ストーリー053 邪神ドゥルジ (七尾城跡の戦い②)
ストーリー053
邪神ドゥルジ 七尾城跡の戦い②
~そう名乗ることにした~
連邦軍記録より
3日後の5月17日の朝、連邦軍が七尾市街の南側、国分寺近辺に到着した。帝国側は2個連隊が市街地に展開しており、それを救援するために輪島、穴水の各連隊が移動中であるとの情報を得ている。手前から出発した穴水の部隊が到着するのにも、まだ2日程度かかりそうである。穴水の部隊が到着すると、市街地内と外、両面から攻撃される脅威となる。短期決戦が定石であろう。ただ、全軍指揮を委ねられた彼女は兵の疲れも気にしていた。
彼女はドゥルジと名乗っている。
名門の出身でありながらも、複雑な出生から、その過去を呪っている。そのため、本名である張鶴の名をあまり使いたがらない。碧の黒髪は前髪も長く垂れ下がり、左片眼はほぼ隠れているが、その左片目には十字架がデザインされた眼帯を付けている。けだるそうな深いグレーの右目はどこを見ているのか分かりづらい。整った目鼻立ちをしていて、少女感を感じさせるほど、随分と若く見える。
地球連邦・青海方面軍 帝国軍 第2師団(七尾守備部隊)
第8旅団 9000 魏延准将 上杉和哉少将
第3旅団 9500 ドゥルジ准将 第1連隊 5000 坂井護大佐
第5旅団 10000 宋白梅 第2連隊 4800 竹中大佐
准将
総兵力 28500 総兵力 9800(5/17時点)
今回の全軍指揮を委ねられた彼女、ドゥルジ准将は自分の旅団にも休息を取るように勧めると同時に、それを他の旅団の准将たちにも伝令した。ところが両准将から返って来た伝令はそれぞれ、即時攻撃を提案するものだった。はやる気持ちもわかるが、それが今までも命取りだった。装備の近代化に従い、行軍はより鈍重になってきた。重い鉄の塊、大砲、銃火器。神経を使う火薬の輸送。ほんの数十キロ移動することが、戦闘以上に重荷に感じる。
第5旅団は回復術師を多く抱えており、他の旅団の助っ人として活躍していると聞いている。第8旅団は2年前に行われた、青海方面をかけての決戦、「第1次戦場ヶ原の戦い」で活躍して名を上げた。あれは激しい戦いだった。抵抗する帝国軍の士気は凄まじく、多くの兵を失った。第8旅団も未だに定員を大きく割り込んだままだ。それでも何とか自軍、連邦軍は勝ち、青海市を占拠することに成功する。
いずれも情熱的な将軍のようだが、兵の状態はちゃんと見ておいた方がいい。彼女は将軍たちの提案を拒否し、全軍に休息を命じると、自らも天幕の中で浅い眠りに落ちて行った。
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~歴史的考察~
天幕の外で会話が続いている。全軍休息と言っても、寝ずの番、見張り役は起きている。彼らが集まって暇つぶしにお喋りをしている。
「おめぇ、教養がないべ。」
「なんでぇ、じゃあおめえはいったいどんな教養があるってんでぇ。」
「歴史だ、歴史。これを知るオイラは知識人ヨ。」
「建国の話とかならオラだって知っている。馬鹿にするんでねぇ。」
「なら、説明してみろや。」
「ああ・・・時は100年前、一人の英雄が中華の地に舞い戻ったぁ。偉大な英雄は『自由の旅団』を率いて、百万の大軍を打ち破る。音に聞く『孟津の戦い』だぁ。彼は天下に言う。我は全ての民の自由と平等、平和を希求する者であるとぉ~。」
建国の英雄、董光机は5000とも10000ともいわれる寡兵で清朝の大軍を打ち破る。その彼の率いた兵こそが「自由の旅団」と呼ばれる軍勢だった。正暦1701年、その戦いを「孟津の戦い」と言う。清朝は彼を葬るためにさらなる大軍を送るが、この頃には彼に従う民兵が各地に誕生していた。各地の反乱軍によって、清朝の軍勢は次々討滅されていく。3年後の正暦1704年、北京に攻め上った彼は清朝を滅ぼし、近代的国家「地球連邦」の樹立を宣言した。
「なんだおめぇ。紙芝居の口文句そのままじゃねぇか。」
『オイラ』が突っ込む。
「紙芝居は間違っておらんじゃろ。なら、おめぇは何を知っているだ?」
『オラ』は怒った。
「その話の続きを知っている。英雄は皇帝にならずに、皆平等だと言った。だが彼の有力な仲間たちは好き勝手を始めた訳ヨ。おめぇも知っとろう。」
「ああ、十二常侍のことだな。オラも知っとる。」
董光机は歴代皇帝が治めた歴史を終了させ、世界に新しい風を吹き込んだ、かに見えた。だが実際には、彼の息子や側近、「円卓の騎士」とも「十二常侍」とも呼ばれる実質的な貴族たちによって「地球連邦」は思うがままに運営されてゆく。
「そうよ。彼らの子孫たちは今でも超大金持ちの貴族よ。一般人は将軍になるのも一苦労なのに、十二常侍の出身だとすぐに将軍に成れてしまう訳ヨ。」
「なるほどな。それでうちのボスもあんなに若けえんだ。一体幾つなんだろう?」
「まだ20代半ばだと聞くぜ。つまりはお姫様。呆れた話ヨ。」
その会話は、天幕の中で微睡むドゥルジ准将の耳に届いていた。つまみ出して、処刑してもいいだろうか?と一瞬思ったが、国の法律がそこまでは好き勝手させてくれない。それに、彼女は自らの出身を呪ってもいる。複雑な気持ちで聞いていた。
「お姫様かぁ。確かにそんな感じだべな。しかし、お姫様も戦争に引っ張り出されて大変だな。本当なら、お城で優雅に暮らしたいだろうになぁ。」
『オラ』なりに、鋭い視点だった。「全地上の太平天国」というその思想のもと、英雄、董光机の指導する「地球連邦」は近隣のあらゆる国家を攻め滅ぼしていった。それは彼の死後何代も続いた。「円卓の騎士」/「十二常侍」の末裔である名門各家はその意思、思想を引き継ぎ、世界各国を武力で征服してゆく。あれから100年。今や地球連邦はその名に恥じない世界最大版図を誇る超大国に成長し、さらなる侵略の魔手を、太平洋地域、地中海地域にまで広げようとしている。
「そうもいかん。奴らお貴族様も戦う運命に呪われている訳ヨ。地続きのところは全て敵。これが大陸国家の運命って訳ヨ。」
「大陸国家?なんだべ?」
「ああ。ユーラシア大陸の国はそう分類されているらしい。」
恰好つけて言ったものの『オイラ』にもピンと来てはいないようだった。
奇しくも3年前、「蓬莱道」と呼ばれる地峡が韓半島と日本列島の間に出現した。(日本人は「黒道」と忌み嫌う)
それまで100年の間、海を挟んで存在し、国力も高い「日本帝国」を「地球連邦」は特恵同盟国として、その存続を認めてきた。だが陸続きとなると話は別である。一部の「円卓の騎士」の末裔の中には積極的な倭国すなわち「日本帝国」の侵攻計画を企てるものがいた。彼らの計画に則り、作戦は発動する。陸軍の4個方面軍、および海軍の計45万人が動員され、政治工作の裏で作戦を開始した。
しかし自分がこんなに敵国深く攻め入り、最前線で指揮を執ることになるとは、当初、お姫様ドゥルジも思ってもみなかった。
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~舐められた姫君~
早朝に到着して、現在昼の13時。充分に休息は取れただろう。そしてもうすぐすると客人が来る。
「入らせてもらうよ。」
年季の入ったやや低い女性の声が本営の天幕に響いた。第5旅団、宋白梅准将が側近の若い女性を連れてやって来た。深いほうれい線が年季を表していたが、身ぎれいなレディだった。回復術士「天仙娘々(テンセン・ニャンニャン)」の能力者。側近の女性もそうだろう。帝国の連中が言うところの「モリビト」と同じだと考えられる。
ほぼ同時に、「う~っす。」と小馬鹿にしたような中年男性の声が入って来た。
何とも締まりのない三者会談の出だしとなったが、重要なことだ。締まって行こう。
「ご足労頂いて申し訳ない。だが、作戦に入る前に意思統一をしておきたく思いまして。」
主導権を握ろうとドゥルジは先に切り出した。ふぁ~~と中年男、魏延があくびをする。
それを見なかったことにして、続ける。
「両将は即時攻撃を提案されたが、兵のパフォーマンスも重要と考えて休息を入れた。充分回復もできたので、これから短時間で決着をつける考えです。」
「たっぷり休み時間をくれてありがとう。さっさと始めようや。」
いきなり宋白梅に嫌味を言われる。年齢をかさに相手のマウントを取る辺りは、男性よりも女性の方が顕著なのではないだろうか?
「まぁ、まぁ。確かに2日後には穴水の軍勢も到着します。その前に結果を出さなければ厳しいでしょう。だが、それでも七尾に2個連隊しかいないのは、下準備が功を奏しているおかげです。」
ドゥルジは昨年冬の能登侵攻のことを話に差し込む。確かに敵の兵力が分散しているのは、昨年冬のドゥルジによる侵攻があってのことだ。
「下準備?ああ、冬の時のね?なるほどね。」
ストレッチをしているように首を回して魏延が言う。
「重ねて言いますが、だらだらと攻めても仕方がない。体力が万全になったからには、一気に、全力で片を付けて下さい。」
テンポよく行こう。近代戦でも、とにかく高地を抑えることが先決だ。それは今回の市街戦ぐらいの広さがあれば例に漏れない。ドゥルジは七尾市周辺のみのさらに詳細な地図を出して説明する。
「地図をご覧下さい。この通り、市街は東西に長いが、帝国軍は西側の川で囲まれた域内に立てこもっている。そして、その一番南に小高い丘があり、前時代の小城が建っているようです。敵もそこからこちらの動きを観察しています。」
「なるほど。じゃぁ、この小城が目標地点と言うわけか。」
魏延がストレッチをやめて言った。
「ご明察。で、この目標地点に向けて3方向から一気に攻めかかる。左は北西から太い川を渡ってまずは市街地の北側に侵入。一番遠いルートになる。中央は真南から、直接この小城までの最短距離になる。右は南東から、中央の部隊とほぼ並ぶ格好で市街地への侵入を目指す。
中央と右は目の前の川が細いから、正直なところこちら側が本命と言えましょう。」
「誰が、どこから攻める?という役割分担をしなきゃだね。」
宋白梅が先を読んだように言う。
「中央はうち(第8旅団)がやりたい。左右は任せる。」
自己中な中年は先制攻撃とばかりに言う。一番危険なポジションを選ぶとは、おそらく相当な自信があるのだろう。
「じゃ、あたしたち(第5旅団)が右をやるわね。中央の第8が一番やばいから、回復なんかのサポートもすぐ隣の方がやりやすいでしょ?」
宋の指摘の通りでもある。おそらく真南の最短ルートは、相手も一番に固めてくる可能性が高い。激戦地となるだろう。なので回復術師の豊富な第5旅団のこの申し出はありがたい。
「それは助かります。将軍のお考えの通りでお願いします。」
ドゥルジは宋白梅の顔を立てる。
「これで決まりだな。じゃぁ、あんたらもしくじんなよ。」
そう言って、魏延は風のように去って行った。
「じゃ、こっちも遅れんように出んとね。」
宋が側近を引き連れて去って行った。
「では私たちが左か。一番遠いから、すぐにでも出発するか。」
独り言のようなトーンで、周りの部下たちに指示する。どっと疲れた。こうして、ドゥルジは両将軍にどこまでも舐められた感じがして、悶々としたままの気持ちで会談は終了した。




