東方鋼魔伝 ストーリー008
自らの能力をまだ自在に使いこなせない主人公、山田驍。なんとか目的地である櫛名田ダムに小此木真凜伍長を連れて到着した。だがそれは遅すぎる行動だった。二人をついに連邦軍、馬季常率いるゼロナナイチゼロゼロニ中隊が捕捉する。
ストーリー008
五號手記 最後の抵抗
~ダムの上に立って~
自分たちは櫛名田ダムの小径を登って、ついにダムの上に渡された通路にたどり着いていた。上から見るとその高さに足がすくむ。しかも、元の世界の現代的なダムとは若干違っていた。通路は幅が2m程度と狭く、通路の端に膝丈の高さの返しがついている程度。不用意に端に寄るとうっかりバランスを崩して落ちそうだ。西側はほぼ垂直に切り立っており、落ちれば、約50mの高さから真っ逆さまだ。とはいえ、一応、確認のために覗き込んでみる。
「タケル君。不用意に覗き込んじゃだめだよ。こういうのはふっと吸い込まれちゃうから。」
真凜さんが自分の左腕にしがみついている。ブルブル震える振動が伝わってくる。
なんだよ、自分も怖いんじゃないか!
でも確かに、夕陽を浴びてオレンジ色の放物線が怪しいほどに美しく、吸い込まれそうである。反対の東側はやや傾いた斜面の下にダム湖の湖面が広がっている。貯水率は高そうで、水面まで7~8m程度と言ったところか。
「万が一落っこちるとしてもこっち側だよね。」
そう言って自分は東側を覗き込んだ。ちょうどダムの陰になって真っ黒な湖面にはさざ波が立ち、
冷たい風が立ち上ってくる。その風に片目をつぶりながら真凜さんが首をぶんぶん振る。
「無理無理無理無理!これ、ほとんど雪解け水だよ。こっち側に落ちても助からないよう。」
半泣きの真凜さんは自分の腕にしがみついたまま、そう言った。
それを聞いて、自分の心の余裕も一瞬で凍り付いた。
自分たちは通路の北の端のあたりにいた。このままダム湖の北側を進むべきか、南側に回るか。この危なっかしい通路を通るぐらいなら、やはり北側かな?そのような考えを巡らして、迷っている間に、事態は最悪になっていた。ダム湖の北側に沿っている道(おそらく北東へ向かう林道の一つだろう)を、松明の群れがこちらめがけて走ってくる。
気が付くと自分たちが登ってきた小径からも、ダムの南側にも走る松明が現れた。スピード自慢の連邦軍兵士が先に走ってこの一帯の林道、進路を網羅されてしまったようだ。後続の兵も順次到着し、どんどん兵士が増えていく。
自分たちは見事に、連邦軍に包囲されてしまった。
探知能力をオフにしたことで、敵の移動速度が速まっていることを見過ごしたのだ。間抜けにも逃げ場を失ってしまったのだ。逃げる場所はダムのど真ん中しかない。通路の中央辺りに、びくびくしながら二人は歩いた。
「一番来たくなかった場所に来てしまったね。」
涙目の真凜さんが言う。
「そうだね。本当にもう、何も言う気が起きないよ。」
自分も白目をむいた状態だったろう。
北側も南側も、通路の端を連邦の兵士に完全に塞がれている。どちらも少なくとも50人はいるだろうか。西は絶壁、東も冷たい湖水。南北の敵。完全に逃げ場を失った。それでも諦める訳にはいかない。
大和一郎氏にお願いされたように、小此木真凜伍長に宣言したように。自分は大和一郎中尉を継承し、生き抜くことを誓ったのだから。
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~完全包囲~
大和一郎中尉を継承したのだ。諦めるな!呼吸を整えると、自分は「彼ら」を自らのもとに呼び寄せた。川下から、ダムに向かって、やがて滝の上を逆行するように、多くの飛翔体が現れる。剣、鉾、盾、銃。川床に沈んだガラクタが引き上げられる光景のようにも見える。自分が呼び寄せいた僕たち。鉄塊の群れが、自分と伍長の前後を守るように、通路の南側、北側に飛来し、やがてそれぞれ着陸した。
南北両側の連邦軍からは感嘆ともブーイングともとれる声が上がっている。見せつけられた能力に驚きもしただろうし、現れたのが、主に連邦側から奪われた武具だということが分かり、それに対する非難の声でもあったろう。対して、真凜伍長は実にワクワクした様子で、自分の能力が起こしたショーを見ていた。
「なんだか釣りに失敗して、変な物を吊り上げたときみたいだね。」
だなんて、自分と全く同じことを想像して、そんな事を言ってはしゃいでいた。先ほど彼女を助けた際、彼女も足元の地面に必死で這いつくばっていたので、起こっている剣の飛翔現象をしっかりと見ることが出来なかったに違いない。
盾は警察の機動隊が使っているような、縦長の鋼板で覆われた近代的な形状のものだった。持つ盾というよりは置き盾の類だろうか。これをしっかりと立てて北側、南側にそれぞれ3枚、4枚と並べると、
二人の人間を守るには十分なバリケードが完成した。通路の路面は、分厚く堆積した腐葉土と枯葉で構成されている。剣などの凶器はいったん路面に突き刺して、盾を支える柱にしたり、攻撃用のストックとして周りに配置した。先ほど学習した通り、あらゆる能力はを一旦オフにしてスタンバイ。省エネ運転だ。
相棒の伍長も、銃の装填を手早く済ませているようだ。今ようやく彼女が銃兵だということを認識した。ずっと担いできていたけど、使うのを見るのはこれが初めてだった。白銀の美しい銃が夕陽に照らされて輝く。先ほどまで、「実家が食べ物屋さんである経験を生かして、補給係を担当しているの」とか言っていたが、騙されていた。でもこの状況では逆にとてつもなく心強い。
うまい具合に、しぶとく抵抗できる形が整った。危険な細い通路。そこに設えたバリケード。立て籠もる二人の遠距離攻撃タイプの戦士。近づくためにはこの危険な細い通路を100mも走ってくるしかない。
敵の目から見れば、相当に厄介な存在だろう。それでも攻めてくるかね?ふふっ。
と細長い筒をこちらに向けた兵士たちが北側の軍団の中から一歩前に出た。まずい。一斉射撃がくる。二人はバリケードの中に身を隠す。パパパパ~ン。複数の乾いた破裂音が固まって鳴り響き、盾の表面を襲う。ヒュン、チュイン、ヒュン、ドバン、チュイン。まさに間髪入れず、すぐそばで恐ろしい衝撃音や空を裂く音が耳を傷めつける。二人はしゃがみ、身を寄せ合って震えた。ほんの数秒で轟音の嵐はおさまったが、慌ただしい物音がざわざわと続いている。
畜生、反撃だ。自分はバリケードからほんの少し頭を出し、敵の様子を伺った。敵の銃兵軍団は再装填を始めたようだ。立った姿勢で銃口の先端から弾込めをしている。その姿は少し無防備にも見える。これはチャンス。こちらからお返しをお見舞いしてやろう。
自分は念を込めると足元にあった10本ほどの剣を一斉に(能力で)土から抜き、宙に浮遊させた。そして、一斉にそれを敵陣に飛ばす。白銀の軌跡が通路に描かれる。敵の兵士たちはそれに一瞬見惚れ、ガスガスガスッ!剣の群れに襲われた。「ワ~」「グオ~~」一部の兵士が倒れ、もがいている者もいる。
パーン!すぐ真横で銃声。真凜さんの放った銃が、通路に侵入しかけた兵士を撃ち抜く。「グハッ」兵士は見事に倒れた。その顛末をほとんど見ることなく、真凜さんは次の装填を始める。ちらっと見ると、敵の銃と異なり、真凜さんはカパッと開いた銃身の後ろから弾を込めている。敵の銃とは構造が全く異なるようだ。装填完了。早い。また1発、敵にお見舞いされる。また装填。パパ~ン!「ウガッ」装填完了したあちらの兵士の一人が吹っ飛ばされたまま隊列から消えた。また装填、3回目のお見舞い。パ~ン!バタッ。また敵兵が倒れる。
二人の攻撃で隊列からは7~8人が脱落したみたいだ。だが敵は大勢いる。別の人間が入れ替わりで隊列に参加してくる。結局元の人数、おおよそ30人程度か?人数的に完全復活し、少し立ち位置を変えたようだ。第2波がくる。パパパパ~ン。複数の乾いた破裂音。ガツン、チュイン、ドスッ、チュイン、カチン。先ほどよりもまとまった位置に衝撃音が集中する。盾は何とか今回も防いでくれたが、いつまでもつことか。何回も一斉射撃を食らえば、そのうちどこかが崩れそうだ。
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~暗殺部隊~
こうやって北側からの攻撃にばかり気を取られているが、大丈夫なのだろうか?そう思って、一瞬だけ探知能力を開放してみた。やはり高レベルな能力なのか、一瞬気分が悪くなった。でも大正解だった。何っ?!背後から敵が何名か近づいている?奴らはゆっくりと距離を詰め、十数mまで来たところで一気に襲い掛かってきた。猿のように身軽な風貌の5~6名は小型で鋭利なナイフを片手に自分たちの方へ突進してくる。
だが、落ち着いた射撃が先頭の兵士の下肢を撃ち抜いた。パ~ン。「ぐあっ」兵士は痛みに耐えたようだ。まだ致命傷とまではいかないようだった。だが、場所が最悪だった。その兵士は何か支えを探して手を泳がせたが、空を切るばかり。体のバランスを崩してついには西側の絶壁から転がり落ちた。「ア、ア~~」奈落の底へ転落する断末魔が谷間に響いた。自分も彼女に合わせるように剣や鉾を飛ばす。グハッ。ウグッ。その場に倒れ落ちる兵士たち。
それでも後方の2名は攻撃を免れた。
残る2名はぎょっとして動きを止めた。直後、ひとりは一目散に陣へ戻ったが、もう一人は勇敢にそのまま向かってくる。今度はこちらがぎょっとする番だった。5m、3mと距離が縮まる。パン!、と勇敢な男の脇腹を銃弾がかする。「あっ」と男は痛覚に表情を歪めた。走る勢いとわき腹を抑える動作でバランスを崩した。「ナ、ア、ア~~」背中から落ちる格好で、東側のダム湖へ落ちる。
ザバーンと垂直に水しぶきが上がり、数秒後、必死の形相の兵士が水面に上がる。が、突如ぴくっと硬直したかと思うと、蒼白い顔で目を見開いたまま、沈んでいった。水の冷たさに心臓発作を起こしたようだ。真凜伍長が思わず顔をそむける。
敵にざわざわとさざ波のような動揺が走る。射撃もダメ、寄せてもダメ。我々は良く防戦したようだ。真凜伍長はまた手際よく銃の再装填を済ませると、構えた。彼女の持つ銃は、敵が持つライフル型の長銃ではなく、中途半端な長さの銃だった。拳銃を含む短銃が長さ10~20cmであるとするなら、ちょうど中間的な長さ、大きさだ。銃座まで含めて80cm程度のそれは、側面に幾何学模様も描かれ、造りはとても精巧に見える。敵の銃の方が長く、長距離射撃に向いているように思ったが、互角以上に渡り合っている。腕の良い彼女に与えられた、特殊な武器なのかも知れないと思った。
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~自分たちに選択肢はなかった~
とはいえ、暗殺部隊を片付けたら、すぐにまた射撃が来るのは分かっている。バリケードに引っ込んだ。予想通りだった。通路の連邦兵がいなくなったら間髪入れずに撃ってきた。パパパパ~ン。第3波の一斉射撃。ガツン、グワン、ドスッ、バシュ。盾がやられ始めた。近代的と思って信頼しきっていた盾だが、実際にはそれほどのものでもなかった。薄い鋼板の下はつぎはぎの木材。とんだ張りぼてだった。自分には木材を検知、分析、評価する能力はない。浮遊させる能力もない。
ところで、今までの攻撃で気づいたことがあった。銃撃はすべて北側の部隊(?)からだ。南側の部隊は、接近、暗殺(?)中心の部隊のようで銃兵はいないようだ。であれば、南側には強力な防壁は必要ないはずだ。自分は銃撃が収まって、敵が装填を急いでいる(?)あいだに、能力を使って南北の盾を交換した。よし、これでもうしばらく凌げる。それでもただの我慢比べには違いない。
と、今までにない脱力感を感じて膝まづく。「タケル君!大丈夫?」伍長が体を支えてくれる。今の盾の移動で能力を使ったことで、いよいよ体力が限界に達したらしい。ついに、ついに、ここまでなのか?そこにあった剣を支えに何とか膝立ちになる。盾から上に頭を晒すことになるので、完全に立つわけにはいかない。すり減った体力で中途半端な姿勢になるのは非常につらい。
そのときだ。南北両側から、一斉に多くの足音が迫るのに気付いた。
こちらからの反撃が滞り始めたため、ついには強硬策に出たのか。速足の2列縦隊でどちらも迫ってくる。こちらに反撃する能力は、真凜伍長の発砲、1回分のみ。意味があるのだろうか?彼女の顔を見つめた。
彼女の強張った顔は沈みゆく夕日を浴びて、いまにも消えそうに見えた。
今でも忘れない。その時つないだ彼女の右手の感覚を。
「タケル君、飛び込みましょう。」
銃を背嚢の脇に差し込み。彼女は右手を差し出した。自分はそれを左手で受け止め、互いの指が絡まるようにしっかりとつないだ。彼女の鼓動が、手首の脈動から伝わってくる。緊張して冷たくなった手のひら。しっとりとした手から伝わる緊張の汗。
夕陽が今まさに沈み、藍色の闇が湖面をどす黒く塗りつぶす。先ほどの兵士の水没をこの目で見ている。ほとんど氷水のような湖水。彼女自身もこの湖水に飛び込むことをひとたび拒んでいる。落ちたらおそらく助からない。
それでも一縷の望みを賭けるしか、自分たちには選択がなかった。
もう一度彼女の顔を見た。
夕闇の中で彼女の顔は相変わらず青白く見えたが、そこに確かな決意を見出した。
「真凜さんのことを信じます。」
少し強がって、そんな台詞を口にした。
「任せて。」
そう言って、彼女は少しだけ強がって微笑んだ。
その瞬間、二人は通路の端を蹴って、一瞬虚空に舞ったが、容赦ない重力が二人を襲う。体の傾きを感じる、それでもつないだ手を離さない。水面に到達する前に足が壁面に届いてしまった。必死で蹴り飛ばす。ほぼ頭からダムの上を見上げる形で入水する。遠くダムの上の通路に敵軍の兵士たちが雀の群れのように並んで見えた。
「ざまあみろ。追えるもんなら、ここまで追ってきやがれ。」
遠ざかる景色が水の泡の向こうに消えていく。不思議と寒くはない。
何か暖かい光に包まれて、自分は沈んでゆく。
自分の確かな記憶はそこで途切れたようだった。
奪った武具で造ったバリケードに立てこもり、果敢に応戦する主人公、山田驍と小此木真凜伍長。だが、山田驍の能力が限界に達し、二人は窮地に立たされる。抵抗を諦めた二人はついに、冷たいダム湖に身を投げる。




