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空想物語の中の冷血な騎士様は、ザマァされる私の夫なんですが、なぜか設定崩壊しています  作者: ミカン♬


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9 レティーとの争い/オルシア 

 がけ崩れから数日後。やっと晴れた朝、私は湖畔の神殿へ向かった。

 そこにレティーがいた。


 私は祈る。隣で彼女も祈る。

 けれど――今日の彼女の目的は、それじゃない。


「災害の日、オルシアさんは何をしていたの?」


 きた! 

 レティーの攻撃だ。


「私の祈りは水龍様を動かしたわ。私がこの国を救ったの」


 すごい自信。――本気でそう信じてる顔だ。


「何を言いたいのかしら?」


「貴方は必要ないシビル。早く神殿に帰って欲しいの。ディーンを解放してあげて」


「それはディーンに言って欲しいわ。私は何もできないの」


「ふん、本当に役立たずなシビルね。ディーンも『厄介者』って、言ってたわよ」


 分かってる。最初から、彼は私と離婚するつもりなんだから。



「貴方さえいなければディーンは私と結婚していたわ」


「彼は騎士団長に好意があるはずです。貴方の妄想ではないかしら?」


 そう言った瞬間、レティーの顔が真っ赤になって、手が振り上がる。


 ――ビンタイベント。ここは回避。


 私はさっと身を引いた。案の定、彼女はバランスを崩して床に座り込み、


「きゃあああ」


 悲鳴を上げる。


「オルシアさん酷いわ。私が邪魔だからって……」



 ……はいはい、その流れね。


「レティー様! 大丈夫ですか」


 奉仕者の男性が駆け寄る。


「シビル様、暴力はいけませんよ」


 やっぱり私が窘められる。



「神はご覧になっています。レティーさん、嘘はいけないわ」

 そうだけ言って、私はその場を離れた。


 湖の畔へ向かいながら、ため息が出る。

 見え透いた、ヘタなシナリオ。……自分が想像したくせに。


 水際に立つと、波が足元に寄せては返す。

 あれ以来、水龍様の声は聞こえない。

 それでも――助けてもらったのは確かだ。


 いつものように手を合わせ、静かに祈る。


 その時。


 ドン!


 背中を強く押されて、私は前のめりに倒れた。


「ふふ、天罰を受けたんじゃなくて? 神はご覧になってるわ」


 振り返れば、レティー。


 ……やられた。


 水落ちの代わりに、泥だらけイベント発生ってわけね。


「レティー……」

「私がやったなんて誰も信じないわよ?」

「そうね。こんなことをさせて貴方には申し訳ないわ。本当にごめんなさい」


 私が謝ると、レティーは顔を歪めた。


「何をいい人ぶってるのよ!」

 吐き捨てるように言って、そのまま走り去る。


 ……だって。

 貴方を悪役にしたの、私だもの。




 帰宅すると、義母とケイトが泥だらけの私を見て目を丸くした。


「あら、どうしたの?」

「転んでしまって」


「貴方って意外とドジよね」

 ケイトが呆れたように肩をすくめる。

 今のところ、ケイトはまだレティーに利用されていないみたい。


 ――正直、現在の展開、私の空想した“物語”の範囲をもう軽く超えてる。


 だからこそ、これからのレティーの動きには細心の注意が必要だ。

 ディーンを愛するあまり、私の命を狙ってくる可能性だって……ある。


 もし私がここで死亡すれば、この物語は未完で終わり。

 そんなの、絶対に嫌。



 *



 その夜、部屋でくつろいでいると、ディーンが声をかけてきた。


「転んだそうだな。大丈夫か?」


「ええ、大丈夫です」


 本当は、湖に落ちて溺れて、水龍に救われる――そんな流れのはずだった

 ああ……展開がどんどんズレていく。


「それなら良かった。ところで、消えた土砂の山なんだが」


 それ!

 実は私も悩んでいた。

 岩とか泥土とか、抱えっぱなしって、気分が重いし……。


「森林の奥の沼地を埋めてくれると有難い。夏場にはビッグフロッグという魔物が大量発生して、討伐が面倒なんだ」


 なるほど。


「では、水龍様にお願いしてみます」

「ああ。頼む」


 ──ディーンは私が水龍様を呼んだって、思ってくれているんだ! 嬉しいな。


「もしよければ、君も一度沼地を訪れてみないか?」

「行きたいです」


 土砂を処分して、すっきりしたい!

 どうせなら役に立つ形で使えたら最高だよね。


 そんなふうに考えていたら、ディーンがふっと表情を引き締めた。


「神殿でレティーと揉めたのか? 彼女、君に突き飛ばされて、腕を挫いたと俺に訴えたんだが」


「『いいえ』と言えば、信じてくれますか?」


「君が嘘をついてるとも思えない」


「彼女に殴られそうになって避けたんです。そしたら勝手に転んだのです」



 ──本来の物語では。


 私が嫌がらせをすると、何度もレティーはディーンに『嘘』を訴える――

 ディーンはそれを信じて、私を憎む。


 ……そんな、脳筋設定だった。



 だが、ディーンは私を信じてくれたようだ。


「レティーに殴られそうになったのか。なら……今後は君に護衛を付ける。遅すぎたかもしれないが……」


「……ありがとうございます」


 公爵夫人の外出に護衛。

 正直“今さら感”はあるけど……。


 でも、ディーンが私を守ろうとしてくれているのは伝わってくる。


 ……よし。

 これで、私の生存率もアップね。




読んでいただいて、ありがとうございました。

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