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遥か眼下に望む (七尾城跡の戦い③)

ストーリー054


帝国戦闘記録 遥か眼下に望む (七尾城跡の戦い③)




~難攻不落~



 七尾城跡


 上杉少将達は遠く眼下を望んでいた。眼下には平野部、その先に七尾湾とそれにへばりついた七尾市街が見える。七尾市街の南側に当たる平野部には連邦の大軍が見えた。本営のある位置は国分寺跡の辺りであろうか?こちら七尾城跡と、市街地の中間あたりに相当する。ここからの距離、おおよそ2.2~2.3㎞か。


 3日前の会談で、第6師団の那珂川少将をはじめとするその場に同席した各将官に対して、上杉が示した場所はこの場所だった。かつてここは上杉の遠い縁者にあたる戦国時代の英雄、謙信公ですら実力では攻略できなかった堅城だ。戦国時代には、「七尾城」としてこの地域を統治する者の城だったが、幕府時代には破棄され、今や寂しげに石段や石垣の構造が残るだけだ。近代軍隊に対して、その構造がどれほど効果を発揮するかはやってみないと分からないが、地理的に、切り立った高地にいることは十二分にアドバンテージだ。また、こんな不便な山の上に兵が潜んでいることなど想定していないに違いない。那珂川少将が言ったように、伏兵作戦としても成功したようだ。


「おっかさん、一昨日のうちに全部担ぎ上げてくれてありがとう。」


 おっかさんとか呼ばれているドウジの連隊長、竹中みどり大佐は第2連隊の隊長だ。


「折角お借りした加納砲を敵に見つかっては意味がないですからねぇ。」


「ああ。もし昨日まで作業が遅れていたら、ここも早速発見されていたところだ。昨日午後、偵察要員が敵の偵察とも遭遇している。」


「敵も慎重ですね。指揮官は相当の切れ者でしょう。これぐらいの隠し玉を持っておいて正解ですよ。」

 少しきつくなった軍服の腰回りに両手を当てて竹中は頷く。


「情報が確かなら、昨年冬に進攻してきた女将軍だということだ。市街地だけに展開していたら、今回は守り切れなかっただろう。」


 総勢3万に迫る大軍。分散してしまったこちらの部隊。今までにない危機的状況だった。


 ドウジの女性陣や力を供与された男性陣、カバネ達の怪力を柱に第6師団にから譲り受けた加納砲や諸々の物資を何とか一昨日のうちにこの山上に担ぎ上げられた。急いだのは、もちろん輸送しているところを敵に見つからないためだ。事実、翌日からは敵の偵察も七尾周辺まで到達し、高度な情報戦の様相を呈し始めた。伏兵がバレては効果半減どころではない。


「何か増設する物とかあれば、いつでもおっしゃってくださいな。」


「ああ、とりあえず今は問題ない。英気を養っていてくれ。」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



~借りて来たもの~


 上杉は陣地内を回る。この山上、七尾城跡に第2連隊のうち2個大隊と、第6師団(北洋艦隊)から借り受けている部隊を配備した。総勢2000と少し。堅固な要塞を守る人員としては十分だろう。城壁の上に並ぶ加納砲はまだ樹木などで隠されて偽造が施されている。その周辺には海軍の軍服が目立ち、その中で一人の女性士官が彼らに指示を飛ばしている。第6師団の砲術長のひとり、呉吹雪(くれ・ふぶき)大尉だ。


挿絵(By みてみん)


「立派な加納砲(かのうほう)だな。射程はどれくらいあるんだね?」


 上杉は呉大尉に話しかけた。彼女は第6師団から借りて来た客将だ。こんな加納砲、第2師団ではまだ誰も撃ったことがない。だから、それを扱う専門家たちも加納砲とセットで借り受けたのだ。


「そうですね。有効射程は1㎞がギリギリですが、最大射程はその10倍もあります。」


 彼女は風になびくきめ細やかな栗色の髪を手で払って答えた。有効射程は目標に確実に命中させる可能距離だ。戦術的に、何かに命中させたいわけではないので問題ない。




「有効射程は超えるが、十分に効果を発揮できる距離感ということかな?」


「はい、問題ないかと思われます。」


「揺れる艦船の上と違い、陸(おか)は長閑なモノだろう。少し役者が勝ちすぎているかな?」


「ですが閣下、艦船の上に慣れている加納砲ですから、陸酔い(おかよい)でもしないか気がかりではあります。」


「はっはっは!!」


 爆笑する上杉。機転の利くジョークを放つ彼女に上杉は好感を持った。彼女もにこやかに微笑んだ。先ほどまでのブリーフィングで市街地に残っている友軍の配置については確認済みである。双眼鏡で見る限り、午前中の間、連邦軍には動きはなかった。休息をしているのだろうか?ごく一部の兵だけが動いていることから、あれは寝ずの番だろう。そう予想された。


 ならば撃つのは今だろうか?それは違う。


 弾丸も無限ではない。最も効果的に活用させてもらう。



 最初に決めた手筈通り。



「相手が動くのはもう少ししてからだろう。開宴まで今しばらくお待ちを。」


 上杉も少しおどけて言うと、その場を去った。


 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~まだ、その時ではない~



 先ほども運用を話し合ったが、ここからの砲撃は着弾点を見極めながら補正して、より目標に近づけていく。そんな手法になりそうだ、とのことだ。誤って、味方のいる市街地に打ち込む訳にはいかないので、遠慮気味にかなり手前を目標にして砲撃を開始することになるだろう。それが、有効射程範囲外ということの意味らしい。


 敵に察知されてすぐに対応されては、この砲撃の効果もさして大きくはない。彼らが市街地への攻撃を開始した時に砲撃を繰り出すのだ。



 双眼鏡で偽装のために立てている木の枝などの隙間から覗いてみる。まだ連邦軍の陣容は動いていない。今はとにかく「待ち」だ。そう思って、上杉自身も昼食を取ることにした。仮の本営で半保存食のような食事にかぶりつく。伏兵しているのだから今は火も焚けない。握り飯も固くなっているが、これが戦場。文句を言わず頂く。だが皮肉なもの。食事を始めてすぐに、敵が動き始めた。


 半分残った握り飯を冷たい作り置きの味噌汁で流し込みながら、上杉は再び双眼鏡を覗き直す。



 目測で全軍の1/3程度が川の北岸を進んでいくのが見えた。現在13時ちょっと過ぎ。数おおよそ1万。おそらくは連邦の3旅団のうちひとつが、ほぼ別行動をとっているという状況だろうか。程なく、残りの2/3も前進を開始した。じわじわと市街地に迫っている様子が伺える。相手は多勢。3方向というか、北西と真南+南東の2面から攻撃が加えられるわけか。自分が攻め手でも当たり前に同じ行動をとるに違いない。上杉は手元の市街地近隣の地図と眼下の地形を重ね合わせて、敵の動きを理解した。


 こうしてはいられない。砲撃の開始を予感した時に、伝令が走り寄って来た。


「呉大尉が指示を求めています。敵軍が移動を開始しましたので、砲撃開始のタイミングを指示してほしいとのこと。」


「まだ準備、点検で済ませておくよう。偽装も手を付けずに。指示は追って下す。」


 それを契機に上杉はせわしなく各部隊に指示を飛ばし始めた。




 遠く海岸線沿いの市街地。その周辺を雲霞の如く連邦軍の兵士が取り囲み始めた。対して、市街地には我らの友軍、第2師団の第1連隊全軍、および第2連隊の一部を合わせた約8000が立て籠もり、これを迎撃しているが、市街地はほぼ平城に近い。周囲の川も真南の側は細く、すぐに敵の侵入を許すと予想される。自らの4倍に相当する大軍に攻められて相当に厄介だろう。それでもまだ戦闘音が聞こえ始めてより約1時間を過ぎた辺りだ。大きな変化はここから見うる限りでは起こっていない。


 手元の時計で時刻を確認する。15時40分。頃合いだ。上杉は砲兵部隊の持ち場にやって来た。


「もう隠れる必要はない。全軍、偽装解除!」



 一切の偽装を取り払い、今、加納砲の列が七尾城跡の石垣の上に現れた。



 第6師団の砲兵たちが、砲兵長の呉吹雪(くれ・ふぶき)大尉の指示のもと手はずを整える。一部まだ射出方向の修正をしているものがある。まだだ、第1斉射はそろい踏みでいきたい。皆の間にもどかしい気持ちが蔓延する。ようやく整った様子だ。呉大尉がこちらに頷きかける。


 上杉は耳に栓をすると、一歩前に出て、大声で号令を発した。


「発射!!」


 耳栓でくぐもった聞きなれない自分の声が、それでも空気を揺らして伝わっているのを感じる。


 ドンドンドンドン!!


 地面が揺れた。砲撃の威力とはここまでのものか。このまま、この切り立った山上が崩れるのではないかと心配する。


 シュンシュンシュンシュン。


 大気を切り裂いて飛ぶ飛翔音がそのあとを引き継ぐ。やがてはるか遠くの市街地手前に、土煙がいくつも立ち上った。


 ドンッ ズズ~ン。


 激震がここ、発射地点にまで戻ってくる。連邦軍の後方の部隊で混乱が起きているのが確認できる。「めくら滅法」の斉射だったが、敵の一部をとらえている。大成功だ。


「敵陣に命中。成功です。」呉大尉が晴れやかな表情で報告する。


 わああああ!陣中に歓声が沸き上がる。


「見事。続けて第二斉射の準備を。真南の部隊に攻撃を集中せよ!」


「はっ!」彼女も、周囲の水兵たちも淀みなく動いて、斉射の準備を進めてゆく。


「全砲門、コンマ1上げ、9番、10番とも右にさらにコンマ2。冷却、怠るな。」

「イエス、サー!!」


「準備、整いました。」


 


「発射!!」


 ドンドンドンドン!!



さあ来い。俺たちはここにいるぞ。そんな地べたの軍勢じゃなく、ここにいる俺たちを倒さない限りは貴殿らに勝ちの目はないぞ。上杉和哉は心の中で連邦軍の司令官に語りかける。地獄へのエスコートは今始まったばかりだ。


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