。


私は、錆色のエンジンのレバーを、思い切り引いた。


「行くよ、みんな! クジラを迎えに行くんだ!」


雲の上の街が、ハチドリと一緒に、帝国の戦艦の真横をすり抜けて、青い空の向こうへ加速した。追跡なんか、させない。


創立祭まで、あと61時間。雲の寿命は、あと47時間。私たちは、帝国から逃げながら、神様を迎えに行く。

あとがき ― エダ・ファルクから


ここまで読んでくれてありがとう。ここはエダだ。

ねえ、見た? みんなで作ったエンジン。錆色でしょ? 綺麗でしょ? 私、ちょっと自慢なんだ。

もし君も、この錆色のエンジンと一緒に飛びたいと思ってくれたら、ブックマークと★5つを押してくれ。あれが、私たちの追い風なんだ。

次回、空の向こう側で、クジラと再会する。帝国も、黙ってないと思うけど。

感想、待ってる。新しいエンジン、名前がまだないんだ。何がいいと思う? ピッパは〈ドッカンエンジン〉って言ってるけど、却下だ。

……錆喰い、行くぞ。

――エダ・ファルク

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