7 ケイトの疑問/ケイト
私はケイト。オルシアと同じ十八歳。
彼女が我が家に来て、もう三週間。
あの不思議な声は──気にしないって決めた。
『きっと高い霊力の弊害なのよ。家族にしか聞こえないという事は、オルシアが私達を信頼している証拠よ』
……なんて、母もそう言ってるし。
それに、オルシア自身は大人しくて控えめで、使用人たちからの評判もいい。
……まあ、あの辛辣な声とのギャップには、たまに引くけど。
とにかく、シビルについて出回っている悪い噂は、オルシアに限っては当てはまらない。
兄が言うには。
『物語の中にいる。彼女はそう思い込んでいるんだ』
『俺が結婚式をボイコットしたからだ』
確かにあれは酷かったわね。
『俺のせいだ……深く傷ついたせいで、この先々の不幸を空想して嘆いているんだ』
……本当にそうかしら?
だってオルシアの心の声、けっこう楽しそうだけど。
『それで、お兄様はどうするつもり?』
『あのような状態で離婚は言い出せない。正常に戻らなければ、神殿には戻せない』
つまり、精神が異常だって思っているのね。
『どうやって、正常に戻すつもりなの?』
『分からない。ただ、無視は止める。オルシアとちゃんと向き合おうと思う』
そうね、無視は絶対に良くないわ。
お兄様の離婚の意思は、大きく揺れている。
正直、私はレティーと結ばれて欲しいのだけど。
──こんな話、親友のレティーにも言えない。
今日はそのレティーと一緒に、騎士団の食事の手伝い。
厨房のおばさんたちは、レティーに同情している。
ディーンをずっと好きなのは、誰でも知ってること。
でも兄が好きなのは、騎士団長のシャーロッテ第一王女殿下。
兄が……王女殿下に恋してる間は、まだチャンスがあると思ってたのに。
人生って、本当に一瞬で変わる。
ジャガイモの皮をむいていると、レティーがぽつり。
「ディーンとオルシアはもう一緒の部屋なの?」
……それ、かなり踏み込んだ質問よね。
「ノーコメントよ」
すると、少し不満そうに続ける。
「こんなことなら、私もシビルになっておけばよかったわ」
胸がざわついた。
──私を誘導してる。
**レティーの方が兄に相応しい。
ディーンの花嫁はレティーだったはず。**
……前の私なら、そう言ってた。
彼女の言葉って、ときどき私の言葉にすり替わる。
「公女が言っていた」って形で、噂が広がるの。
だから──今日は言わない。
私はフーヴァル公爵家の長女。
言葉には責任がある。
「シビルになれば、家とは縁を切られるのよ? 修業も厳しいし、私は無理だわ」
そう言って、話題を切る。
レティーは黙り込んだ。
機嫌が悪いと、彼女は無口になる。
……オルシアの心の声は、レティーを警戒してる。
最初は反発した。
でも思い返せば、心当たりはある。
今日だってそう。
──それでも。
レティーが親友なのは、変わらない。
黙ったまま厨房で作業していると、カタカタと音がして床が揺れた。
「地震かしら?」
「怖いわね」
そう言い合っていると、すぐに報せが飛び込んできた。
――大規模ながけ崩れが発生。
場がざわつく中、レティーがぽつりと呟く。
「今までこんなこと無かったのに、おかしいと思わない?」
「何が?」
「オルシアが来た途端、災害が発生なんて。まるで天罰みたい」
「偶然よきっと」
そう返したけど――嫌な空気が流れた。
次の瞬間、調理のおばさん達が一斉に騒ぎ出す。
「レティーの言う通りだわよ。なんのためのシビルだか、分かりゃしないわ」
「そうよ、たくさんの寄付を払って貰い受けたシビルなのに」
……まずい。
オルシアの立場、最悪じゃない!?
おばさん達は止まらない。
「レティーがお祈りしていたら、避けられたかもしれないわね」
「いらないシビルが来たってことね」
「ディーンに相応しいのもレティーよ!」
嘘でしょう?
オルシアの心の声が、そのまま現実になってる。
「私、神殿に行ってくるわ。これ以上災害が起こらないように、お祈りしてくるわ!」
レティーはそう言って、さっさと厨房を出ていった。
私も、オルシアのところに行かなきゃ!
慌てて家に戻ると、ちょうど父の部下が、がけ崩れの報告をしているところだった。
思わず、お母様と顔を見合わせる。
だってオルシアは――
(大変だわ。どうしよう、どうしよう!)
(シナリオ変更はダメだったの? 神様の意地悪!)
(水龍は来てくれるよね? 来なかったら? いや、来るよね?)
(あああ、私のバカ! バカバカ!)
……完全にパニック。
もう、どうなってるのよ!
読んでいただいて、ありがとうございました。




