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東方鋼魔伝  作者: 東志郎
6/10

東方鋼魔伝 ストーリー006

二人だけの撤退を続ける主人公、山田驍やまだ・たけると女性軍人、小此木真凜おこのぎ・まりん。二人は山田驍の今後の身の振り方を模索する。そして、新たなる能力を開花させつつある山田驍。だが、その能力はうまく活用できず・・・

ストーリー006


四號手記 撤退中にて 


山田驍やまだ・たけるの状況把握~


 自分はこの世界に転移して、最初は地獄か死後の世界かも知れないと思い、ただ混乱していた。元の世界では残業時間の合間に職場付近でトラックに轢かれた(轢かれていない可能性も)。その後に次元のはざま(?)を浮遊してこの世界にいたのだから、そう思って当然だった。それでも徐々に状況が呑み込めてきた。ここは異世界で、元の世界の日本に酷似した国にいる。


 見てきた凄惨な光景は、確かに地獄絵図だったが、死後の世界を意味するものではなかった。そう、戦場。地獄の戦場に自分は叩き込まれたのだ。近世と近代の狭間を思わせる時代背景。戦場に転がる銃や剣などからそう推測された。


 最初は、動く者のいない無人の森林に思えたが、それは辺鄙な地方の山林の中にいたからだ。なおかつ戦闘終了後の、そのタイミングに自分が出現したことがもうひとつの理由だ。生身の人間達に遭遇するまでは、それこそ現実感も乏しいというものだ。


 それでもついに人間達に遭遇することが出来た。だが喜んでいる暇はなく、戦闘の続きに巻き込まれる。敵である「地球連邦」の兵士を倒し、「日本帝国」の女性軍人を助ける。異世界であっても、日本人である彼女は(外見は少しファンタジックだが)、間違えなく心を許せる存在だった。そんな訳で、かけがえのない仲間を得られたのだった。


 そして神秘体験。自分は、山田驍は大和一郎を継承する者になった。悪く言うとなりすましだ。確かに彼の声を聴き、そう決意した。だが、しばらく時間が経過して、不安も出てきた。これから自分たちは帝国軍に戻る。自分は大和一郎としてやっていくことが出来るだろうか?異世界から来た違う風習(の可能性のある)人間、軍人としての経験ゼロ。そして突如能力に覚醒した人間でもある。周囲の人々、他の隊員たちはどう感じるだろうか?


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~身の振り方~


ふと隣をしゃんしゃん歩く小此木真凜伍長と目が合う。彼女に正直に相談することにした。

「大和隊長の跡を継ぐと言ったものの、僕、異世界の一般人なんだよね。

軍人としての経験もないし、能力的なところとか、風習とか、うまくやっていけそうかな?」

「そうですね。風習?とくに変わったところもないし、大丈夫なんじゃないかしら?経験の方は、何か理由をつけて上手くやりすごせるといいわね。」

「いっそ、正直に身分を明かした方がいいかな?」

「うーん。タケル君が大和隊長に成り代わっているというのは、最初は伏せておいたほうがいいかもですね。でないと大混乱、大問題、大事件になるかもしれませんよ。」

とこれまた超絶正直な感想を述べてくれた。自分は変な汗が出る。

「隊長は有名人だったようだし、それが問題という事かい?」

敵からは「帝国の死神剣士」と恐れられ、味方からは「帝国の蒼き(あおき)残光」と英雄視され、とにかく注目される存在だ。なりすます対象として、ハードルが高いようにも思う。

「そおねぇ。それよりも、よその世界から来た人なんて、昔話に出てくる程度だから。おそらく、大和隊長が頭がおかしくなって妄想しているようにしか見えないかも。」

そうか、むしろそっちの解釈になるのか。ならば、大和隊長が健在だったら、自分は急に出現したドッペルゲンガーのような存在になるのだろうか。

「も、妄想・・・。だけど真凜さん。あそこには確かに大和隊長の墓があるんですよ。」

自分は足を止めて、後方を指し示した。

「確かにそうです。でも今の状況でそれを言っても、普通の人たちは混乱するだけだと思うわ。」

「だいたい、こっちだってまだ混乱しているんだよ。」

と少しひねくれて見せて言うと、彼女もころころと笑った。


しばらくして笑い止んで。

「最初は少数の偉い人とかに相談して、一部の協力でやっていくのがいいんじゃないかしら?」

可愛らしい共犯者はサラッと凄いことを提案してきた。

「心当たりでもあるの?」

「うん。私も命の恩人のタケル君に全力で協力しないとね。」

 屈託のない笑顔でこちらを見る。殺されていたかは分からない。でも強姦は魂の殺人ともいうし、言葉の通りかも知れないな。このひとを助けられて、本当に良かった。やや瞬きの多い上目遣いと目が合ってそう思った。長い美しい睫、血色の良い薄紅色の頬。二人の時間が一瞬止まったかに思えた。


 その時、異変を察知した。


 敵が迫っている。


 自分に覚醒した能力は、鉄塊を自由に浮遊させ、操ることが出来る能力だが、まずはその鉄塊の分布を感知できる能力が土台にある。先ほどは、戦闘後の森の中に転がっている武具を実際に目で見て、位置、配置を覚えていた(もちろんそんなつもりはなかったが、無意識にできてしまう)らしいが、今度は違う。多くの鉄塊の群れが、探知範囲内に入って近づいてきている。そんなイメージを得た。

 自分がレーダー探知機を脳に搭載したような状況だ。これも慣れないとかなり負担のある能力のようだ。意識を持続していると、かなり疲労する。一度探知能力をオフにしてみる。気が付くと左手で生え際のあたりを抑え、右手は膝の上にあり、少し腰を落とすような中腰の体勢で石の彫像のようになっていた。

「だいじょうぶ?」

と真凜伍長が一歩近づいて、くっつきそうな距離にいる。

息をなんとか整える。

「ああ。も・・問題ない。」

とやっと一言二言返せる程度で息切れしている。それでも、彼女にも伝えなければならない。

「どうやら、敵が追ってきているようなんだ・・・。既に隊長の墓の辺りまで一部が到着している。

はやく、はやく、逃げないと・・・。」

そう言ったものの、自分は動けない。心配そうに見守られている。隊長の墓も敵の勢力下に落ちてしまった。隊長の死、自分の異世界転移。説明することはより厄介な状況になってしまった。


 1~2分ほどしてようやく落ち着いてきた。その間、彼女は背中をさすってくれた。息切れが収まった。今度は彼女が手を差し伸べてきた。

「行きましょ。」「あぁ。」

自分はその手を取って再び歩き始めた。


--------------------------------------------


櫛名田くしなだダム~


 周囲の景色が少し変わってきた。相変わらず美しい、ゆっくり見れば心満たされる野山だが、先ほどよりも険しさが増してきた。大和氏を弔った場所からすでに2㎞ほどは歩いたろうか。川の音も聞こえ始めた。やがて、目の前が開ける。左右の斜面に挟まれて、幅20mはあろうかという滔々たる川が現れた。

河原の石は丸くて小さく、ここが中流域であることを示していた。遡るとダムがあるのか。果たして、川の上流、500mほど先にそのダムはあった。


 とするとこの大きな川が斐伊川ひいがわで、櫛名田くしなだダムと呼ばれるダムがあれなんだろう。斐伊川は元いた世界では島根県の出雲地方を流れる川だが、櫛名田ダムは聞いたことがない。異なる地理であることをその時点で予想した。ともあれ、近づくにつれ、ダムの堂々たる存在感に驚嘆した。

幅200m、高さも川面からは50mはありそうだ。西に壁面を向けたそのダムはオレンジ色に輝き、壁面からは幾筋もの滝が放物線を描いている。ダムの上に登れば、周囲も見渡せそうだ。ひとまず二人はわきにある小径を伝って、ダムの上に登ってみることにした。


 自分はまた、用心のため、先ほど闘いに用いた剣や、今度は盾なども宙に浮かせて運んできていた。

それらを一旦、流れの中にある、川の中洲のような感じに広がっている小島の上に積み下ろした。それを終えたところで、また疲労感が増してきた。それは何も背嚢を背負って、山道を歩いてきただけでなく、能力を継続的に使用していたからだ。


 先ほど真凜伍長を助けた時のように、ほんの一瞬の能力使用ならばたいした消耗にならない。いや、あの時は相当に疲れたと思ったが、今回ほどではない。今回は鉄塊をいくつも浮かせて、このダムまで歩いてくる間、30分ほどかけて低速で飛翔させていた。思えば要領の悪い能力の使い方だが、覚醒してまだほんの数時間。器用に活用できていない。


 ゲームなら、と元の世界のことを少し思い出した。ゲームの世界なら、自分の使う能力は魔法の位置づけだから、消耗するのは魔力のキャパシティーを表すMPマジック・ポイントであって、行動力に関係した体力のキャパシティーを表すHPヒット・ポイントには影響ないはずだ。だが、この能力が消耗させているのはHPのようなものに他ならない。体育会系的な言い方で言えば、スタミナだろう、あるいは東洋医学的に言えば気の力だろうか。そうなってくると使い方がとても難しい。限りある体力を使い切ると、行動不能になるのでは?そんなことをぶつぶつと考えながら、無防備にダムの脇の小径を登り始める。


 折角先ほど習得した探知能力だったが、今の自分の実力では安易に使うことが出来ない。実はその頃、追跡のスピードを上げた敵が、狼の如く襲い掛かろうとしていたが、探知能力はオフにしたままだったのだ。


 自分たち二人は、確実な危機が迫りつつあることを知らなかった。

二人だけの撤退を続ける主人公、山田驍やまだ・たけると女性軍人、小此木真凜おこのぎ・まりんはついに、目的地であるダムに到着することが出来た。果たして二人は連邦軍を振り切り、無事帝国軍に戻ることが出来るのか?

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