18 回想/オルシア /ラファエル
――ついに、この時が来た。
全部、ディーンに打ち明ける。
馬車に乗り込んで腰を下ろすと、私は彼をそっと膝に乗せた。
覚悟を決めて、口を開く。
――これは、私が描き続けた“物語”。
空想の中の冷血な貴方に嫁いできた。
そこにいる私は、薄倖のヒロイン。
ヒーローは水龍様。
そして悪役は――レティーにディーン、ケイト、ラファエル。
私はディーンに愛されようと必死に努力した。でも、一度も報われなかった。
だって貴方は、ずっとシャーロッテ王女だけを愛し、幼馴染のレティーにも、確かな情があった。
そして――そのレティーの策略であらゆる人々から、私は非難される。
家族にも、使用人にも嫌われて。
居場所なんて、どこにもなくて。
……特にディーンには、徹底的に嫌われて、冷たく突き放される。
胸が締め付けられる展開が続く。
そんな孤独な私の心を救ってくれたのが――水龍様だった。
湖に落とされて、命を救われた瞬間、私は恋に落ちた。
そして、決意する。
ディーンと別れて、水龍様の花嫁になることを。
──最後には、私と水龍様は勝利する。
ラファエルの霊力では、水龍様を盗むことは出来なかったのだ。
レティーは嘘が露呈しても全く反省せず、最後まで私を責め続けた。
そこでようやく。
ディーンは、すべての真実を知るの。
……そして、取り返しがつかないほど後悔するの。
シャーロッテ王女の信頼も失って、ただの惨めな男に成り下がる。
――私は水龍様の幸せな花嫁にる。
ラファエルとレティーは捕らわれて牢の中に。
そこまで話して、私は小さく息を吐いた。
「──エピローグは、まだ未完成」
そこで途切れている。
――今なら分かる。
あれは、未来の“予知”だから、その後の結末が決まっていなかった。
私はディーンを見つめた。
これだけは、はっきり伝えたかった。
私は、あの物語の中で――
ディーンを、悪役たちを、恨んだことは一度もない。
だって私は“作者”だったから。
悪役は物語を輝かせる、大切な存在。
むしろ、愛していたくらい。
……でも。
「あの未来が、ここで現実に起こっていたら。貴方を憎んだでしょう」
「クァァァ……」
情けない声に、つい苦笑いが洩れる。
「でも、貴方はシナリオを……未来を変えてくれました。それに比べて、私はただの傍観者だった」
──ディーン。
「貴方は教えてくれた。未来は自分で切り開くのだと」
もう、見ているだけじゃ終わらない。
だって、現実はこんなに変化してしまった。
――戦う。
守る。
勝利を掴み取る。
私は、決して恐れない。
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私はラファエル。
いずれ教皇になる男だ。
あの光景は、今でも鮮明に焼き付いている。
レティーは見事に水龍を呼び出し、森の炎を鎮めてみせた。
湖から現れたその姿――美しく、気高く、まさに神の化身。
──欲しい。
胸の奥で、強烈な渇望が弾けた。
だが、水龍を捕えることはできなかった。
その後も何度もレティーに祈らせたが、水龍は二度と現れない。
「どういうことなんだ。何故現れない? 真面目にやれ!」
「何よ! 往復2回も会えたでしょう? チャンスを逃がした自分が悪いんじゃないの!」
……生意気な小娘め。
だが、言い返せない。
どうやら私には、水龍を縛るだけの霊力が足りないらしい。
──それでも、問題は無い。
準備はしてある。
神殿の宝物庫に眠る“呪遺物”。
ただ埃を被っているだけなど、実に無駄だ。私が有効に使ってやる。
【カラスの霊杖】
これは、人の霊力を奪い、カラスに変える。
水龍を奪った後、復讐されぬよう、すべての騎士達をカラスに変えてやる。
守りの要であるソードマスターは、すでにカラスに変えた。
次はシャーロッテ王女――。
【神龍の檻の指輪】
神龍の血を浴びたこの指輪なら、巨大なドラゴンですら封じ、操ることができる。
水龍を閉じ込め、私の駒にしてやる。
騎士団など、わざわざ一人ずつ処理する必要はないな。
水龍に蹂躙させればいいだけの話だ。
……それにしても。
レティーに、水龍を呼び寄せるほどの霊力があるとは思えない。
龍は純真な乙女に心を開くというが――
あんな腹黒い娘でも構わないのか?
まあ、どうでもいい。
今朝はここにオルシアが来る。
あの娘をここへ嫁がせたのは、私の推薦があってこそだ。
──最初から、すべて計画の内。
スキルは乏しいが、あの霊力。
本来なら大国に嫁げた器だろうに、小国のソードマスターの妻で終わるなど惜しい話だ。
だからこそ奪う。
あの豊かな霊力をすべて。
そして、カラスに変えてやる。
水龍を手に入れ、私は教皇の座へ――。
「くっ、くくく……」
笑いが止まらない。
何も知らぬレティーは、今朝も早くから祈りを捧げている。
健気なものだ。
だがその祈りも、いずれ終わる。
用が済めば――
愛するディーンと同じ、ただのカラスにしてやるのだから。
──こちらに馬車が向かってくるのが見える。
無力なカラス共を引き連れて。
オルシアが来た!
読んでいただいて、ありがとうございました。




