東方鋼魔伝 ストーリー010
ダム湖、人魚に変身できる能力者だった小此木真凜伍長。だが、ここ何年もその能力は失われていた。彼女が能力を取り戻したことも、また奇跡。彼女は気を失った山田驍を見守りつつ、過去を回想する。小此木真凜の目線で語られるエピソード第10話。
ストーリー010
小此木真凜の回想 変身できなくなった、はずだった。
~溺れたあの夏~
思えば高校2年の夏に溺れて以降、トラウマになって変身することが出来なかった。つまり私は、それまで持っていた「タマヒメ」の能力を足かけ8年もの間、失っていた。あの夏、海の底に眠る秘宝を探しに、外海の沈没船を探索したのが発端だった。
その年に二つのささやかな事件があった。
ひとつは一番下の妹、「珊瑚」が変身できるようになったことだ。私の家は3人兄弟で、一番上の私は少し年が離れている。真ん中の弟「平雅」を挟んで、一回り下の妹だ。5歳になって能力に目覚めるのはかなり遅い方だが、それもあって、同じくタマヒメの能力者である母と私は大喜びした。そうそう。能力は母系遺伝することが分かっている。だから母から娘の私と妹に遺伝する。とはいえ、それは100%とも言い難い。叔父の博文はそのことを研究している。
もうひとつは、青海の街から内海を抜けて日本海に出たあたりに、沈没船がたくさん発見されたらしいという、地元ニュースだった。沈没船と聞いて、誰しも頭に浮かぶのは沈没船の財宝だ。それを狙うハンターの様な人がたくさん来訪していると、そんなうわさ話も広まった。その財宝にもよくありそうなのが、金貨、銀貨、宝石、琥珀、珊瑚・・・。
そう(!)まさに彼女の名前の財宝がそこに隠されているかも知れない。妹の慶事のお祝いとして、とっておきの宝物を贈ってあげたいとお節介な姉は思った。私も、夏休みを利用してハンター稼業に旅立った。たまたまその頃は仲の良い友達に「タマヒメ」はいなかった。独りでの旅立ちとなった。
普通の人ならば、青海から内海を抜け、日本海への出口でもある港町、境港まで定期船で移動し、そこから海に入ることだろう。沈没船は境港からすぐ沖のあたりだという。でも私は変身能力に自信があった。何時間も変身形態を維持したまま、美しい川、汽水湖の宍道湖、海、どこへでも行けた。他のタマヒメの同級生なんて、10分も変身していられない。能力には個人差が大きい。ああ、そうか。それで自信過剰の私は同種の友達に恵まれなかったのか。昔の自分の欠点に後から気付くのが、とても恥ずかしいと分かった。
片道分の船賃をけちりつつ、変身してタマヒメの姿のまま青海から境港まで約40km海中浮遊する。それが失敗だった。さすがの私でも、長距離浮遊、長時間の変身に限界が近づいていた。沈没船に到着するころには、私の能力はほぼ切れかかっていた。
しかも残念なことに沈没船には想像していたような財宝は一切なかった。それはかつて日本が草原の国に侵略されそうになったころの名残で、大昔の軍船だった。薄暗い船内には茶色くさび付いた大昔の武器が積み重なるばかり。どこにも財宝は見つからない。たまに白骨死体の残骸のようなもの?が。きゃ~~~。財宝が見つからない焦りや恐怖感が強くて、私は能力が切れそうなことを意識の外に追いやっていた。ついにその時が来る。能力が尽きる。変身が解ける。ごぼっ。苦しかった。白骨死体など比べ物にならないほどの恐怖が襲ってくる。かなりの深度の水圧。重苦しい水の圧力で肺が破裂しそう。水の冷たさ。誰か助けて!
それでも、変身が解けた普通の人間の姿で、何とかその場から海面にもがき上がった。通常の水泳も当然習得してはいるので、消耗してはいるが、なんとか気合で頑張るつもりだった。ところが、岸に泳ごうとしても一向に近づけない。焦った気持ちのまま、体はついてこずに気怠い。能力が尽きたことで、体力も尽きかかって眠気も生じているのだ。
「危ない。離岸流に乗っているわ。こちらに手を。」
意識が遠のきかけた時、美しいミルクティー色の髪をしたタマヒメに助けられた。
地元ニュースに恥ずかしい記事が追加された。
「前代未聞!溺れたタマヒメの少女を海軍のタマヒメが救助。」
助けてくれた女性は海軍の士官で、演習中に私を発見し、救助に駆け付けてくれたとのことだ。その大恩人の彼女は、今も軍人としてバリバリ活躍しているらしい。私もついに入隊した訳だし、そのうちちゃんとお礼に行かなくちゃいけないなと思う。
恥ずかしいニュースは夏休み明けの学校も騒がせたが、面白キャラの私は笑いで片付けた。
「だいたい、溺れた訳じゃないしぃ。」
と言うノリで。友達仲間の一人、木暮美香は
「ハンター失格だね。だっさ。」
と腹を抱えて笑った。というより、本当に丈の短い制服の合間からおへそを丸出しにして豪快に笑っていた。
そんなことよりも大問題だったのは、その後に変身能力が使えなくなったことだ。溺れたことによるトラウマなのか、学校の水泳場でも、川でも、試したが一切無理だった。両親は呆れたり、心配したりして大変そうだった。進路も変えざるを得なかった。海洋関係の仕事を諦めるしかない。今までの進路希望を全部取り下げ、私は父に倣って料理の道に進むことを決意した。
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~奏さんで良かった~
だからもう二度と私は変身することができない。そう諦めて生きてきた。
だけど、タケル君と二人で生き残りたい、そのための力がもう一度欲しい。そう願った。
二人にとっての大ピンチだったけれど、私はきっと、とても充実していたんだと思う。
君が私にとっての奇跡そのものだから、こうして私も強くなれた。
結果、変身に成功した私は、ダム湖を遡上し、気を失ったタケル君を引き連れて、無事ここまで逃亡することに成功した。こうして、今二人とも無事でいるなんて、本当に信じられない。全ては私を助けに現れてくれたタケル君から始まった。
私は彼の顔を覗き込んで笑みがこぼれる。先ほどつないでいた彼の左手にそっと触れてみる。大和隊長と同じ、綺麗な、小さくまとまった顔の作り。さらに隊長よりは少しあどけない。ミルクチョコレート色の無造作な髪は艶やかで少し長いから、中性的に見えるかな。
ふふっ。
「真凜さん?」
ぎゃあああっ!
後ろから声をかけられて、心臓が口から飛び出そうになった。咄嗟にタケル君の左手から手を離した。髪まで逆立てて、恐る恐る振り返る。
「やっぱり真凜さんだ。よかったぁ。」
砂色の髪の女性に唐突にハグされた。でも良く知った相手でほっとした。彼女は如月奏准尉、私の叔父にあたる小此木博文中佐と一緒に仕事をしている。
普段表情の希薄な彼女、最初はとっつきづらかったが、今はとっても仲良し。実は気が利いて優しいし、とっても友達思いなの。そんな気質は後からだんだんと分かってきて、人間って奥が深いんだなと思った。
「かなでさん。心配かけて本当に、本当にごめんなさい。」
そう言うと抱き返した。
「博文さんも心配して頭を掻きむしっていたわよ。帰ったら、ちゃんと謝りなさいよ。ね?」
そう言いながら泣き始め、彼女は猫耳をぴくぴくさせた。私も彼女のことをしっかり抱きながら、再会に思う存分泣いた。
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~大事な相談~
ひとしきり二人でわんわん泣いてから。ようやく落ち着いてきて、体を離した。まだ手と手は繋いでいるが、普通の距離で奏さんを見ている。彼女は「ネコマタ」という能力者で、いわゆる猫の獣人に変身することが出来る。今の彼女は、猫の獣人の姿でいる。軍服の上の猫耳が少しアンバランスで可愛い。猫の獣人は身体能力が高い。とくにジャンプ力や反射・移動速度が常人をはるかに上回る。その能力を使って、斥候や諜報部員として活躍する。確か彼女はもともと諜報部の所属だった。
「ところで大和隊長、なんだかしゃれた服装ね」
驍君を見て奏さんがほのかな笑顔で言う。軍服の下からあずき色?赤ワイン色?のフードがにょきっと肩に出ている。実はちょっとかわいいな、と私も思っていた。彼女も興味深く見ていたが、大和氏とタケル君の違いに気付いて、真顔に戻って言った。
「これ、誰?隊長のそっくりさん?」
彼女の観察力にも驚いたが、自分は正直に説明すれば話が速いと思った。
「実はかなでさんのお見立て通りなんです。だから、帰ったらぜひ、叔父さんに相談したくて。」
私は奏さんに、今まで私とタケル君の身に起こった何時間かの出来事を説明した。彼女は最初は大変驚き、その後思案に暮れていたようだが、最終的には何かを悟ったような表情になった。
「分かったわ。でも驚いたし、残念。まさかあの大和隊長が・・・。そして、これは山田驍君というわけね。それじゃ、もうちょっとこの周辺を哨戒しているけど、先に戻ったら伝えておくわ。」
そう言って、シュッとその場から外へ飛び出した。そして近くの木の枝に軽々と飛び乗ると、にっこり笑って手を振り、そのまま枝から枝へ飛び移るように夜の闇に消えていった。すごい。本物のくノ一だ。しばらく彼女の消えていた方向を呆然と見ていた。
足元のタケル君がもぞもぞとしている。二人の会話で眠りが妨げられた?いや違う、なんだか大変うなされているようだ。私は今度は彼のことがとにかく心配になり、安心させる意味で彼の左手を両手で優しく包み込んだ。
山田驍を見守りつつ、過去を回想していた小此木真凜のもとに、旧知の相手である如月奏准尉が現れる。再会を喜ぶ二人。だが、如月が去ったあと、昏睡状態の山田の様子がおかしくなり始める。




