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空想物語の中の冷血な騎士様は、ザマァされる私の夫なんですが、なぜか設定崩壊しています  作者: ミカン♬


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6/13

6 災害の前触れ/オルシア

 ディーンと結婚して、今日で十四日。


 秋雨が続いているけれど、居心地は最高だ。


 今は第一章の真っ最中なんだけど、どうにもおかしい。

 完全にシナリオが狂ってる。


 この家族、キャラ崩壊してない?


 使用人まで全員優しいとか、どういうこと?

 メイドの嫌がらせ、どこいったの?


 石みたいに硬い黒パンも、カビの白パンも出てこない。

 虫入りスープも……ない。


 そして一番おかしいのが、ディーン。


 なにあれ。

 崩壊しすぎでしょ。


 本来は冷血で、家に一か月は帰らないはずなのに。

 私のこと、ちょっぴり気遣ってくれている。


 これじゃ私――可哀そうヒロインどころか、

 ただの幸せヒロインじゃないの!


 ……困るんだけど。


 いや、まだ分からない。

 物語は始まったばかり。先は長いのよ。


 そんなことをベッドの上で考えていたら、ノックの音。

 入ってきたのはディーンだった。


「旦那様、どうされました?」

「少し話をしようと思って」


 そう言うなり、彼はベッドの端に腰を下ろす。


 え?

 ――襲われる⁉


「襲わないから安心しろ。俺は君と夫婦になるつもりはない」


 うん、それが正解。


 ディーンは騎士団長が好きだもの。

 ──でも彼女、ベビーフェイスが好みで、貴方は論外なのよね。


「ベビ……あ、いや、そうか。あ……君だって、その、俺が夫では不満だろう?」

 なぜか、しどろもどろのディーン。


「いいえ、貴方さえよければ、妻になりたいと思っています。貴方が愛して下されば嬉しいです」


 ──今はそう答えておこう。

 何を言っても、どうせディーンとは夫婦になれないんだし。


 今すぐ神殿に戻されたら困る。

 ここでの生活は最高だもの。


 ディーンはしばらく考え込んでいたが──。


「はあ……本当に、そう思うのか?」

「はい」


「なら、俺も君とちゃんと向き合おう」


「え?」


 ……また話がズレてる。


「ふざけるな!」──ディーンのセリフは、これでしょう。


「あ……!」

 しまった、口に出してた!

「失言しました。申し訳ありません」


「オルシア、言いたいことが有れば、正直に言ってくれないか」


 ディーンは怒るでもなく、呆れた調子でそう言った。


 でも、正直に言ったところで、結末は見えている。

 私だって馬鹿じゃない。臨機応変に、ベストな答えをちゃんと選ぶわ。


 ――まだここを追い出されたくないんだから。



「お互いをもっと知ってから、夫婦になれるかどうか考えよう」


 真剣な顔で、ディーンが言う。


 こんなセリフはなかった。空想の中とは、違う。


 でも――

 今すぐ夫婦にならない、その一点だけは同じ。


「よく分かりました。私も旦那様と正直な気持ちで向き合いたいです」


 そう答えると、ようやく解放された。


 彼が部屋を出ていった瞬間、なぜか部屋が広く感じる。


 ……ディーンの存在感、強すぎ。


 彼は私の夫なんだ……


 これはもう、物語でも遊びでもない。


 指の震えが止まらない。


 初めて“現実の男性”に触れた気がして、

 少しだけ――怖くなった。



 ***



 翌朝。


 激しい雨の中、私は馬車に揺られて湖畔の神殿へ向かっていた。


 ゴロゴロ、と雷鳴が響いた瞬間、胸がざわつく。心臓がドキドキして落ち着かない。


 あれ?

 これ、がけ崩れの前触れじゃなかったっけ。


 確か、大規模ながけ崩れで道が寸断されて、復旧には時間がかかるのよね。

 材木が間に合わなくて、取引に違約金が発生したら大変! っていう……あのイベント。


 つまり。


 私が来たせいで災害発生。


 <オルシアは災いの元凶だ!>とか、人々に言われる流れ。


 ……いやいや、現実だったら普通に大迷惑でしょ。


 でも大丈夫。

 湖で眠っている水龍が助けてくれる。

 空にその姿を現して、土砂を吹き飛ばしてくれるのよ。


 そしてそれが――レティーの功績になる。


 ……うーん……


 ──なんかムカつく!


 こんなイベント、なんで空想しちゃったのよ!

 


 でも。


 そもそも、がけ崩れって……本当に起こるのよね?

 水龍様だって、現れるの……よね?


 本当に崖が崩れて、誰かが怪我したり、命を落としたらどうしよう。


 ああああ、どうしよう!


 ……そんなことまで考えていなかった。ごめんなさい!


 今からシナリオ変更!


 がけ崩れイベントはパス! ──起こさないで!


 

 この日、私は神殿でそう祈り続けた。


 ああ、神様お願い! 



読んでいただいて、ありがとうございました。

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