東方鋼魔伝 ストーリー005
英雄、大和一郎の継承者となった主人公、山田驍。小此木真凜伍長とともに、たった2人での撤退を開始する。そんな彼らを執拗に追跡する者たちが現れた。敵方視点で語られる、エピソードその5。
ストーリー005
連邦軍資料より 追跡者
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地球連邦 青海方面軍
第7旅団 第10大隊 第2中隊 通称:071002(ゼロナナイチゼロゼロニ)中隊
中隊全兵数 約200人
中隊長 馬季常(ば・きじょう:日本読み)/階級:大尉
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正暦1800年の春のことだ。19世紀最後の年に馬季常は27歳になっていた。軍隊ではそれなりに出世し、同期を差し置いて大尉に昇進、既に中隊長の座を与えられていた。成人して間もなく、居心地の悪い実家を逃げ出すかのように軍人の道を選んでいたが、正解だ。
そう気楽に構えていた。忘れもしない、あの夕刻までは。
中隊の所属する第7旅団は、撤退する帝国軍を追撃中だった。ただ逃げる敵軍を襲うだけ。簡単に思えるが、そう簡単にいかない。逃げている部隊を追いかけていくと、見通しの悪いところに別の部隊が潜んでいて(伏兵という)反撃を食らう。偽装退却の事もある。帝国がまだ封建的な時代にあったころ、
「釣り野伏」などという名の戦法が有名になった。これは偽装退却と伏兵を組み合わせた高度な戦術だ。
獣用の罠が森林地帯に仕掛けられていることもある。そんな泥沼の戦いが続いている。
馬季常の中隊はとくに貧乏くじだった。敵が悪名高い帝国の死神剣士、大和一郎中尉率いる小隊だったからだ。ほぼ丸一日かけていくつかの中隊と協力しながら敵を追い詰めたつもりだった。その実、敵にうまく誘い込まれていただけで、逆にこちらが被害を出している状況だった。気が付くと、その他の中隊は多方向に分散し、自らの中隊だけが彼の小隊と対峙している。
お互い近代化を急ぐ我が「地球連邦」も対する「日本帝国」も、軍隊の運用は共通するところが多い。
まずは部隊の単位当たりの人数、規模だが、これはおおむね一致している。中隊は4つの小隊で構成され、各小隊の長(つまり小隊長、階級はひとつふたつ下の中尉か少尉だ。)がそれぞれ50人程度の隊員を率いている。だから敵は我らよりも少数、50人程度でしかないと分かる。
しかも追われる身で無駄に弾薬を消費しており、もともと銃を持つものも多くないのか、ほとんど白兵戦(接近戦)で反撃してくる。古来からある剣(彼らの持つそれは日本刀として知られる)や鉾、槍、弓などを使うものもいる程度だ。弓は銃ほどの脅威ではないが、射程も長く優秀な武器であり、油断禁物だ。森林地帯の見通しの悪いところでは、銃によるアドバンテージも少ない。こちらとて、割合として多いのは結局白兵戦の兵士だ。最後は気合での切り合いになる。そこに殺人マシーンのような剣士がいたらどうなるか?兵士たちの恐怖心はうなぎ上りだった。
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煮詰まった状況で、中隊の幹部たちを集めた。
各小隊長3名と中隊付の参謀(副中隊長的な位置づけだ)である馬幼常中尉
を含めた士官達、4名が集まってきた。馬幼常は馬季常の実弟でもある。頭も切れ、腕も立つので、身内としての存在以上に信頼を置いている。その幼常中尉が口を開いた。
「敵はあの大和一郎中尉率いる小隊だ。兵力ではたった1/4でも、とても油断はできない。
下手をすると総力戦で臨んで五分といったところだろう。どう仕留める?誰か意見はあるか?」
皆が黙り込み、重たい空気がその場を支配する。その場にはひとり小隊長が欠けていた。第1小隊の隊長、李徴中尉だけは先行して既に大和一郎側と交戦に入っている。李徴中尉は馬季常の士官学校時代の同期だった。お互いに近い部隊に配属され、最初は良かったが、戦闘が続く中、部隊が再編され、また昇進もあり、いつしか李徴は部下になってしまった。気にしなければよかったが、何とも気まずい人間関係になってしまった。手柄を上げて早く追いつきたい気持ちが、今現在先行している理由に繋がってるのかも知れない。
折しも斥候が戻ってくる。
「敵の数が前よりも減っています。おそらく5~10人程度しか残っていないかと。」
なんということだ、こちらが倒したからではない。敵の撤退はうまく完了したようなものだ。残りが10人であれば、せいぜい1分隊だけを残してあとは既に撤退済みなのか。
1分隊とは小隊のさらに下の単位、下士官である曹長や軍曹が率いる部隊の単位だ。分隊が5つ合わさるとちょうど50人、1つの小隊となる。5人ならば分隊のさらに下の単位。1つの班ということで、一番下の下士官、伍長という階級の班長が率いる。ちなみに伍長の語源もここから来ている。「5人の長」、文字通りだ。これが部隊の最小単位だろう。班が2つで1分隊。ある程度の差はあるが、人数の目安はこんな感じだ。
状況が変わった。少し空気が軽くなったと思いきや、それでも皆押し黙っている。その残っている中に殺人マシーン、大和一郎がいれば、依然脅威はぬぐい切れていない。
「殿」・・・撤退、退却中に一番後ろに残ることを意味する。
これは軍事上とても重要で、困難で、強者がその役を買って出るのがどこの国、戦場でも定番だ。
ましてや一軍の長の責任もあるだろう。責任感の強い倭人。小隊長が先に退くことなどあるだろうか?
残った中に大和一郎がいる可能性はほぼ100%だろう。と皆は一瞬思案に暮れた。
「全軍で李徴の小隊を助けに行こう。」
その時、馬季常は言った。皆の視線が集中する。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。と言う。当然これは危険な賭けにはなるが、我が連邦の脅威を討ち取るチャンスでもある。ここで彼を、大和一郎を生きて返せば、必ず彼は捲土重来を成そう。それは幾人もの帝国兵を逃すよりも果てしなく大きなことだ。」
馬季常の言うことは尤もだ。士官たる者は、目の前の戦術だけでなく、今後の戦局を見据え、戦略的に考えねばならない。ただ、安全は担保したい。
「念には念をということで、足の速い偵察を援軍を兼ねて先に送り込もう。」
弟・馬幼常が兄の顔をちらっと見たうえで言葉を足した。他の小隊長達もその言葉に納得してうなずいた。こうして何とか中隊全体を動かせる格好にはなった。
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李徴の小隊は引き続き、大和一郎含む少人数に攻撃を仕掛けている。激しい戦闘の音も聞こえる。
送り込むに際して選んだのは、部隊の中の問題児達。趙熊班だった。この班は盗みや婦女暴行まがいの行為で、各々がすでに処刑されていてもおかしくないような面子だった。呼び出した班長の趙熊伍長は軽いあくびをしながら馬季常の話を聞いていた。横で様子を見ている馬幼常はいらついている。趙熊は聞き終わると、ギロッとこちらを睨み「好きにやらせてもらうぜ。」とだけ言った。
「どこの傭兵気取りだ。直属兵として監視していただけなんだぞ。ボケ。」
剣の柄に手を掛けようとした弟の幼常を季常は手で制した。だが、言う事は言う。
「好きにやって貰って構わない。ただそれは戦闘に関しての話だ。いいか。戦闘以外で何かおかしなことをしてみろ。今度こそ軍法会議で処刑だ。」
「けっ。分かったよ。」そう言って奴は去って行った。
「失礼な話だが、場合によっては彼らが捨て駒となっても良いと思ってしまった。」
趙熊が去ってから、馬季常は吐き捨てるように言った。
「全く秩序もへたくれもない輩だな。さすがに温厚な兄貴も頭にきたか。」
弟、幼常が軽く弄ってきた。薄気味悪い森の中。人間的にまともな兵士の生命を贔屓したい気持ちになるのが人情だ。
激しい戦闘の音はその後も続いたが、やがて収まり、不気味な静寂が森の中を支配した。嫌な勘は見事に的中した。果たして10分後、森の奥でまた奇妙な騒音がした。木々のざわめき、何かが飛翔する音、人間の苦悶の声。前進中の兵たちに動揺が走っているのが分かる。さながら芝居や小説などのホラー作品に出てくる森のような状況だ。皆勇ましい軍人から恐怖におびえるただの人間に戻って、生唾を飲み込んでいた。
それからさらに数分後、状況が判明した。班の唯一の生存者が戻ってきたのだ。
それは当然、他の4名が還らぬ存在となったことを意味している。唯一の生存者、趙明という小柄な男は、趙熊の腰ぎんちゃく、第一子分だった。手癖が悪いだけで、もともと小心者の彼は、壮絶な光景に腰を抜かして逃げ帰ってきたようだ。見事にホラー作品の完成度を上げている。話を聞き出したが、興奮していてどうにも要領を得ない。
馬季常は弟、幼常中尉の力も借りて、聞き出した。要点をまとめるとこうだ。
「手前の森で李徴少尉の部隊は全滅した。ほぼ全ての帝国兵もそこに死んでいる。だが大和一郎の死体は存在しない。第一そのあとに、趙熊班は大和に遭遇した。それで自分(趙明)以外の趙熊班は大和に殺害された。生存者は大和以外に女が一名いた。そのまま生き残っていた二人に殺されそうになったが、自分は運良く逃げおおせた。」
というのだ。始終何かを隠している様子が少し気になったが、聞き出せた情報の方が重要だったので、目をつぶることにした。
想定の範囲内ではあるが、かなり最悪に近い結果だ。多大な被害を被っておきながら、大和を仕留めることが出来なかったようだ。もはやこれが弔い合戦なのか、戦略目的のための戦いなのかすら分からなくなってきた。それでも胎を決めて、全軍に作戦の継続、前進の指示を出した。所詮はあと二人。
徹底して大和一郎を追い詰めるのだ。
大和一郎を追跡しているつもりの、馬季常。大和一郎として追跡されている主人公、山田驍。お互いの邂逅の時は近い。
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おまけ 軍隊の規模
部隊 兵数 隊長の階級
中隊 200 大尉
小隊 50 中尉・少尉
分隊 10 曹長・軍曹
班 5 伍長
参考にしてください。




