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東方鋼魔伝  作者: 東志郎
9/10

東方鋼魔伝 ストーリー009

大和一郎にそっくりな男と女性の帝国軍人。その二人はダムから身を投げた。だが、彼らは生きている。馬季常ば・きじょうには確信があった。やがて下っ端の兵士たちからも貴重な情報が寄せられ・・・

ストーリー009


連邦軍資料より 大和一郎以上


~初めて見た能力~


 静かになったダムの上を冷たい風が流れてゆく。馬季常ば・きじょうは白髪の束が混じったきめ細かいダークシルバーの前髪をかき上げた。露になった眉毛にも白髪が混じっている。まだ若いが、彼の特徴だった。


 「白眉はくび


 近所にいた占いのできる老女は、彼を一族で一番の知恵者になると予言した。その事が腹違いの兄たちの嫉妬心に火をつけた。それで、実家を出た。その特徴的な眉を少し潜めて、冷静に先程の戦闘を回想する。


 初めて見る能力だった。広大な領土と無数の国民を抱える地球連邦にすら、おそらくこんな能力を持つ人間はいないだろう。聞いたことすらもない。もしそのような能力者がいたなら、我々連邦軍だって軍にスカウトするに決まっている。

 

 今しがた戦ってきた男性の能力者は大和一郎とは別人であると確信した。彼は腰に佩いた名刀らしき日本刀を一度も抜かなかった。飛翔に用いた剣にも、全く手を触れていない様子だった。明らかに剣の扱いになれていない人間の所作、行動だった。ここに来る前に、大和一郎の墓を確認している。手向けられた山桜の枝。大和一郎は死んでいる。そしてその後も生きていた大和一郎そっくりの男。

「やはり影武者の様な者なのかもしれない。大和一郎の存在感を考えるならば、そのような人間が帝国軍にいて、こちらを戦略的に惑わすことも理屈では考えられる。」

 そう独り言を言う馬季常だったが、今までそう言った現象も、人物も一切報告されてはいない。そして、ダムの上の能力者と同一と考えられるような能力の帝国軍人も今まで存在していなかった。まるで、虚空からいきなりあの能力者が出現したようではないか。そして、彼の能力、その戦闘における実力はもとの大和一郎を上回る可能性を秘めている。とてつもない脅威が、我ら連邦軍に降りかかろうとしている。


 この世界には多くの女性の能力者たちがいる。わが連邦軍にも対する帝国軍にも。治癒能力、強化能力、飛行など、近代軍隊にもその能力は積極的に組み込まれている。だが、男性の能力者はほんの一握りだ。その理由はいまだに解明されていないが、「体の中を巡る気の種類が男女では異なることが原因だ」というまるで東洋医学の基礎理論のようなことを提唱する者もいる。それはある程度は的を得てはいるだろうが、全てではないようにも思う。女性っぽい体つきの男性ならば、あるいは女性のような嗜好や考え方の男性ならば、能力を得ることが出来るのだろうか?今まで見知ったその「一握り」を見ても、別段それに当てはまるとも思えない。


 櫛名田ダムに飛び込んだ彼ら、二人はどうなっただろうか?冷たい水の中に落ちてなお、彼らは無事に生きている気がした。胸騒ぎがそれを証明している。


 彼等は生きている。


飛び込む前の女性兵の自信を持った表情が一瞬思い出された。そして落下した際に発生していた金色の光。間違いない。彼女も何らかの能力者だったに違いない。その能力を使って。


--------------------------------------------


~タマヒメ~


 ちょうどそこに、実弟の馬幼常ば・ようじょう中尉がやってくる。兄と同様、ダークシルバーのきめ細かい髪質。顔は正直、幼常の方が目元がはっきりしていて、派手かも知れない。加えて兄の様な白髪が存在しないので、ちゃんと年相応に見える。長身痩躯の幼常に吊り下げられた形で、小柄な趙明ちょう・めいも猫の子のように運ばれてくる。

「兄貴、いや、隊長、どうしますか?こいつ、敵前逃亡しやがりました。」


 そうだった、こいつは先ほど、南側から奇襲をかけた5名のうちの一人だったが、臆して一人逃げ帰ってきたのだ。馬季常は少し意地悪い言い方で問い詰めた。

「お前には仲間たちの弔い合戦をさせてやるつもりだったのだが?なぜ逃げた?」

実際には、大和もどきの技を一度見ている彼を混ぜた方が勝てる公算があると見ていただけで、失敗や戦略的撤退(?)を責めるつもりはなかった。

「すんませんだす。でも奴ぁ前より格段に腕を上げているみたいだす。」

「それはどういうことだ?」

「覚えています。あいつ、北側をずっと見ていたのに、わしらの動きに気付いた。まるで後ろに目がついているみたいだす。」

敵を探知する能力があると?必死の言い訳のようにも聞こえなくないが、大和もどきの戦闘能力は確かに凄かった。

「まぁ、いいだろう。確かに相手が悪かったようだ。今回の件は水に流してやろう。」

組み立て式の椅子に座って話を聞いていた馬季常は膝を打った。連れてこられた猫のようになっていた趙明の表情がパッと明るくなった。そして首がもげる程のお辞儀をして、

「ありがとうごぜぇます。」と言った。

なんだかよく見ると、ほんとうに路地裏の老猫のような愛嬌のある顔をして見える。丸顔に乾燥肌から来ているであろう笑い皺が猫のひげのようだ。意外と年配なのかもしれないが、泥臭いしゃべり方もどこか憎めない。思わず苦笑する。まぁいいだろう。

「女の方はどう見た?間近で分析したのだろう?」

「ありゃあ、ひでえ腕利きでした。武器も良かったかも知れませんだす。弾込めがとにかく速かった。」

観察眼のある男のようだ。

「他には何かあるか?」

下がらせる前に、と一応聞いてみる。

「お。」と趙明は手をたたき、何かを思い出したようだ。

「そういえば、他の兵も気づいていただすが、湖面に大きな尾びれが見えたと。」

「尾びれ?!」季常、幼常兄弟の声が重なった。

「女の方が変身したんだろう、と言うものがいますだす。」

そこまでのヒントをもらえば、帝国に関して色々調べ、学んでいる馬季常の脳内データにも引っ掛かりがあった。

「『タマヒメ』って倭国にしか存在しない能力者集団だったっけか?」

季常は幼常に確認した。

「それよ、兄貴。西洋っぽく言うと、人魚に変身できる奴らだな。」


 帝国軍のうち海軍である第6、第7師団あたりには幾人もその能力者がいるらしい。彼女たちは絶大なその能力をもって他の海兵達をサポートし、多大な戦果を挙げている。ここ最近には最強の海兵として帝国海軍の師団長にまで昇進した者も現れている。

「確か、帝国第6師団の新しい頭目はタマヒメだったよな。」

「俺たちとあまり変わらない年頃の若い女で、なかなかの綺麗どころらしいぜ、兄貴。」

幼常はニヤニヤと少し品のない笑みをこぼす。愛想笑いでさらっと流しつつ季常は言う。

「まぁ、それはいいとして、二人組のうち、女性の方が『タマヒメ』だったという訳か。」

「陸軍である第11師団にその能力者がいたとして、別段おかしなことではないっしょ。」

「そうだよな。完全にやられたよ。」

このように淡水、海水関係なく能力を発揮できるのであれば、チート能力だ。想定の範囲外だった。その能力に持っていかれた。


 そのくせ、水中に飛び込むのを躊躇っていたようにも思われるが、そこはよく分からない。おかげで、こんな危険なダムの上で戦闘を継続するする羽目になってしまった。それは奴ら2人の帝国兵にとっても最大の危機であったに違いない。


だが、結果的に、おそらく運命と呼べる何かが、大和一郎もどきとその女性を幸運に導いた。


 とうに日も落ちて、月明かりだけになったダムの北側に全軍を集めた。

「もう勘弁してください。」「これ以上兵士たちは走れません。」

馬季常が人情味ある上官だと分かって、下士官たちは割と自由に進言してくる。

「分かった。分かった。でも周辺の調査だけはしておかないと。」

 そこから上流方向はダム湖とそれに注ぐ支流、それらを挟み込む山地で構成されている。広大なダム湖はまるで紅葉の葉のように、水陸入り組み、山地はかなり切り立っている。その上流へと山間を抜ければ、また開けた土地、津山つやま盆地が広がっている。倭国の複雑な地形の典型的なパターンの一つだ。広域地図からも予想されていたが、この辺りは特に複雑な地形であることがわかった。水中を自在に泳ぐことのできる「タマヒメ」がダム湖のどこに泳いでいったのかも予測できない。

「陸地しか移動できない我らの中隊を動員して、この地域を捜索するのは恐ろしく非効率だ。奴らにとっては実に都合のいい地形だな。やめだ、やめだ。」

と深く考える以前から、弟、幼常は匙を投げていた。直感型の天才。

兄、季常もついに彼らを追跡することは諦めた。


 多くの時間と労力と、人員を失った。それに見合う成果を出したかったが、仕方がない。中隊長の身分に全責任が降りかかる。「はぁ。」馬季常はため息をつくしかない。中隊の全軍が本隊からも完全に分離してしまい、勝手にやって来た。単独行動、多大な被害、謎の能力者を取り逃がした。いずれをとっても旅団の本部からお叱りを受けてしまうことだろう。

「だが、大和一郎は討ち取ることが出来たのだ。おまけに凄いものを見れたな。武器を飛ばす能力者にタマヒメ。それらの強力な能力を前に、こちらは打つ手がなかったとも言える。それを全軍に向けて警告するのも建設的な話だ。」

言い訳の確保も以前より上手になり、図太くなった。


 櫛名田ダムの中央にはまるで置き忘れたかのように、連邦軍の武器や防具が多数残されていた。それを見て兵士たちはざわざわしていた。それは紛れもなく、第1小隊の連中が使っていたものだ。

「これ、そのままうちで使っていいかな?」

拾い上げた兵士が言う。とくに銃火器には皆が興味を示した。

「だめだ。一旦本部に接収になるらしい。」

出所もしっかり分かっているので、いいような悪いような。


 あと、水に落ちた兵たちはついに見つけることが出来なかったが、その他の英霊たちはしっかり弔ってやることができた。

「すまない。李徴り・ちょう。敵を取ってやることは出来なかった。」

彼のマスケット銃を捧げた墓に馬季常は深々と黙とうを捧げる。あ、いや、彼は大和一郎と相打ちになったのか?だが、それでも大和一郎もどきは生きている。そいつは連邦にとっての強敵に間違いない。だから、本当の意味での敵討ちは決して完結できていない。そういうことに・・・なるのか?なんだか考えも定まらず、メンタル面でもモヤモヤとする。


 夜通し歩き、連邦軍の占領下にあり、基地のひとつとなっている地方都市、「横田よこた」に馬季常らが帰投するころにはすっかり夜が明けていた。


 昇る朝日に目を細め、馬季常は新しい時代の到来を予感した。



やはり彼ら二人は上手く逃走に成功したようだという事が分かった。彼らを倒すという第一目標が達成できずにモヤモヤとする馬季常。だが、得られた重要なな情報を糧に、心の折り合いをつけるのだった。

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