東方鋼魔伝 ストーリー004
異世界に転移した主人公、山田驍。「連邦軍」のならず者たちから助け出したその女性は「帝国軍」の軍人だった。彼女を伴い、隊長を弔う山田驍。そしてそこは、伝説的な「継承」の場となった。
ストーリー004
三號手記 継承
~神聖な場所~
今再び、隊長が眠る場所に戻ってきている。彼女にとっての大切な隊長。その人が眠る場所だから、やはり神聖な場所で正解だった。人間にも、ときに説明できない何かで正解を導き出すことが出来るのかもしれない。
彼女、小此木真凜伍長の上役に当たる小隊長、大和一郎中尉がそこに眠っている。安らかに眠るその横顔は、自分に瓜二つではあったが、よく見ると自分などよりもはるかに大人っぽく思えた。最期まで諦めなかったのだろう。右手は手ぬぐいのようなものを握りしめていた。その手は右わき腹の傷口を抑えようとしたものか、赤黒い血の色に染まっている。
後々知っていくことにはなるが、彼は屈指の軍人で、英雄的な存在だった。それで、先ほどの、「ならず者」の敵兵の恐れおののく姿に合点がいった。敵にも十分に認知されるほどの猛者。それだけの威厳を備えた全く別の男が眠っている。
そんな大和中尉の脇に彼女は跪いて手を合わせた。
彼女の中で様々な感情が生まれ、ぶつかり合い、心の拠り所を探しているように思えた。
当然、隊長の死にまざまざと向き合った絶望感が大きいだろう。自分が出現したことで、彼女にとっては一時的に隊長が復活したことになった。切迫した状況の中で彼女は希望的に錯覚したのだ。その反動による失意も大きいだろう。
隊長の奮戦もあって彼女は命拾いしてもいるし、純粋な感謝の気持ちもあるだろう。先ほど口に出たように、隊長の命令を遵守しなかった自分を責める心もあるのだろうか。それ以外にも、自分の知りえない二人の間の情緒があるかも知れない。
なんて、そんなくだらない嫉妬心のようなもので心焦がすのは不謹慎に尽きる。というか、どうしてそんなに彼女の内面に興味をそそられるのか。自分自身では説明できそうにない。本当に自分はどうしてしまったのか。
閑話休題
ひとえに、隊長の奮戦と無念の死、それに続く、自分に起こった奇跡で今こうしている。襟を正し、ただ純粋な感謝の気持ちで、隊長の安らかな旅立ちを祈ることにした。
その瞬間だった。後にも先にも、こんな経験は人生に一度だけだった。
彼岸に旅立つ大和隊長の声を自分は聞いた。
それはなぜか目の前の亡骸からではなく、舞い散る山桜の花びらを介して伝わってきた。
後を頼む。皆を守ってやってくれ。
極端に早咲きの花だったのだろうか?全体としてせいぜい三分程度しか咲いていない山桜。ほとんどの花は、まだ蕾の状態で、これからの開花を待っているような状況だ。そんななか、真っ先に散っていく花弁は、大和隊長の人生を象徴しているかのようだった。はっとした自分はその声に必死に問いかけた。
「教えてください。この力は。私が得たこの力は、あなたがくれた物なのですか?」
それと同時に一陣の風が花びらを虚空へと吹き上げる。まるで送り出すかのように。自分はさらにすがるように、その花びらの行方を目で追っていった。答えを求めて。しかしその問いに対しての答えはついに還ってこなかった。自分はただ虚空を見上げた。
空気の冷たさを今更に実感した。でもすぐ横から、暖かい声が援護してくれた。
「きっとそうですよ。私は信じます。」
小此木伍長だった。
だから自分は、大和隊長が自分に語り掛けた言葉を彼女に教えた。そして彼女に決意を述べる。自分でも驚くほど力強い言葉で。
「私が、山田驍が、大和一郎中尉を継承します。彼の代わりに必ずや生き抜きます。」
それを聞いた彼女は一瞬驚き、それでもすぐにほほ笑みを取り戻した。そのほほ笑みは、慈愛に満ちていた。自分はその慈愛に受け入れられたのだった。
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~継承者の旅立ち~
だがそれもわずかな間で、彼女は何かに気づいたように急に真顔に戻った。
そのまましゃがみ込むと、ガサゴソと足元で作業(?)を始めた。ひょっとして、亡骸の身ぐるみをはいでいる?意外な行動に、自分は面食らった。そしてなんと彼女は、重要そうな道具類その他、彼の持ち物すべてを自分に捧げた。
「お願いします。これからは、驍くんがこれを持つべきです。」
そうだった、自分は己の間抜けさに苦笑いした。
これから自分は「大和一郎」として生きていかなければならない。そのためには、気持ちだけでなく、具体的に彼の立場も継承しなければならない。なりすまし行為に若干の後ろめたさを一瞬思い出しつつ、それを超えて自分を突き動かすものがある。
「生き抜いていかなければならない」
そして
「皆を守っていかなければならない」
すでに継承は始まっていたのだ。自分は一人の女性を敵から守ってしまった。それまでこの世界で起こってきたことは、単なる偶然の連続ではないに違いない。暴れ流れる川の水に飛び込むかのように、この運命に飛び込め。そう命じられている。伍長と同じ、紺色の軍服にそでを通す。サイズは測るまでもなくぴったりだ。ブレザーのような近代的なその軍服は、どこか近未来的な感じがする粋な物だった。決意として述べたことが今、覚悟という形に実体化した。
ガーターベルトを着用し、大和氏の佩刀である「備前長船」の一振りを差す。重い。彼の背嚢に道具類など重要な小物を移して背負った。とてつもなく重い。隊長歴が数分の軟弱者には重装備が辛いが、なんとか準備は整った。先ほどまで意識していなかったが、彼女、小此木伍長はずっと背嚢を背負っていた。
普段鍛えられているからだろう。侮れない。
と、そこで気になった。この恩人、大和一郎氏をこのままにしては置けない。
本来ならばこの森の中に眠る者たち全員を弔いたいが、そこまでする余裕はなさそうだ。でもせめて大和氏だけは弔ってあげたい。自分は伍長にその旨を伝えると、彼女もそれに納得したようだったようだ。なかなかの重労働だったが、やがて簡素な墓が完成した。自分は満開の山桜の枝を一枝折り、その盛り土のような墓に手向けた。
再び二人で手を合わせて黙とうした。
このように、信じがたいことに、自分は異世界に来てしまったらしい。そして、とてつもない能力を手に入れてしまったらしい。その能力で、いきなりの死亡を回避して、女性を助けたうえで生き延びてしまったらしい。さらには、大和一郎氏という屈指の英雄の存在を継承して(英雄になりすまして)この先を生きてゆくことになってしまったらしい。こうして、自分の異世界転移は、めまぐるしい変化と出会いによって始まった。
閉じていた両目を開いた瞬間、まったく新しい自分になっていると実感した。
自分が大和一郎中尉、小隊長、歴戦の猛者、そして彼女、小此木真凜伍長の何だろう。分からないが、今や二人以外に動くものの見当たらない静寂の森の中で、共に生き抜いていく存在となった。彼女を支えたいし、支えられたかった。だからなのか、「行きましょう。」と言い、彼女に手を差し伸べていた。
気分的に高揚していたからなのか、今思い返しても気恥ずかしいが、それは自然だった。
そして、それは正解だった。彼女はその手をいとも自然に握り返したのだった。
残されたわずかな夕陽の光を頼りに、二人は小走りに撤退を再開した。彼女の言うところによると、東に進むと、自分たち帝国軍の勢力圏に戻れるそうだ。このあたりは辺鄙な場所なので、さすがに細かい地理は自信がないとのことだ。ただ、明らかな目印もある。今いる場所のすぐ南を斐伊川が流れている。東に向かうと川の上流で、途中に堰堤、現代でいうところのダムがあるので目印になるだろうと。そこを目指すことになった。
その選択が最大の危機を呼び、なおかつ彼女、小此木真凜の覚醒を促すことになる。
そんなことを知る由もなく、手を繋いだ二人の影は夕陽の差し込む森の中を走り出した。
英雄、大和一郎の全てを継承した主人公、山田驍。助け出した小此木真凜伍長を伴い、撤退を再開する。その先にあるのは斐伊川、そしてそこに架けられたダム。そのダムが、2人にとって最大の試練の場となる。




