8 土砂崩れ/オルシア
義父からの伝達が届いた。
<これ以上災害が起こらないよう神殿で祈って欲しい>
……でも、私はじっとしていられなかった。
祈るより、行動しなければ!
だから、がけ崩れの現場へ向かった。
大木や岩を動かせる私なら、少しは役に立つかもしれない。
馬車を走らせ、現場に着いた瞬間——言葉を失った。
山は裂け、土砂は扇のように広がり、巨石と折れた木が道を塞いでいる。
胸がぎゅっと痛む。
……軽い気持ちで、こんなことを想像すべきじゃなかった。
フードを深くかぶり、集まった人々の中に身を潜ませた。
人々の声が耳に刺さる。
「とりあえず馬や荷車が通れるには、かなりの日数がかかりそうだな」
「迂回ルートを使っても取引には到底間に合わない。他の領地の通行代も掛かる」
空を見上げる。
――水龍様の気配は、ない。
(お願い! 水龍様、早く来て! この土砂を片付けて下さい!)
心の中で必死に叫んだ、そのとき。
「オルシア」
振り向くと、ディーンが駆け寄ってきた。
え、どうして私がここに居るって、分かったの?
「なんで来たんだ。ここは危険だ」
「何かお手伝いが出来ないかと思って」
「二次災害の危険もあって、まだ動けない。だから帰るんだ」
そう言って、ディーンは私を庇うように肩を抱き、人の輪から外れた。
「がけ崩れに巻き込まれた人はいますか?」
「いや、無い」
よかった。
泣きそうになって、体の力が抜ける。
小雨の中、立ち尽くす人たち。
その光景に、胸がぎゅっと締め付けられる。
――お願い。神様。水龍様。助けて。
心から本気で祈った、その瞬間。
「おおおおおーーーおおおおおおーーー!」
歓声が山に響いた。
来た……? 水龍様?
空を見上げると、そこには――巨大な青い龍。
あまりにも神々しくて、みんなが一斉に膝をついて祈り始めた。
そのとき。
ぐらり、と視界が揺れた。
――何かが、私と繋がる。
《シビルよ、何の用だ》
頭の中に直接響く声。
これ、水龍様!?
(お願いです! あの土砂を吹き飛ばして下さい!)
《吹き飛ばすだと? 人が多すぎて危険だ》
(そんな~ 何とかなりませんか?)
《其方が片付ければ良いではないか》
(片付ける? もしかして亜空間収納ですか?)
《そうだ、これくらい簡単だろう?》
(この膨大な量の土砂を? 無理です)
《つべこべ言うな、やれ!》
……えぇぇ!?
半信半疑のまま、私は祈る。
道を塞ぐ土砂を――【収納】するように。
その瞬間。
「うおおおおおおーーーー! うおおおおおおお!!!」
大歓声。
え、うそでしょ……?
目の前の土砂が、全部消えてる。
道は綺麗に開けて、ずっと先まで続いていた。
《さらばだ》
水龍様が消えると、みんな抱き合って喜びだした。
「水龍様、ばんざーーーい!」
……いや、それ、私が片付けたんだけど!?
ふと意識を向けると、亜空間には――《土砂の山》。
「ひぇ! 知らなかった」
私の収納庫、こんなに大量に入るの!?
驚いていると、急に雨が強くなった。
するとディーンが、そっと私の手を取る。
「オルシア、土砂は消えた。早く戻ろう」
「旦那様、水龍様の声は聞こえましたか?」
「いや、聞こえなかった。君は聞いたのか?」
「……いいえ……」
――亜空間収納のことは、絶対に秘密。
ディーンは少しだけ目を細めて、「そうか」と頷いた。
そのまま馬車の場所まで送ってくれる。
「俺は馬で来たから」
そう言って、私たちはその場を離れた。
その後。
水龍様の奇跡は、レティーの祈りのおかげだって噂が広まった。
彼女、神殿でずっと祈っていたらしい。
結果――
「あのシビルは何をやってたんだ! 役立たず!」
なんて、世間で言われる始末。
……うん、設定どおり。
でも。
「噂なんて直ぐに消えるから気にするな」
ディーンがそう言ってくれて。
公爵家のみんなも変わらず優しいままで――
……ちょっとだけ、救われた気がした。
読んでいただいて、ありがとうございました。




