17 ディーンとの再会 /オルシア
自宅待機が解除された。
──やっと外の空気が吸える。
私は窓に近づき、カーテンを開けた。
……その瞬間、息をのんだ。
庭の大木に、びっしりとカラスが止まっている。
異様な光景。
しかも、その中の一羽がこちらへ一直線に飛んできた。
反射的に、カーテンを閉める。
「カァアーー」
不気味な鳴き声と同時に、窓にぶつかる音が響いた。
それが何度も繰り返される。
ぞわり、と背筋が冷える。
「誰か!!」
叫ぶと、すぐにナンシーが駆け込んできた。
私は窓を指さす。
「カラスが、窓を割ろうとしているわ!」
使用人たちが庭へ出て、カラスを追い払ってくれた。
けれど、カラスはすぐに戻ってくる。
「気持ち悪いわね。何かに執着してるみたい」
ケイトが呟く。
そんな騒ぎの最中、シャーロッテ王女が訪れた。
「庭は、カラスの大群だな」
「魔物の討伐、お疲れさまでした」
王女は「いいや」と首を振り話を続けた。
号音ラッパが鳴り、討伐は終わったと思われた。
けれど――ディーンの隊が戻って来ない。
おまけに、森林で火事が起こった。
強風で火の勢いは激しく、このままでは被害が広がる。
「オルシア殿、水龍に頼んでくれないか」
つまり――消火の依頼。
そして。
森の中に、ディーン達が取り残されている可能性。
胸が強く締め付けられる。
私は屋敷を飛び出した。
庭に出た瞬間、一羽のカラスが私めがけて飛んでくる。
けれど、王女殿下が私の前に立ち、剣を抜いた。
鋭い一閃の気配に、カラスは大木へと引き返す。
「カァアーーカァアーー」
一斉に鳴きだすカラスたち。
まるで、何かを訴えているみたい。
……気になる。
でも、今はそれどころじゃない。
私はその場に膝をついて、水龍様に祈る。
──どうか、森の火を消してほしい。
必死に、強く願う。
ただ、ひたすらに。
――やがて。
一人の騎士が駆けてきた。
「水龍が現れて鎮火しました!」
「オルシア殿、ありがとう。これからディーン達を捜索する」
王女はそう言って去っていった。
私は祈り続ける。
──どうかディーンが無事でありますように。
再び<自宅待機命令>が出される。
火事は魔物の仕業と思われた。
そして、ディーンたちは行方不明。
前例のない、危険な状況。
「お兄様は無事よね?」
ケイトの声は、明らかに震えていた。
「きっと大丈夫です。落ち着いて待ちましょう」
――そう言いながら。
私の胸には、不安が嵐みたいに荒れ狂っていた。
*****
それから二日後の朝。
私は護衛を連れて、馬車で神殿へ向かっていた。
――昨日、自宅待機が解除されたのだ。
焼け跡から魔物の焼死体が見つかった。
それをきっかけに、街には好き勝手な噂が広がっていると、ナンシーが教えてくれた。
「ディーンは挙式のやり直しを嫌がって、逃げたんだ。それを部下の騎士達が探しているんだよ」
「いや、魔物との死闘で全員死亡したのでは?」
「騎士たちの死体が無いじゃないか。絶対ディーンが逃げ出したんだ」
……違う。私はディーンを信じる。
さらに。
「やはり水龍はレティーが召喚したと、司祭様が仰っている」
「王家はオルシアの功績と仰せだが、どうなんだ?」
「司祭様はレティーの前に水龍が現れたのを見たらしいぞ。やはりレティーの方が優秀なんだよ」
そんな噂、どうでもいい。
ディーン達さえ無事であれば。
今も森の中、騎士団がディーン達を探し続けている。
なぜ?
──こんな未来、見えていなかった。
ラファエルとレティーが手を組むのは分かっていた。
でも、あの二人は水龍様にあっさり退治されるはずだ。
だけど――この現実。
きっと、あの二人が関わっている。
……今日、決着をつける。
そう決意して湖畔の神殿を目指していた。
その時だった。
ドンッ!!
突然、馬車の側面に何かがぶつかる。
「うわぁああ、カラスだ!」
馭者の悲鳴。
次の瞬間、無数の影が窓の外を覆った。
――カラスの群れ。
激しくぶつかってきて、馬車は大きく揺れる。
ついに耐えきれなくなり、馬車は停止した。
ずっと、気になっていた。
あのカラスたち。
人を襲う様子はない。
むしろ――何かを伝えようとしている気がする。
私は意を決して、扉に手をかけた。
「ダメです! 危険です!」
護衛の制止を振り切り、外へ出る。
その瞬間、カラスたちが一斉に騒ぎ出した。
その中、一羽が、まっすぐ私へ向かってくる。
思わず腕で顔を庇う。
けれど。カラスは、ふわりと私の足元に舞い降りた。
やはり、攻撃してくる様子はない。
それどころか、じっとこちらを見上げてくる。
「何を伝えたいの?」
しゃがみ込み、そっと手を差し出す。
すると、カラスは甘えるように擦り寄ってきた。
……なんだろう。
でも、私は急がないといけない。
神殿へ――
そう思った瞬間。
カラスが激しく羽ばたき、騒ぎ出す。
必死に、私を止めるように。
――危険だ! と告げるように。
「カァアア──!」
まさか。
今、私の考えを……読んだ?
カラスは狂ったように羽ばたき続ける。
「あなた……」
――ディーン?
「カァア!!」
「ディーンなの?」
一瞬の静寂。
そして――
カラスは、コクコクと頷いた。
読んでいただいて、ありがとうございました。




